富士通研究所は9月13日、磁界共鳴方式のワイヤレス給電技術として、さまざまな大きさの複数モバイル機器を効率よく開発することが可能となる送受信デバイス解析・設計技術を開発したことを発表した。同技術の詳細は9月14日より開催される電子情報通信学会 2010年ソサイヤティ大会にて発表される予定。

ワイヤレス給電技術には、主な方式として電磁誘導方式と磁界共鳴方式があり、電磁誘導方式は、送電と受電コイルの間の磁束によって生じる誘導起電力を利用するもので、すでにコードレス電話などで実用化されている。しかし、誘導起電力を発生させる必要があるため、距離が離れると電力が届かないほか、送電側と受電側のコイルの位置がずれると受電側で送電側の磁界を取れないことから、電源ケーブル接続の専用充電台と同様、専用台の上に置く必用などがあった。

ほぼ1:1で送電側と受電側が接触しているような近接給電であれば、どのような方式(電波やレーザによる方式などもある)でも問題はない

一方の磁界共鳴方式は、送電および受電デバイスに取り付けたコイル(L)とコンデンサ(C)をLC共振回路として用いることで、発生する送電と受電のデバイス間の磁界共鳴によって電力を伝送するというもの。

共振器同士の磁界共鳴が発生するため、ある程度の距離があっても送受電が可能であり、また、送電コイルの真上に受電コイルがなくても(ズレていても)共鳴現象により電力が届くため、複数の機器に同時に給電することが可能という特長を有している。

磁界共鳴方式ではコイル同士がきっちりと上下(左右)に向き合っていなくても、電力の送受が可能。また、送電できる電力は若干ながら電磁誘導方式に比べて低くなるが、原理的には同程度まで引き上げることができるとのこと

すでに多くのメーカーなどが開発を行っており、デモも一部展示されたりしている。しかし、磁界共鳴方式の送受電デバイスの設計には、機器の大きさからコイルの大きさを決定し、それに最適となるようにコンデンサの容量を決定しており、この送電デバイスと受電デバイスのコイルの形状に依存する浮遊容量の影響や、機器の筐体やバッテリなどによる電磁気が、送受電デバイス間の共鳴現象に影響を与えるため、それを解析する必要がある。

携帯機器などは小型・薄型の筐体の中にバッテリや回路基板などが搭載されており、そうしたものからの磁気的な干渉が受けやすいほか、複数の機器が並べられると、それぞれの受電デバイス同士が時期的に干渉を引き起こすことから、送受電能力が低下する課題がある

通常、この解析にかかる時間は、一般的なハイスペックのPC(クロック3.33GHz、RAM48GBの64bitマシン)を用いても、送受電デバイスの基本的な解析だけで約24時間程度で、全体の解析にはさらに24時間程度かかるなど、相当な演算時間が必要となっていた。さらに、小型・薄型に送電デバイスをすればするほど、周辺の電磁気的な干渉を受けやすくなるため、よりモデリングの精度を向上させる必要が生じ、さらなる演算時間の長期化が生じるという課題が生じていた。

今回、同社では2つの技術を開発、従来の解析・設計時間に比べ1/150の時間に短縮することを可能とした。1つ目の技術は、「コイルモデルを解析する電磁界シミュレータとコンデンサモデルを含めて共鳴状態を解析する専用の回路シミュレータを連成する」というもので、これにより異なる大きさのコイルを用いた複数の送受電デバイスを一度に正確かつ高速に解析することが可能となる。

富士通研究所 ITS研究センター 主管研究員 田口雅一氏

もう1つは、「給電効率を最大とする評価関数に基づいて、狙った共鳴条件に対して正確な設計条件を自動的に求めることができる技術」となっている。この2つの技術により、コンデンサによる空間キャパシタンスの値を電磁界分析で行おうとすると、精度を向上させるためにはより小さな空間範囲で計算する必要が出てくるが、コイルはそこまで細かく計算する必用がない。結果として、コンデンサ側を回路シミュレータで解析させ、電磁界シミュレータでコイル側を解析させ、それを連成させることで、短い時間での解析を実現することに成功しており、「例えば3つの受電コイルの配置に対する最適効率の解析については、(周辺回路などの電磁気・受電デバイス同士の相互干渉などの影響を考慮した複雑な計算が求められるため)通常1晩かかっていたが、今回の技術を用いることで10分未満で算出することができた」(富士通研究所 ITS研究センター 主管研究員 田口雅一氏)とのことで、同技術を用いることで、離れた位置への複数給電の設計も容易となるという。

コイルとコンデンサに関わる各種のパラメータに基づく解析を、それぞれ回路シミュレータと電磁界シミュレータで行うことで、高速解析を実現したのが今回の技術

開発した技術を用いて実際に3個の受電デバイスを配置する際に、効果的な受電効率とコイルサイズを10分未満で算出したという

同社では、デモ用途として携帯電話に受電デバイスを取り付けたものや、数cmオーダで離した風車を回すことが可能なデバイスを開発しており、「2012年には携帯機器向けに、実用化を果たしたい」(同)としている。ただし、今後、非接触給電に対する安全性の確認や、充電シーケンスの確認、ワイヤレス送電とバッテリとの相性の検証などが必要とするほか、「現行の電波法や電波防護のための基準(ガイドライン)では制約も多く、総務省が2015年にワイヤレス給電の実用化に向けた動きを見せているので、今後はそうした動きに合わせて、電気自動車への適用などを進めていければ」(同)としている。

富士通研究所が開発した今回の技術を応用した携帯電話への給電デモ

また、今後は「最大3個なら1~3個までのマージンを持たせる方法や、アクティブに共鳴条件を制御することで、複数の受電デバイスへの高効率な送電を実現するなどのアプローチを行っていくほか、微小化によるプリント基板やLSI間給電などへの応用も行っていく」(同)としており、同社が標榜するオープンイノベーションの下、興味のある外部の企業や研究期間などとも積極的に実用化に向けた協力体制を築いていければ、としている。

こちらは風車と豆電球によるデモの説明
実際の自由な給電としての豆電球とモータ駆動の風車を用いたデモの様子
指で電球を搭載した基板を動かしてみると、電球が暗くなるのが分かる。また、送電側に近づけると、電力を電球が多く取るので風車が止まる様子が見て取れる(wmv形式 3.25MB 11秒)