サイレックス・テクノロジー代表取締役社長の河野剛士氏

サイレックス・テクノロジーは9月7日、組込機器向けPCI Express(PCIe)対応無線LANモジュール「SX-PCEGN」を発表した。

同モジュールの販売に際し、同社の無線LANビジネス関連の状況について同社代表取締役社長の河野剛士氏は、「2008年後半のリーマンショックで一時的に売り上げは落ち込んだものの、その後は順調に回復しており、2010年上期で4億円弱となり、同下期も4億5000万円に迫る勢いで成長している」と売り上げが順調に伸びていることを説明、「2011年には既存製品だけで売上高は10億円を超すと見ており、それに今回のPCIeモジュールも加えることで、さらなる成長を果たせるとみている。また、2011年も1~2製品を新たに組込機器向けに出していき、さらなる成長を目指す」(同)とした。

サイレックスの無線LAN関連ビジネスの成長(左)と無線LAN市場の成長予測。無線LAN市場そのものは今後も成長が見込まれており、特に産業機器などの法人市場での採用が予測されていることから、同分野に注力する同社も売り上げ規模の拡大を狙っていくとしている

同モジュールは、PCI Express Half-Mini Card規格に準拠しており無線LANチップにはAtheros Communicationsの「Atheros AR9287」を採用。IEEE802.11b/g/nに準拠し、2×2 MIMOにも対応する。

PCIe対応無線LANモジュール「SX-PCEGN」の概要

サイレックスの執行役 開発本部長 兼 開発本部開発1部長 ワイヤレス企画開発室 室長である宮本裕明氏

多くのPCメーカーなどが無線LANモジュールを台湾ベンダなどから調達しているが、こうした現状について同社執行役 開発本部長 兼 開発本部開発1部長 ワイヤレス企画開発室 室長の宮本裕明氏は、「組込機器でAtomプロセッサを使いたいというカスタマも増えてきており、PCIeを用いた無線の需要も出てきた。こうした無線LANモジュールは、例えばAtherosが提供するリファレンスデザインを用いれば、誰でも製造はでき、特に台湾ベンダなどから調達すれば安く済ませることができる。しかし、台湾ベンダの多くはPC(ネットブックなども含む)向けビジネスが中心で、そうした製品のライフサイクルに合わせてモジュールを提供しているため、1年程度でEOL(End of Life:製造終了)となってしまう。また、品質もバラつきが大きく、改めて社内で製品チェックを行い、良品だけを使用するなどの手間がかかっている」とし、「当社では、それでは組み込み向けとしての要件を満たさないと考え、抵抗や水晶素子などの日本製部品への変更や製造時のテストプログラムの工夫によるキャリブレーション、パワーテーブルなどの柔軟な調整に加え、1台ごとのテストを行い、品質を重視して提供を行っている」と説明する。

また、国内の工場でのハードウェアの製造のほか、ドライバやソフトウェアの開発なども自社で行っていることから、「温度条件とか出力なども法規制の範囲内で要望に応じたレベルに変更することも可能」(同)という柔軟性を提供することで、多様化が進む組み込み分野でのニーズへの対応を図っていることも特徴となっている。

同社の無線モジュールは品質重視で、組み込み向けの各種カスタマイズに関する要望にも対応する

そうした柔軟性の1つとして、同モジュールではAtherosが開発を進めているコンピュータ同士をダイレクトに接続する「Wi-Fi-Direct」やWake-on-LANの無線版「Wake-on-Wireless」などの技術に対応が予定されているほか、Atherosが提供するLinux 2.6xやWindows 7/XP Embedded向けドライバのほか、μITRONなどのその他OSでのドライバ開発を簡素化できる「L2T Wrapper」を開発している。L2T WrapperはLinuxのドライバをRTOS上で動作させる技術で、「Linux to TRONの頭文字でL2T」(同)としているが、μITRONに限らず、多くのOSで活用することが可能だとしており、これを用いることでドライバ移植にかかる工数の削減が可能となる。

L2T Wrapperを用いることで、OSの違いを吸収し、ドライバ移植工数の削減が可能となる

さらに、同社ではこれまでの無線LANモジュールの開発および各国での認証取得の経験を生かし、そうしたノウハウの提供や代行業務も行うことで、組込機器メーカーの無線LANモジュール活用に向けたハードルを下げていきたいとしてしている。

SX-PCEGNはすでにエンジニアリングサンプル(ES)品によるサンプル出荷を開始しており、9月17日には製品の販売が開始される予定。また、Atheros AR9280を用いたIEEE802.11a/b/g/n準拠のPCIeモジュール「SX-PCEAN」の開発も進んでおり、こちらはES品のサンプルリリースを9月29日に、製品販売を11月8日にそれぞれ予定しており、パートナー各社とともに、AtomやARMコア搭載プロセッサなどでPCIeを用いるカスタマを中心に販売を進め、初年度で2億円の売り上げを達成したいとしている。

パートナー各社と協力していくことで、Atomとのセット提供などを行い組込機器への搭載を促していくという戦略

「SX-PCEGN」と「SX-PCEAN」の実際のモジュール(左)とSX-PCEGNの拡大画像(右)。モジュールサイズは26.7mm×29.8mm×3.0mmとかなり小さい