Mentor Graphicsは9月3日、都内で開催したEDA Tech ForumにおいてFreescale Semiconductorをサポートする商用のMentor Embedded Linuxプラットフォームを発表した。

これはMentorとFreescaleの間で締結された組み込みLinuxにおける戦略的提携関係に基づくもので、両社のテクノロジの上にプラットフォームを構築、包括的なオープンソースLinuxソフトウェアとツール、そして保守とサポートの提供が行われることとなる。これにより、統一されたワークフローが提供されることとなり、ユーザはFreescaleが提供するPowerアーキテクチャベースの「QorIQ」ならびに「PowerQUICC」プロセッサに対するアプリケーションを従来より容易に開発することが可能となる。

Mentor Embedded Linuxソリューションの概要

同プラットフォームは、現在QorIQ P4080およびP2020マルチコアプロセッサ、ならびにPowerQUICC MPC8572、MPC8377通信プロセッサをサポートしており、今後、Freescaleの低消費電力QorIQ P3041およびQorIQ P5020デュアルコア、P5010シングルコアプロセッサを含む64ビットe5500プラットフォームをサポートする予定で、2012年末から2013年初頭にかけてすべてのQorIQデバイスをサポートできるようになる見込みとしている。

Mentor Embedded Linuxは、ベンダに依存しない統合されたソリューションで、Freescaleの32ビットならびに64ビットプロセッサと互換性を持っており、Mentorでは、リファレンス・ハードウェア上のプロトタイプから、カスタム設計されたハードウェア上で実行されている商用Linuxおよび先端開発ツールへと、プロジェクトチームがシームレスに移行できるように支援していくとしている。

同Linuxを使うことで、半導体メーカーが提供する無償Linuxと商用Linuxとをシームレスにつなぐことが可能となる

また、主要な構成要素として、Mentor Embedded System BuilderおよびMentor Embedded EDGEテクノロジを搭載。System Builderはビルドエンジンで、OpenEmbeddedにMentorのIPを加えることで、あらゆるタイプのプラットフォームに対してカスタマイズすることが可能となっている。一方のEDGEテクノロジはEclipseプラットフォーム上に構築されており、Mentorの作成したプラグインで強化が行われている。これにより、カーネルとユーザ空間の行き来が可能となっており、デバッグ・エンジンならびにターゲット・エージェントと組み合わせることで、マルチコア/マルチOSのデバッグを、ベアメタル、カーネル、デバイスドライバおよびアプリケーションに対して行うことが可能なプラットフォームが構築できるようになる。

Mentor Embedded EDGEテクノロジを活用することで、カーネルとユーザ空間の行き来などが容易にできるようになる

さらに、テストおよび実証済みの商用品質のツールチェーン、あらかじめコンパイル済みの「ランタイム」ライブラリ、保守、サポートも提供される。System BuilderによりApplication Developer Kit(ADK)を生成、アプリケーション開発者はこれをEDGE IDEと統合した状態、もしくはコマンドラインから直接使用することが可能となる。

Mentor GraphicsのEmbedded Systems Division、Director,Open Source and Tools SolutionsであるBrad Dixon氏

今回の2社の提携の主な特長について、共通のワークフロー、ツールチェーンおよびカーネル・バージョンが組み込みLinux開発者に提供されることだと、Mentor GraphicsのEmbedded Systems Division、Director,Open Source and Tools SolutionsであるBrad Dixon氏は、提携の意義を強調する。

SoCなどの評価は一般的に半導体メーカーが供給する無償のLinuxディストリビューションで行われているが、このLinuxディストリビューションに対するサポートは基本的になく、商用Linuxへと移行する場合、またデバッグや性能評価などを行う必要があった。Mentor Embedded Linuxでは共通したビルド・メソドロジを提供することで、QotIQやPowerQUICCを活用するカスタマは、必要なソフトのみを選択し、製品に最適化されたコンフィグレーションとインテグレーションを行うことができるようになる。

フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンの代表取締役専務である伊南恒志氏

こうした取り組みについてフリースケール・セミコンダクタ・ジャパンの代表取締役専務である伊南恒志氏が「QorIQおよびPowerQUICCファミリ向けLinuxソリューションを強化し、カスタマの製品評価、試作開発から量産までの期間を短縮するため」とFreescale側からの意義を説明する。従来、QorIQおよびPowerQUICCを用いたLinuxアプリケーションの開発はFreescaleが提供しているたLinux BSP/開発環境で評価を行い、不足パッケージの追加や品質保証などをカスタマ側で開発した上で、アプリケーションを開発するという手間がかかっていた。一般的な商用Linuxを用いる方法もあるが、こちらも、FreescaleのLinux BSP/開発環境で評価をした後、カーネルが異なる商用Linuxへ変更、再評価を行った後、アプリケーションの開発という手間がかかっていた。Mentor Embedded Linuxを用いることで、こうした不足パッケージの追加やLinuxパッケージの変更などを行うことなく、アプリケーションの開発に行くことが可能となり、開発期間の短縮が可能となる。

「LinuxパッケージをFreescaleとMentorで共同開発することで、Freescaleの新デバイスへの早期対応が可能となるほか、開発から量産までシームレスにLinuxを活用することが可能となる。これにより、カスタマはFreescaleよりソリューションを導入すれば、すぐにアプリケーションの開発することができるようになる。ただし、その場合は無償提供のためサポートについてはMentorに手配する必要がある」(同)とのことで、ソフトウェアの規模により期間は異なるが3~6カ月程度の短縮効果が得られるようになることが強調された。

共通のLinuxを活用することで、Linux部分の評価や検証の手間が省け、その分、アプリケーション開発期間を短縮できるというのがFreescaleとしての見かた

「カスタマのLinuxシステムの短期開発の支援が可能となることに加え、市場投入までの期間短縮が可能となる。これにより、QorIQおよびPowerQUICCファミリ向け組み込みLinuxソリューションを推進することができるようになり、組み込み市場でのリーダーシップを確固たるものにできるようになる」(同)としており、今後もMentorとの連携を強化していくとした。