三洋半導体は9月3日、主に携帯機器をターゲットとした0.9V駆動のMOSFET「低電圧駆動MOSFETシリーズ」として14製品を開発したことを発表した。サンプル出荷は2010年9月から開始し、サンプル価格は50円からとなっている。また、2010年10月より順次量産を開始する予定で、量産規模は月産3000万個を予定している。

低電圧駆動MOSFETシリーズ

同シリーズは、独自技術を採用したことで、nチャネル、pチャネルともに0.9V駆動ならびに1.2V駆動を可能としており、1.2V駆動品には、VGS定格を従来機種と同等レベルの9Vとしながら低電圧駆動を実現、最大9Vまで対応することで、リチウムイオン電池や乾電池など多様化する携帯機器の電源に対応することが可能となっている。

また、従来、0.9V駆動の電圧ラインには昇圧回路をnチャネルMOSFETに組み合わせて用いていたが、今回pチャネルMOSFETを提供したことでマイコンからの直接駆動が可能となり、昇圧回路の不要化ができ、回路の省略化、回路簡素化が可能となる。

三洋半導体 ハイパーデバイス事業部 スモールデバイス開発部 課長の吉村充弘氏

携帯機器の電池および電源ラインについて、三洋半導体 ハイパーデバイス事業部 スモールデバイス開発部 課長の吉村充弘氏は、「1.8Vを超す電源の場合、1.8V以下の駆動への対応要求があるとともに、オン損失の低減も求められていた。また、1.8V以下の電源は現状、バイポーラトランジスタで駆動しており、ゲート駆動回路を追加する必要があり、駆動電力の増大や部品点数増加によるコスト増が課題となっていた」とし、そうした課題の解決に向けて、今回のMOSFETシリーズが開発されたと説明する。

しかし、低い電圧でオンするには、しきい値電圧(VGS(off))を下げる必要があるが、従来のプロセスでそれを行うと、ドレイン-ソース間リーク電流(IDSS)が増加してしまうために、今回同社では自社の第4世代トレンチプロセス(T4)をベースに、新たにIDSSを抑制するプロセスを開発した。具体的には、ゲート酸化膜を新構造にすることによる強度の向上を図ったほか、ゲート保護ダイオードを内蔵したことによる静電破壊耐量の向上、およびゲート抵抗がないことによる高速スイッチングの実現が図られている。これにより、pチャネルでVGS=0.9Vの時でオン抵抗は250mΩ(typ.)、nチャネルでもVGS=0.9Vでオン抵抗165mΩ(typ.)を実現した。

リーク電流を抑える各種技術を用いることで低電圧駆動のMOSFETをnチャネル、pチャネルともに実現した

同シリーズを実際の機器に用いることで、機器の消費電力は1.8V品比で半減することはもちろん、導通損失(I2)×R)も低減されることとなる。また、0.9V駆動を実現したことで、オン抵抗カーブのフラットな領域が長くなり、電池の電圧が低下しても特性変動は少なくなるため、機器の効率への影響を少なくできるようになるほか、電池残量が少なくなっても特性変動が少なくなるため、電池の長寿命化が可能になる。

低電圧駆動だけでなく、オン抵抗カーブのフラットな領域も長くなっているため、電池を安定的に従来より長く使うことができるようになる

さらに、同じ駆動電圧において、FETの単体素子のバラつきを抑制しているため、セット間の効率変動を抑制することができるため、製品品質の向上が可能になるという。0.9V駆動製品のVGS定格は±5Vとなり、リチウムイオン電池(1直)に対応でき、1.2V駆動製品のVGS定格は±9Vとなり、リチウムイオン電池(2直)に対応可能となっている。

三洋半導体のMOSFETと他社製品の比較

LEDの点灯デモ。右のLEDにつながっているのが0.9V駆動MOSFET「MCH3484」、左のLEDにつながっているのが4V駆動のMOSFET。MCH3484では0.6V程度で点灯し始めているが、4V駆動MOSFETでは1.8V程度でようやく点灯しており、その差が見て取れる