人気作家 舞城王太郎が原案を担当したホラーコメディ『NECK [ネック]』が公開される。いわゆるJホラー的な恐怖映画でもなく、単なるコメディでもない、この不思議なエンタテインメント作品を監督した白川士に話を訊いた。
テレビドラマでは実現不可能な企画を映画化
白川士
1964年 香川県生まれ。1995年にテレビドラマ『永遠の仔』で監督デビュー。『ランチの女王様』、『不機嫌なジーン』、『エリートヤンキー三郎』など、多くのテレビドラマの演出を手掛ける。最新作はテレビ朝日系にて現在放送中の『崖っぷちのエリー』(毎週金曜夜9:00~9:54)。8月21日公開の『NECK [ネック]』にて劇場映画監督デビュー
――今回の『NECK [ネック]』は白川監督にとって初の監督作品です。原案が舞城王太郎さんということもあり、初監督作品にしては、かなりブッ飛んだお話なんですが……。
白川士(以下、白川)「台本を読んだ時、『これはテレビドラマでは、まず通らない企画だ』と思いました。是非、やってみたいとも思いましたね」
――この作品を無理にジャンル分けすると、ホラーコメディだと思うのですが、設定から、登場人物まで、かなり不条理というか奇妙な作品です。白川さんは、ドラマでもコメディを得意とされていますが、今回はどうでしたか?
白川「これまでのドラマとは、まったくの別物で未知の領域でしたね」
NECK[ネック]
幼少の頃から「お化け」に興味を持つ大学院生 真山杉奈。杉奈は「恐怖によりお化けが生まれる」という独自の理論を元に開発した「ネック・マシーン」でお化けを生み出す研究を続けている。同じ大学の首藤友和を利用し、お化けを生み出そうとする杉奈だったのだが……。 |
――制作陣は、やはり監督同様にドラマ出身の方が多かったのですか?
白川「スタッフは映画やドラマ、CMの混成チームでした。色々な場所で活躍している人が集まっていたので、手探りではあるが、刺激的で面白い現場でしたね」
――白川監督は『エリートヤンキー三郎』のような凄い振り切った作品も演出されています。それと比較しても今回は、かなり振り切りましたね。
白川「『エリートヤンキー三郎』は"とにかく振り切ってください"といわれた作品なんです。今回の取り組み方も、それに近い感覚はありました」
――振り切ったという前提があっても、笑いと恐怖を描くというのは、なかなか難しいですよね。舞城さんの原案も捉えどころのないお話ですし……。
白川「そうですね、舞城さんの作風自体が、シニカルなのか、純なのか、緩いのか、スピード感があるのか、わからない部分があります。それらの状態を、常に行ったり来たりしている感じで中間がないという印象なんですね。ただ、そこでバランスをとろうとは思わなかったんです。台本を信じて、それに乗り、突き進むという感じで作りました。もちろん、映画としての設計図はあるのですが、現場での役者さんの演技による化学反応に期待した部分もあります」
――主演の相武さんの演技も、これまでの相武さんのイメージと違って凄い突き抜けていますね。
白川「完全に綺麗なお姉さんじゃなくて、変なお姉さんですよね(笑)。でも、あれが、ご本人の地に近いらしいですよ。昔、『ライオン先生』というテレビドラマで、デビュー直後の相武さんや平岡君を演出してるんです。だから今回は、同窓会のような気持ちにもなりましたね」
――ネックマシーンという機械が当たり前にある世界で映画を成立させるのは、かなり困難だったと思います。テキストで丁寧に状況や世界観を説明してしまうというパターンが最近の邦画では多いのですが、それがこの映画では控えめという印象を受けました。
白川「そこは気に入っている部分ですね。セリフや回想で説明するのでなく、常に現在進行形で進んでいく映画なので。説明不足の部分も、見たままわかってくれという想いもありましたし。ただ、そういう作品なので、撮影後は、編集や仕上げが大変でした。実際の編集で磨いでいくというか、文字通り映画を仕上げていくという感じでした」
1980年代の映画のイメージがあった
――1980年代のアメリカ映画には、こういうテイストのSF作品が多かったと思います。『ゴーストバスターズ』や『ときめきサイエンス』のように、ナンセンスなマシンが、深い説明もないまま当たり前にある世界を舞台にした映画があの時代にはありました。
白川「そういう時代の作品は撮影中に念頭にありました」
――逆に2010年には、新鮮に感じるかもしれませんね。白川監督は『NECK』をどのように楽しんでほしいですか?
白川「『NECK』に出てくるのは、幽霊や亡霊でなく、あくまでもお化けです。人が考えたからこそ出てくるお化け。そうして出てきたお化けと、戦うのか、寄り添うのか。この映画のヒロインは普通の映画なら逃げるものを、自分でお化けを出してしまいます。それで彼女はどうするのか、というかなり変わった映画です。『最新の映像技術を駆使して』という感じではなく、すこし懐かしい感じする作品なので、怖がったり、笑ったり、懐かしがったりしながら、楽しく観て欲しいですね」
――また、映画監督もされたいですか?
白川「やりたいですね。テレビドラマも作っていきますが、映画もまた撮りたいです。ドラマとはまた違って、映画には作り手の想いが凝縮されてるような感じがするんですよね」
撮影:糠野伸