デジタルハリウッド大学は、舛成孝二監督と落越友則プロデューサーを招き、特別講義「監督とプロデューサーが語る、映画『宇宙ショーへようこそ』ができるまで」を開催した。

左から舛成孝二監督、落越友則プロデューサー

舛成孝二監督は、島根県出身。1985年よりアニメ業界に従事、現在はアニメ監督・演出家としてスタジオゑびすに所属する。TVアニメ『かみちゅ!』(2005)で第9回文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞。本作が初の劇場オリジナル作品となる。一方、落越友則プロデューサーは、ソニー入社後、A-1 Picturesにプロデューサーとして勤務。舛成監督とはこれまでに『かみちゅ!』などを一緒に制作している。

映画『宇宙ショーへようこそ』における独自のPR方法とは

本作は、昨今では珍しいオリジナル劇場長編アニメーション作品だ。舛成監督と落越プロデューサーはタッグを組んで約8年。オリジナル作品を手掛けることになった経緯も、過去からの自然な流れだったという。そんな企画が立ち上がった2006年頃を、落越プロデューサーはこう振り返る。

「オリジナル映画は辞めた方がいいと周りの人たちに反対されました。でも、そんな風に否定的に捉えられることは自分たちにとってはよくあることだったので、ネガティブには受け取りませんでした。作品の評価には『完璧』はなく、技術レベルを乗り越えた先は観た人の"好き嫌い"だけです。そのため、そういった意見は参考にはしますが、あまり振り回されないようにしました」

映画『宇宙ショーへようこそ』

(C)A-1 Pictures/「宇宙ショーへようこそ」製作委員会

公開まで4年もの歳月を要したが、その理由には絵作りに対するこだわりがある。「絵コンテを重視し、すべて監督に描いてもらいました。じっくりと時間をかけたかったので、100人ほどの作画スタッフに参加してもらい、1,700カット、13~14万枚程度の動画を作成したと思います。オリジナルなのでデザインワークにも時間をかけましたね。okama氏を含め、4人の方に宇宙を駆けまわるロードムービーの雰囲気が出るよう世界観をデザインしてもらいました」

しかし、彼らにとって映像はあくまで伝達手段。映像からストーリーに込めた想いを汲みとってほしい、と語る。「ターゲット年齢はある特定の年齢層に絞らず、"全年齢"にしました。これは本来、オリジナル作品ではやってはいけないアプローチ方法なのですが、子どもと大人両方に見てもらいたかったのであえてそうしました。当初、最低年齢を小学5年生くらいと考えていたんですが、いざ公開が始まると4才程度の子どもにも楽しんでもらえたようです」

その一方で、オリジナルだからこそ行ったPR戦略もある。公開直前、MXテレビで行った冒頭22分の無料放送だ。

「話題性と認知度の向上を狙いました。ストーリーの入口だけでも見せて、まずは作品内容を知ってもらおうと考えました。これは、本編を22分程度見せたとしてもそれで満足できる作品ではない、必ず続きが見たくなる作品に仕上がっていると思えたからこそできたものです。私たちとアニプレックスの間に信頼関係もありましたし、放送するならこれまでの最長時間にしようと22分間の放送が決定しました」(落越プロデューサー)

また、作品にどんなメッセージを込めたのかとの問いには、舛成監督から強い信念を感じる回答が返ってきた。「"何かを伝えたい"、"こう見てほしい"という押し付け的な作り方はしていません。宇宙に行った5人にカメラがついていったというイメージなので、見た人が5人と一緒に冒険して、何かを感じてもらえればいいと思います」

「監督に伝えたいものがないわけではありません。映像を通して伝えたいメッセージは色々あるけれど、映像を通さないで伝えるのが嫌だということなんです。私たちは、映像を通してコミュニケーションを図りたいと考えていますから」(落越プロデューサー)

アニメ業界で働いていくために

本講座は同校の学生限定の講座だったため、後半ではアニメ業界の賃金体系など、かなり具体的な話も飛び出した。ちなみに、舛成監督の場合は動画マンとして1枚120円程度のギャランティでスタートし、2年目で演出、7年目で監督になったそう(※)。「動画、原画、作画監督とギャラはだんだん上がっていきます。美術さんも同様ですが、1枚にかける時間が違うので、収入が違ってきます」

演出家の仕事を解説するパートでは、通常は見ることのできない絵コンテなどが資料例に用いた。「演出家には、考える、決める、伝える、決断するといった4点が重要だと思っています。あと、"考える"と"決める"の間に『見つける』という才能部分もあるのですが、何をしたいか考えて決める力がなければ形にならないし、形にして伝えなければ外にも出せません。作業はすべてこの組み合わせだと思うんです。あとは他人の意見をしっかり聞くことです」

あくまで演出家は、『方向性を決めてその実現のために力を貸してもらう』というスタンスであるべきだという舛成監督。そのほか、異なる意見が出た場合には正しくジャッジし相手に伝える力、ジャッジし違う場合には理由を伝え代案を出す力が大事なのだと語った。さらに「"監督"には依頼がないとなれませんが、"演出家"には誰でもなれますよ」と笑いを交えながらも、丁寧でロジカルな解説を行った。一方、落越プロデューサーもプロデューサーに必要な資質を説いた。

「プロデューサーにも様々なスタイルがあるので、まず制作をしたいのか、ビジネスをしたいのかといった、自分が何をしたいか考えることが大事です。人と話す力と話を理解する分析力、経験から正しい答えを導く力も欠かせません。プロデューサーの仕事は、自分ができない部分を人に補ってもらって作品を作ることですから、チームワークの中心としてコミュニケーションをどう取るかも欠かせません」

※監督の描いた絵コンテは、演出と作画監督による方向性の確認後、作画監督が原画マンにカットを割り振る。各シーンは原画マンが描いたコマ間を動画マンが埋めることで、ひと続きに動いて見えるようになる