アビーム コンサルティング 執行役員 プリンシパル プロセス&テクノロジー事業部 事業部長の鈴木章夫氏。公認会計士でもある

アジアを基点としたグローバルコンサルティングファームとして幅広い業種/業界に多くの顧客をもつアビーム コンサルティング(以下、アビーム)は、展開するビジネスの約半分がSAP関連サービスという、いわばSAP導入の超エキスパート集団である。SAPコンサルタントの数は1,000名を超えており、国内でも1、2を争う規模だ。単に導入実績が多いだけでなく、リピーター率90%超という数字に、同社に対する顧客満足度の高さが伺える。もともと監査法人を母体にした成り立ちであるため、とくに会計分野に強いこともよく知られている。

アビームは社是として、顧客の「リアルパートナー」であることを掲げている。その意味するところは「つねに顧客の横に立ち、同じ目線で考え、ともに汗を流すこと」だと同社 執行役員 プリンシパル プロセス&テクノロジー事業部 事業部長の鈴木章夫氏は言う。だがこのモットーを単なるありふれた美辞麗句で終わらせずに、同社が長期間にわたって顧客との信頼関係を築くことに成功してきた理由はどこにあるのだろうか。以下、SAPビジネスにおけるアビームの"強さ"について、鈴木氏にお話を伺った。

顧客の"ゴール"をあぶり出す能力と独自フレームワーク/テンプレート/メソッド

アビームのコンサルティング方式は、実はきわめてシンプルだ。まず顧客の現状、すなわち"AS-IS"を正確に把握したうえで、

  1. 顧客のゴールを設定する
  2. ゴールへのアプローチ方法を示す
  3. 顧客と一緒にそのプロジェクトの実行を担う

といったプロセスを経る。そして最も重要なポイントは1のゴール設定、いわゆる"TO-BE"を明確に描き出す作業だという。SAPを導入することがゴールなのではなく、SAP導入によってもたらされる経営効果を具体的、かつ定量的に示し、これをコンサルタントと顧客の間でぶれることなく、認識を一致させなければならない。

顧客がSAP導入の相談をもちかけてくるとき、SAPを入れて何をしたいのか、実は顧客自身が曖昧な状態であるケースが非常に多い。だからこそコンサルタントは、顧客自身もはっきりと描けていない、あるいは気づいていない"真のゴール"を明確にデザインする能力が求められると鈴木氏は言う。ここで設定されたゴールは、そのSAPプロジェクトの原点であり、山あり谷ありのプロジェクトにおいて顧客とコンサルタントがつねに共有する概念でもある。逆に言えばこのゴール設定をおろそかにすれば、そのプロジェクトが成功裏に終わることはほとんどない。

それほど重要なゴール設定であるが、コンサルタント個々人の能力に頼るだけではコンサルティング会社として心許ない。アビームには、同社が30年にわたって培ってきた導入実績から生まれた、ゴール設定のための"鋳型"がツールとして用意されている。金融、保険、製造業、小売、ハイテク、通信など業界ごとのベストプラクティスをもとに、必要なビジネスプロセスを洗い出したフレームワーク、そして基盤となるERPパッケージに、業界/業種で必要とされる機能をアドオンとして付加したテンプレート・ソリューションがそれである。フレームワークでは、プロセス→サブプロセス→ビジネス要求&アクティビティリストと3段階にわたって大→小へと絞り込んでいき、SAPの機能をマッピングしていく。そしてSAP ERPの基本機能だけでは実現できない機能 - たとえば設備産業における固定資産管理の特殊機能や、食品・消費財業界に必要な賞味期限管理やリベート管理を行うアドオンなどはテンプレートによって追加する、といった具合だ。「会社は違っても同じ業種/業界であれば、必然的に抱える悩みは似通ってくるもの。フレームワーク/テンプレートでもって課題を絞り込むことによって、ぼんやりしていたゴールが徐々に明確になってきます」と鈴木氏。もちろんコンサルタントにはフレームワークやテンプレートをただ使うのではなく、これらを使って顧客の業務をどう改善するのかをつねに念頭に置いておく必要がある。

最近ではNECと一緒にクラウドソリューションのフレームワーク/テンプレートの提供も行っている。「サプライチェーンの需給調整機能については、営業支援機能と同じようにクラウ ド化を検討する動きも増えてきました。また業界が違っても比較的共通化しやすい経理業務においても同様です。規模にもよりますが、販売・物流や生産管理業務といったミッションクリティカルな業務のクラウド化となると、相談件数自体もまだ少ないですね。ここは最もクラウド化がむずかしい分野でしょう」(鈴木氏)

ゴール設定と同様に、2のアプローチ提示においても"アビームメソッド"と呼ばれる同社のノウハウが詰まった方法論が確立している。システムを開発し導入するまでではなく、1で設定したゴール、つまり顧客の経営課題を解決するまでを1つのライフサイクルとして包括的に捉え、外的要因が変化してもプロジェクト進行への影響を最小限に抑えることができる、フレキシブルなメソッドだ。「アビームメソッドの特徴は、日本企業向けにアレンジされていること。SAP ERPは海外での成功事例を日本企業にそのまま当てはめようとしてもうまく行かないことが多い。国内での導入を多数手がけてきたアビームならではのフレームワークであり、テンプレートであり、メソッドなのです」(鈴木氏)

連結経営&グローバル化を考えるならSAPはやはり有利

最近は中堅・中小、いわゆるSMB(SAPでは"SME"と呼ぶ)企業のSAP導入が増える傾向にあるというが、導入を検討中の企業に向けてのアドバイスを鈴木氏に聞いてみた。

「とにかくSAPは、ERP製品としての業種ごとの機能の豊富さ・安定感が群を抜いています。またグローバル対応といった点でも多通貨・多言語・時差対応、ローカル要件対応力などにあっても同様です」とのこと。グローバル企業ど経営変革に取り組めるキャパシティが大きいため、SAP ERPによる投資対効果が実現しやすいのだという。

また、最近増えている案件としては、グループ企業ごとに個別に入れていたERP、または買収した企業のERPを、グループ内でSAPに統一したいというものがある。海外市場の拡大を図る企業が増えているためで、これに伴い、オペレーションを現地任せにするのではなく、本社で一元管理すべきという風潮が強まってきているのだ。とくにリーマンショック以降、タイムリーな環境変化対応力をあげるため連結経営への関心が非常に高まっていると鈴木氏は説明する。「これから海外にビジネスを展開するなら、やはり本社と現地法人の間では経営管理を極力一元化していく方向性が望ましいです。基本の業務ルールやビジネスプロセス・KPIは一緒にし、その上でローカル強みは生かすというやり方です」というが、こういったグローバル化への取り組みも、SAPは多くの導入事例があるので、環境を構築しやすい。

SAPコンサルタントに求められる資質とは

冒頭にもあるように、アビームには1,000名を超えるSAPコンサルタントが在籍する。SAPを中心とするERPサービスデリバリの責任者である鈴木氏だが、若手コンサルタントを指導するときに心がけているのはどんな点なのだろうか。「認定コンサルタント資格は"取ってあたりまえ"です。当社では若手コンサルタントに対し、まず事例を数多く研究するように指導しています」と鈴木氏。プロジェクトで壁にぶつかったとき、どうすれば問題がクリアになるのか、過去の事例から学べることは少なくない。ベストプラクティスをベースにした導入実績を誇る同社だからこそ、コンサルタントとして事例に学ぶ姿勢は欠かせないものなのだろう。 その他、コンサルファームならではのファシリテーション術や交渉術などのトレーニングも行っている。

そのほか、コンサルタントとして重要な資質には「誠実であること、多少失敗してもあきらめない前向きさをもっていること、そして協調性」が挙げられると鈴木氏は言う。「いったんプロジェクトが立ち上がれば、そのお客様との付き合いは非常に長いものになります。したがってコンサルタントには、単なるコンサルタントと顧客という関係を超えた、緊密なチームワークを維持することが求められます。プロジェクトが何の問題もなく、順風満帆で終了することはまずあり得ません。チャレンジングな状態に陥ったとき、顧客とともにいかに乗り越えていくか、そういった経験をどのくらい積んでいくかが、すぐれたコンサルタントへの試金石となるでしょう」(鈴木氏)

最終的な目標は、顧客が"ひとり立ち"できるところまでガイドすることだと鈴木氏は言う。顧客がコンサルファームを頼らなくなったとき、はじめてコンサルティングファームのゴールが達成されるのかもしれない。

1、2年前までSAPビジネスが厳しい状況に置かれていたこともあったが、IFRSなどグローバル化への関心が高まるにつれ、再び案件が増える傾向にあるという「最終的にはお客様がひとり立ちされることが目標ですが、導入前には迷わずご相談にきていただきたいですね(笑)」(鈴木氏)