仮想化技術の解説記事が多数出回っている現在、仮想化について「単に物理サーバを減らすだけの技術」と考えているIT管理者はもはや少ないだろう。
各ベンダーとも自動管理ツールの開発に力を入れているうえ、ネットワークの仮想化やストレージの仮想化といった技術も併せて進歩している。これらを活用することで、これまでよりも高度なIT運用管理が実現できるのはご存じの通りだ。
アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 インフラストラクチャコンサルティンググループ マネジャー 中寛之氏 |
では、ここで皆さんに問いたい。その"仮想化を用いた高度なIT運用管理"について、どこまで具体的な運用像を描けるだろうか? ――「なんとなく便利になる」、「たぶんこんな感じのことができるようになる」、といったおぼろげな回答で終わる方が少なくないと想像する。これでは、仮想化の導入計画を立案するのは難しいと言わざるをえない。また、たとえ仮想環境を導入できたとしても、そのメリットを十分に享受することは不可能だろう。
そんな方々に仮想化活用/運用の明確な指針を提示しているのが、アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 インフラストラクチャコンサルティンググループ マネジャーの中寛之氏である。
氏はその肩書きのとおり、インフラ面を中心としたアドバイスを行うコンサルタントであり、最近では仮想化ベースのシステム構築/運用ノウハウ蓄積に努め、国内外の事例について造詣が深い。
以下、中氏の話を基に、仮想化をベースとした"次世代IT運用管理"とその実現方法についてごく簡単に紹介しよう。
仮想化をベースとした次世代IT運用管理とは
まずは、次世代のIT運用管理像に触れておこう。
中氏によると、次世代IT運用管理のキーワードとしては、「仮想化」、「統合」、「コモディティ化」、「トランスフォーメーション」の4つが挙げられるという。
これらのうち仮想化は、次世代IT運用管理に不可欠な要素として最初に挙げられるものである。「テクノロジー階層のすべてにわたって仮想化を行い、データセンタのリソースを論理的にプールできる環境を作る」(中氏)ことで、従来のような物理構成に起因する制約を取り除くことができる。その運用メリットについては、改めて触れるまでもないだろう。
次に挙げられるのが「統合」という要素だ。インターネットの世界を見回すと、すでに統合されたIPネットワークのうえでフレキシブルにアクセスできる環境が出来上がりはじめている。いわゆる"クラウドコンピューティング"と称される技術だ。最近よく話題に挙がるようなパブリッククラウドとプライベートクラウドとの連携も可能で、一時的なITリソース不足に陥った際に不足分のITリソースを外部のサービスから調達して補ったり、外部にサービス委託する部分をうまく切り分けて管理の効率化を図ったりすることも可能だ。これにより「過剰な設備投資や運用コストを削減することが可能」(中氏)などのメリットを享受できる。
加えて、プロビジョニング機能とポリシーベースの自動運用機能により、「必要としているユーザーに必要なタイミングで必要なだけのITリソースが割り当てられる環境ができあがる」(中氏)。いわばITリソースの「コモディティ化」である。コモディティ化が浸透すれば、当然、ビジネスの展開は速くなる。ITシステムが、これまでよりも直接的に売上げ向上へ貢献することになるだろう。もちろん、自動運用機能等により、「ITに携わる人員を運用管理から新規ビジネス案件に振り向け、戦略的な投資を増やせる」(中氏)のは言うまでもない。
上記のような環境ができれば、課金の仕組みを加えることで、各部署に対して利用した分だけ費用を払ってもらうという環境を提供することができる。例えば、年に数度しかないキャンペーンのために専用サーバを購入して、年間通じたIT固定費を払うといった非効率な思いをすることもなくなる。次世代のIT運用管理では、こうした「IT利用費を固定費ではなく変動費として扱うような"トランスフォーメーション"も起こる」(中氏)ようになるのである。
以上が次世代IT運用管理環境の格子になる。もちろん、これら4つのキーテクノロジーによるメリットは、そのほかにもたくさんあるし、それぞれを組み合わせたり、業務に合った要件を取り込んだりしていくことで、より高度なIT基盤を構築することが可能だ。スペースの都合により、ここでは割愛するが、その詳細は、本誌主催の技術セミナー『ジャーナルITサミット 2010 仮想化』における中氏の講演で語られるので、ぜひそちらを楽しみにしてほしい。
次世代IT運用管理への移行を円滑に進めるためのポイント
さて、ITシステム構築案件では、技術力もさることながら、運用の仕組みを適切に整備することが非常に重要になる。プロジェクトを成功に導くうえでは、後者の方が比重が高いと言っても過言ではない。
お気づきのとおり、現在の一般的なIT運用管理と、上記の次世代IT運管理との間にはかなりのギャップがある。仮想化導入プロジェクトの最終的なゴールを、物理サーバ台数の削減ではなく、コモディティ化やトランスフォーメーションの達成に置くのであれば、それなりのステップを踏む必要がある。
中氏によると、アクセンチュアではすでにそのためのソリューションセットも定義しているという。ITIL(Information Technology Infrastructure Library)を基に仮想化独特の要素を組み込むかたちで専用のプロセス/ソリューションを策定。それをコンサルティングの現場で実際に活用している。
次世代IT運用管理への移行を無理なく進められるよう配慮されたこのソリューションセットは、仮想化導入を検討中のITシステム管理者にとって大いに参考になるので、最後にその内容を紹介しておこう。
同ソリューションセットは、成熟度別に大きく3つに分けられている。それぞれ「EV(Enterprise Virtualization)」、「EVA(Enterprise Virtualization Accelerator)」、「EVU(Enterprise Virtualization Utility)」と名付けてられおり、「『仮想化の導入に特化したソリューション』、『仮想化の活用を促進し、ビジネスメリットを享受するソリューション』、『仮想化向けのユーティリティを提供し、より深く活用するためのソリューション』」(中氏)になっている。
いずれも、IT機能の提供のみならず、運用プロセスや組織体制の整備、トレーニングなども含まれている。「どの段階でどんなことを決め、どのような行動をとるべきかまでも詳細に決められて」(中氏)おり、考慮漏れや定着の失敗などを防ぐことが可能だ。
例えば、EVでは、仮想化基盤を揃えることに主観を置いたソリューションセットだが、実運用面も考慮しており、仮想化を組み込んだIT基盤構築の構築のみならず、物理サーバから仮想サーバへの移行サービスや、バックアップ環境の整備なども行い、それを使いこなすためのトレーニングも実施する内容になっている。
そして、EVにより仮想化というテクノロジーを使いこなせる状況を作り上げた後は、EVAにより、リソースやパフォーマンスの管理、組織管理、パッチ管理、CMDB(Configuration Management Database)と連携させたライフサイクル管理などを追加し、よりインテリジェントな運用環境作りに着手していく。さらにその先のEVUでは、電力管理や課金の仕組みなどを追加し、先述のような次世代IT運用管理を実現していく仕組みになっている。
最大のポイントは、それぞれを適切なタイミングで取り込む構成になっていること。それぞれのソリューションセットでは、各サービスを取り込むうえでの考慮点も定義されており、IT運用管理の成熟度を混乱なく高めていくことができるという。
9月1日の『ジャーナルITサミット - 2010 仮想化』では、こうしたソリューションセットに組み込まれたノウハウが中氏自身の口から紹介される予定だ。仮想化は活用の幅が広い技術であるため、プロジェクトマネジャーのビジョン次第で導入効果は大きく変わってくる。ぜひ、アクセンチュアのコンサルタントが語るノウハウを吸収し、今後のIT戦略立案に活かしてほしい。