首都大学東京および早稲田大学の研究チームは、関東平野の上総層群相当層において確認された4カ所のざくろ石を多量に含む火山灰層についての層序学的・岩石学的検討を行った結果、それらの火山灰層が同一の火山から250万年ごろに同時に噴出され、その給源火山が丹沢地域に求められることを明らかにした。

ざくろ石が採集された4カ所は神奈川県愛川町中津、同鎌倉市、東京都江東区、千葉県銚子市。火山灰層は、火山の噴火が地質現象の中において短期間(おそらく数日間)であり、その時間分解能が高く、また、巨大噴火が伴う場合、陸地、海域をまたぎ広域に運搬され降下堆積することから、離れた地点での地層の対比に役立つという特長がある。さらに、その色調や組織、構成物質に特色を持つため、ほかの地層と識別しやすいなどの特長もあり、同一時間を示す層として有効な指標となる。

さくろ石を採取した4カ所。テフラはギリシャ語で「灰」を意味し、火山灰や火砕流堆積物などの総称として用いられる

研究チームでは、今回の4カ所のざくろ石を含む火山灰層の鉱物組成、鉱物の光学的性質、ざくろ石のEPMA化学組成分析などを他地域の火山灰層中のざくろ石とも比較しながら、層序も含めて検討を実施した。

ざくろ石を含む火山灰層が見つかった場所と厚さ、給源と考えられる丹沢の位置

この結果、鉱物組成、特にざくろ石を多量に含むことが共通したほか、角閃石の中に斜方角閃石(ゼードル閃石~直閃石)を含むこと、火山ガラスのタイプと屈折率、角閃石の屈折率の一致などが見受けられた。

また、4カ所の火山灰層中は、緑色片岩を含む点でも共通していた。さらに、ざくろ石はMn、Fe、Mg、Caなどをさまざまな割合で含むアルミノケイ酸塩鉱物で、その組成はそれが生成した時の環境(岩石の組成や温度・圧力など)を反映するが、ざくろ石を含む火山灰層や火山岩はごく限られており、これまで知られているざくろ石を含む新第三紀~第四紀の火山灰層や火山岩のざくろ石の組成範囲と比較しても、4地域の火山灰層中のざくろ石は非常に良好な一致を示したほか、ざくろ石にチタン鉄鉱を包有することも共通したという。

加えて、古地磁気層序や上下の地層に含まれている化石時代から相対的の求められる情報などを統合した結果、4カ所の火山灰層とも約250万年(第四紀更新世最前期)であることが判明した。

火山灰層の対比による4つの根拠

早稲田大学の高木秀雄教授

では、なぜこれらの火山層が丹沢から由来したと考えられるのか、早稲田大学の高木秀雄教授は、火山灰層構成粒子の粒度変化を調べた結果、銚子→江東→鎌倉→中津と西に行くほど粗粒になっており、ざくろ石の粒径を合計2万個以上測定し、粒径分布を検討した結果、平均・最大粒径ともに西方にいくほど大きいという傾向が明らかになったことから、給源火山は、中津よりも西と推定したという。

ただし、これだけでは丹沢と特定できないため、共通して含まれている緑色片岩に注目。供給源の変成岩として関東西部で該当するのは三波川変成岩と丹沢変成岩だが、関東の三波川変成岩は中津よりもかなり北方に分布しており、また三波川変成岩分布域に火山の根となるような250万年ころの火山岩は知られていないが、一方の中津に近い丹沢地域には緑色片岩が分布していることが知られていた。

さらに、重要な証拠として、約250万年前の流紋岩岩脈(最大幅40m)が中川の細川谷に存在し、その中に含まれるざくろ石の化学組成が4地域の火山灰層中のものと一致したことが挙げられる。また、鎌倉が丹沢から比較的近い場所にも関わらず、粒径がやや細粒であるが、これについては、中津-江東-銚子がほぼ直線上に並んでいるのに対し、鎌倉がやや南に外れており、当時の火山噴火時の風向きがおそらく、鎌倉方向より銚子に近い方向に向かって吹いていたと考えられるという。

ざくろ石軽石層が丹沢の火山に由来するとした3つの根拠

この火山噴火の規模についても研究チームでは推定を実施、推定される分布範囲面積を想定分布範囲より1万1750km2と見積もった。その結果、降下火山灰のみの体積は少なくとも2.8km3を超え、火山爆発指数VEI(Volcanic Exposivity Index)は5に相当することが判明した。この数値は、噴煙柱の高さが25km以上に達し、噴火規模では巨大噴火に区分され、「1707年の宝永山の噴火時に、江戸で4cmほど火山灰が積もったという記憶が残されており、これに匹敵する規模」(同)と説明する。

丹沢の隆起速度は200万年前ころの伊豆の衝突後、年間2mm以上の上昇速度となっており、侵食速度が速いことから火山の形成が残されておらず、現在では火山の根(火道が)が流紋岩岩脈として認められるに過ぎないが、今回の火山灰層は第四紀-新第三紀境界(258.8万年前)付近の地層の時代決定の重要な手がかりになるとするほか、関東平野の中心部に近い江東付近では、中津や鎌倉などの平野周縁部に対し、相対的に平均0.5mm/年の速度で沈降していることが明らかになったことから、地殻変動の推定などが可能となり、今後の関東平野における地震などの災害に対する防災に向けた都市基盤地質構造の解明へとつながることが期待されるとしている。

ざくろ石火山灰の位置と、関東の主な深層ボーリングの位置と断面図。上の図は、丹沢の火山噴火で降下したざくろ石火山灰の想定分布範囲