モバイル関連技術とサービスの展示会「ワイヤレスジャパン2010」が、東京ビッグサイトで開催された。7月24日にマイコミ新書から発売される『AR-拡張現実』の著者である小林啓倫が、このイベントの目玉のひとつである、AR(拡張現実)関連のブースをレポートする。
「実空間透視ケータイ」技術
KDDIブースには、7月1日に待望のリリースが行われた「セカイカメラZOOM」が登場。「フィーチャーフォンで動くセカイカメラ」が実際に体験できるだけでなく、スマートフォン版セカイカメラでもまだ実現されていない、驚きの最新機能が紹介されていた。
KDDIブースの「モバイルARプラットフォーム」コーナーに展示されているのが、KDDIが研究開発を続けてきた「実空間透視ケータイ」技術。セカイカメラと並び、日本のモバイルARを牽引してきた存在だ。今回のワイヤレスジャパンでは、バンダイナムコゲームスの人気シミュレーションゲーム『アイドルマスター』とのコラボレーションが行われているのだが、同時にARの新たな可能性を感じさせる機能も発表されている。
まずは「高速背景領域抽出機能」。カメラで捉えた画像をリアルタイムで解析し、背景とその手前にある物体を区別するという技術だ。現在商用化されているARアプリケーションの大部分では、画像の前後に何が配置されているかどうかは関係なく、CGが最前面に表示されてしまう。しかしこの技術を使えば、現実空間上に表示されるバーチャルオブジェクトを、物体と背景との間に置くことが可能になる。つまり物体によって隠れてしまうCG部分は画面に表示されない。例えばビルの奥にバーチャルオブジェクトを表示して、非常に大きな存在が現れたかのように感じさせることができるのだ。会場のデモでは実際に「巨大天海春香」が登場していた。
展示会場は屋内のため、ブースにはジオラマと青空を摸した青い背景が用意されているのだが、画像処理は非常にスムーズに行われている。実際には昼と夜の判定など、環境特性に応じた処理が可能とのことで、屋外でのサービスにも十分展開が可能だろう。以前、箱根に「実物大エヴァンゲリオン」をARで再現するというイベントが行われたが、こういったイベントを街中で行うためには、CGが手前の物体をすり抜けて画面に写ってしまう問題があった。この技術は「アニメに登場する巨大キャラクターを実物大で表示する」という企画の「リアリティ」を高めることに応用されていくかもしれない。
背景抽出機能の隣に展示されているのが「短形オブジェクトの高速認識」機能。これは、画像内にある看板やポスターなどの特定のオブジェクトをリアルタイムで認識し、その上にバーチャルオブジェクトを表示するというものである。いわゆる「マーカーレス型AR」の範疇に入る技術で、発想としては以前からあるものだが、処理の速さが目を引いた。
こちらでも同じく、街中を摸したジオラマで体験することができるのだが、その中には4~5個のオブジェクトが対象として置かれている。ここに携帯電話をかざすと、アプリケーションが瞬時にオブジェクトを認識、関連する画像が表示される。技術的には数十個のオブジェクトを同時に処理することが可能とのことなので、例えば渋谷の街中のように、看板などが大量に設置されている場所でも使用可能だろう。またオブジェクトを表示するだけでなく、それをクリックして別のアクションにつなげることも可能なので、看板を認識してエアタグを表示させ、そこからECサイトに遷移したりクーポンを提供したりなどといった使い方も考えられる。
またセカイカメラでお馴染みの「エアタグ」を、『アイドルマスター』の登場キャラクターの姿に変えるという『アイマス』エアタグも登場していた。ちょっとした機能ながら、ARの楽しさをぐっと高めてくれる工夫だろう。
これらの機能は、現時点では商用化および商用化時期未定とのことである。しかし注目すべきは、これらがすべてフィーチャーフォン、いわゆる「ガラパゴスケータイ」で実現されているという点だ。現在のモバイルARはスマートフォン中心の世界であり、やはり一般の人々にとってはまだまだ敷居が高い。しかし「普通の」携帯でも高度な表現を楽しむことができ、さらに「アイドルマスター」のような人気ゲームとのコラボが行われたり、あるいは「看板にかざすとクーポンがもらえる」といった行為が可能になれば、ARはずっと身近な存在になっていくに違いない。さらにコンテンツやサービスを提供する企業の側にとっては、消費者との接点を大きく広げてくれる技術になっていくのではないだろうか。
「ワイヤレスジャパン2010」は7月16日(金)まで東京ビックサイトにて開催中(16日の最終日は午後5時まで)。
(レポート執筆 小林啓倫)
『AR-拡張現実』
最近注目を集めるキーワード「AR(拡張現実)」。セカイカメラなど具体的なサービスも目立つようになってきたが、いったいどんな概念なのか、捉え切れていないという方も多いだろう。
本書ではARとはいったい何なのか、何ができて、私たちの生活をどう変えていくのかを、様々なケースを交えながら考察する。ARアプリケーション/サービスの提供者のみならず、近未来の世界を先取りしたいという方にも必読の一冊だ。
『AR-拡張現実』は7月24日発売。定価819円(弊社刊)。