サステナビリティの重要性がいわれる中、SAPは2009年にCO2排出量の目標を公言するなど、この分野に積極的に取り組んでいる。サステナビリティやエコが流行語になる前から、ドイツはゴミの分別やリサイクルなどの取り組みを積極的に進めていた。そんな土壌があってか、ドイツ企業のSAPにとってサステナビリティは当然ともいえる方向性だったようだ。

業務アプリケーションベンダでもあるSAPは同時に、サステナビリティソリューションの提供に責任や使命を感じている - SAPでサステナビリティを統括するDaniel Schmid氏(サステナビリティ担当副社長)は、顧客の長期的成功には「サステナビリティが不可欠」と断言する。Schmid氏に、社内での取り組みと製品面での取り組みを聞いた。

Daniel Schmid氏

--SAPにとってサステナビリティの位置づけは?

サステナビリティは言うまでもなく重要です。われわれの企業戦略に刷り込まれており、バリューに反映されています。

具体的には、

  1. 社内での取り組みを通じて、まずわれわれが模範となる
  2. ソリューションプロバイダとして、顧客がサステナビリティを実現することを支援する

の2つの柱があります。この2つには明確な関連性があります。われわれが実感することなくして、最善のソリューションを提供することは不可能だからです。

--1番目の柱である社内の取り組みについて、教えてください。

2009年3月、長期的コミットを社外に発表しました。

  1. 人と社会
  2. 環境
  3. 経済

の3つの面から持続性に取り組み、全体を管理していきます。これにより、サステナビリティの取り組みを収益アップにつなげることができます。これまで、サステナビリティと収益は両立できないと考えられていましたが、両立可能です。サステナビリティになることで、収益を短期的・長期的に改善できるのです。

たとえば、2の環境では、2020年のCO2排出量を2000年レベルにするという目標を掲げています。SAPのCO2排出量は2000年は275キロトンでした。ピークは2007年の535キロトンで、ここから半減させることになります。2008年には500キロトンで、目標を公言した2009年には425キロトンと大きく削減できました。CO2排出量をはじめ、環境とサステナビリティの取り組みや情報については、専用サイトで公開しています。

1の人と社会では、社会的/経済的に恵まれない人を支援する活動を展開しています。2009年にフランスのNPO、Planet Financeへのを発表しました。ここでは、ガーナでシーナッツとシーバターの加工を通じて女性たちの生活改善を支えるというプロジェクトをサポートしています。

--従業員にはどのように働きかけているのですか?

全従業員の貢献は、取り組み全体を通じて最重要視していることです。目標を全社レベル、子会社レベルと細かに設定していますが、強要するのではなく、代案を提案するようにしています。

CO2排出量の最大要因は旅費です。2009年にわれわれは100万ユーロ以上を投じて高精細のWebカンファレンスシステムを導入し、TV会議を活用するようにしています。バーチャルにコラボレーションできるツールも後押しし、実際に出張は減りました。かなりのことが出張しなくても可能だとわかりました。加速要因となったのが景気の悪化です。社員のコスト意識が強くなり、行動変化につながりました。

サステナビリティは、社外/社内の両方で透明性を持たせることからはじまります。ダッシュボードやデータを提供することで、社員の協力を促進します。全従業員がダッシュボードを使って、自分が勤務するビルの消費電力量にアクセスしたり、他の支社と比較するなどの分析が可能です。これは、参加意識の改善に寄与しています。チェンジマネジメントのコンセプトも必要でしょう。これら社内での取り組みには自社ソリューションを活用しています。

たとえば、社内で印刷のデフォルト設定を白黒に変えましたが、印刷ダッシュボードではSAP全社員がどのぐらい印刷しているのかもわかります。2008年は9,000万枚 - これはエベレストと同じぐらいの高さです。2009年は、前年比20%減を目標としていましたが、結果として25%減少しました。2010年は10%削減を目指しています。

また、消費電力も減少しています。2009年は前年比5%減を目標としていましたが、実際には7%減を達成しました。金額にして100万ユーロです。節約分は再利用エネルギーに投資しています。

もちろん、国により温度差はあり、白黒ではなくカラー印刷を好む国もあります。ベストプラクティスの共有は大切です。

環境だけではなく、人へのフォーカスとして従業員の健康にも配慮しています。IT業界は燃え尽き症候群になる人が他の業界の4倍といわれており、これに取り組むために「Business Health Culture Index」を作成しました。質問形式でワークライフバランスやストレスレベルを評価し、認識してもらうものです。また、女性がITに興味を持ってもらえるように、ドイツでは女子学生向けにイベントを開くなどのことも行っています。

--製品面での取り組みについて教えてください。

サステナビリティは製品戦略においても非常に重要です。今年のSAPPHIREの基調講演では2人の共同CEOがサステナビリティへのコミットを強調しており、顧客やパートナーにメッセージは十分伝わったと思います。

われわれは世界に約9万7,000社の顧客を持ちます。SAPの顧客企業だけで世界のCO2排出量の6分の1を占めており、SAPが顧客にCO2排出管理を奨励すると大きな効果を生むことができるでしょう。これはSAPの収益に直接結びつくものではありませんが、社内開発者は世界を変えられることに大きな意義を感じており、サステナビリティ関連のソリューション開発に前向きです。

顧客はすでにERP、財務システム、サプライチェーンなどを導入しており、これらにサステナビリティの要素を加えていきます。CO2排出管理ソフトウェア「Carbon Impact」は、オンデマンドソリューションとして提供します。顧客は簡単に実装でき、CO2排出とコストの削減などのバリューをすぐに得られます。

もう1つの取り組みとしてサステナビリティマップがあります。サステナビリティとひと口に言っても分野は多岐にわたります。そこで、構造化してビジネスプロセスの観点から把握できるようにしました。どこにフォーカスするべきか戦略を立てやすくなります。

経営陣がサステナビリティの取り組みに対し全体的なビューを得られるのが「SAP BusinessObjects Sustainability Performance Management」です。KPIをドリルダウンして把握し、標準に遵守したレポート作成が可能です。

--今後どのようなソリューションを提供する予定ですか?

すでに人事、カーボン管理、サプライチェーンなどの分野をカバーしており、4月にはTechniDataの買収計画を発表しました。これにより環境・安全・衛星ソリューションを手に入れることになります。ですが、サステナビリティマップはまだ完成していません。

今後、エネルギー管理などにフォーカスしていきます。すでにソリューションを提供していますが、まだ強化する必要があります。

--サステナビリティ関連製品が収益に占める比率は?

まだ大きな比率ではありませんが、急速に成長しています。

われわれの望みは、SAP顧客の長期的成長です。今後、企業はサステナビリティなしには長期的に成長できないでしょう。ここでソリューションを提供することは非常に重要です。

これは、サステナビリティソリューションを提供できないベンダは生き残れないことも意味します。どのベンダも5年以内にサステナビリティを提供するでしょう。われわれは早期にサステナビリティを製品に取り込む戦略を敷き、競合を大きくリードしています。サステナビリティはすでに大きな差別化となっています。