ポーランドで開催された国際ITコンペティション「Imagine Cup 2010」のラウンド1での日本チームの大健闘ぶりをお伝えしよう。
ソフトウェアデザイン部門の日本代表チームPAKEN(パケン)は、初戦となるラウンド1で悔しくも敗れた。しかし、そのプレゼンテーションは堂々たるものであった。
PakenがImagineCupに挑んだプロジェクト「Bazzaruino(バザリーノ)」の詳細については、日本大会優勝時のレポートやプレゼンテーション資料をご覧いただきたい。Windows AzureやWindows Live IDなどのテクノロジーを利用した郵送システムだ。
日本出発前日の壮行会で披露されたプレゼンテーションは、ひと月程前に見たプレゼンスキル研修の時のものと比べて、はるかに良くなっていた。しかし、時間が掛かり過ぎてしまって、出発間際にして時間枠の20分間に収まりきれないといった問題を抱えていた。しかし、ポーランドでのラウンド1、よくある「本番に強い」という以上のミラクルに近い成長を、たった3日の間に果たしていたことに感嘆というよりはむしろ驚愕した。
国際ITコンペティション『Imagine Cup 2010』レポート
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若者たちは、大会中に成長した!
大会2日目、世界69カ国から集まったチームが全て参戦することとなるラウンド1。PAKENがセッティングを行なっている部屋に審査員4名が集まり着席する。審査室後方では、日本からの同行者や先に組み込み部門で審査を終えていたCLFS(東京高専)のメンバーたちが見守っている。
開始の合図で、20分間のライブプレゼンテーションがスタートした。しかし、メンバーたちの様子が少しおかしい。何かの理由で、プロジェクタとPCのコネクタを、プレゼン開始になっても付け替えているらしいのだ。すでにスタートから数秒が過ぎ、室内は緊迫した空気で満たされた。日本から同行しているマイクロソフトのアカデミックエバンジェリストの楠原史子氏も、いても立ってもいられないといった様子で、一瞬、天を祈るように仰ぐ。
しかし周囲の心配をよそに、準備が整うと4人は何事もなかったかのように審査員の前に一列に並び、堂々と自己紹介を始めた。チームリーダーの石村脩氏のナビゲーションで、それぞれの役回りをそつなくこなしていく。永野泰爾氏と関川柊氏のストーリー仕立てのデモンストレーションでは、審査員たちから笑みがこぼれるほどにパフォーマンス要素も満点で、とても分かりやすいものとなっていた。
金井仁弘氏の「We can change the world by Bazzaruino」というコンクルージョンの言葉で、プレゼンテーションは決められた枠内で15秒を残して終了すると、リーダー石村氏が「Do you have any question?」と、自分から審査員に質問の有無を投げかける余裕の一幕もあった。
英語のQAセッションを乗り越えて
さて問題なのは、ここからの15分間の質問タイムだ。英語のプレゼンテーションは、練習を重ねることで何とかクリアすることはできた。しかし、海外留学経験などのない一般の日本の高校生が、2カ月程度の準備で、その場で投げかけられる英語の質問に、果たしてどの程度までの受け答えができるものなのか。質問が聞き取れなくてうろたえたりする場面があっても決しておかしくない、と筆者は思っていた。
審査員からは、「乗客が少なかった場合などの可能性は?」「中身の安全性はどう確保しているのか?」といった質問にも、「実際のプログラム稼働時には、航空会社と提携することで、乗客の権利を守りつつ、スペース確保を行うことができると考えている」、すでに用意してあったコスト試算の結果を示して「問題にはならない」旨をアピールするなどした。
ときに審査員の意図と若干異なっていたり、逆にこちらの意図を理解してもらえなかったりという場面もありながら、うろたえることなく、時に「4人で相談してもいいですか」と審査員に申し込み、軌道修正をしながら4人だけで乗り切った。実際、ここまでやりきるとは、大人たちは思っていなかっただろう。わずか20数秒の残り時間で出た質問にも最後まで答えきる姿に、まさにワールドカップの重要試合で、最後の数秒を祈る時のような良い意味での緊迫感と、力を出し切ったプレイを見たようなすがすがしさを感じた。
Imagine Cupがワールドカップに例えられるのは、世界69カ国の代表が、プロジェクトの内容を時間内で競い合うからというだけはない。そこには、勝ち抜くための戦略、審査に備えてのプレゼンやQ&A練習の積み重ね、必須のチームワーク、プレイヤーの可能性を最大限に引き出すコーチやメンターたち、現地入り後の戦略変更や最後の調整を重ねる姿があった。ラウンド1の場に立ち会ってみて、あらためてImagine Cupはテクノロジーのワールドカップなのだということを上辺の言葉ではなく添えておきたい。
Twitterで拾ったImagine Cup、申込書をMSへ持参!
彼らが本番で見せた会心の出来に、次の準決勝進出も夢ではないと日本陣営の誰もが感じて(いや強く祈って)いたにも関わらず、ラウンド2に進むことのできる12チームの発表では、「JAPAN」が呼ばれることはなかった。やはり世界の壁はそれ以上に高かったというところだろう。
その直後、気がつくとすでに4人の姿はなかった。ホテルへの帰り道、4人をメンターとして支えてきた市川先生が、本当にがっかりしながら、ゆっくりと文化科学宮殿の広場を横切っていく後ろ姿が焼き付いている。その時の筆者は、何の言葉も思い浮かばず、話しかけることすら躊躇していた。
それから丸2日過ぎ、日本陣営のために設けられた夕食の会では、全員元気な顔を見せてくれた。テーブルを共にした石村氏と永野氏からは、こんなエピソードを聞いた。
当時、同志社大学が2年連続で世界大会進出を果たしていることを知り、自分たちもチャレンジしようと考えていたそうだ。しかし、肝心の申込締切がもっと先だろうと勘違いしていたところ、金井氏が、Twitter上での「Imagine Cup明日が締め切り」というマイクロソフト楠原氏のつぶやきに気が付き、郵送では間に合わないと申込書をマイクロソフトまで届けたというのだ。パ研(筑波大学附属駒場 中高パーソナルコンピュータ研究部)顧問の市川道和先生の名を登録していたことも、ご本人には一次予選通過まで告げていなかったそうだ。このポーランドまでの道のりやここで経験したすべてが、Twitterでの投稿を目にしなければなかったのだと思うと、不思議な思いながら、これからの新時代を進んでいく4人のパワーと可能性を感じずにはいられない。
そして、この夕食時に各自が"一言ずつの感想"を話す中、永野氏の「コンペティションの前に、日本の旗に"優勝する"って書きましたが、期限は書いていません。だから絶対またチャレンジします!」という言葉が強く印象に残った。
市川先生の「何十年かぶりに、とめどなく流れる涙を止められない、まだ誰かのために泣ける自分がいたということを気がつかせてもらえて、幸せな気持ちでいっぱいです。ここで得た成果は、勝利を取ることよりも大きかったのではないかと感じている」との力強い言葉の中に、Imagine Cupにただ参加することを善しとするのではなく、上位入賞を狙ったからこその意義や意味がやはりあったのではないかと感じた。
PAKENのImagine Cupはその後、彼らが超えられなかった世界の壁、決勝まで勝ち残っている6チーム、フィンランド、ニュージーランド、マレーシア、セルビア、シンガポール、タイランドのファイナルプレゼンテーションを見ることになっている。その後で、改めて彼らにその思いを訊ねてみるつもりだ。
『Imagine Cup 2010 Poland』大会の模様はこちらでチェック!
日本チームTwitterアカウント | @ImagineCupJP |
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