内田洋行は、教育コンテンツ配信サービス「EduMall(エデュモール)」事業を加速する。同社 取締役 専務執行役員 大久保昇氏は、「スクールニューディール政策の影響もあり、PCや電子黒板の導入は進んだが、これを実際に活用し、効果的に運用するには最適な教育向けコンテンツが必要。EduMallでは、教育用ソフトのほか、高画質な映像も数多く用意しており、しかもソフトメーカー、コンテンツプロバイダの著作権を、確実に保護したものとなっている。教育分野においては、コンテンツに対して、もっと高い関心を寄せる必要がある」と、EduMallの重要性とともに、教育分野における問題点を指摘する。
EduMallは、2003年度に総務省が中心となって実施したコンテンツ配信実証実験「EduMart(エデュマート)」を継承し、内田洋行が事業化。現在はEduMallとして、全国の小学校、中学校を中心に教育用コンテンツを配信するサービスとして展開している。年間使用料の方式を採用しているため、購入したいソフトを指定すれば、学校内においては1年間の使用が可能となっており、パッケージを購入するよりも安価に利用できるのが特徴。さらに、1年間の契約となっているため、指導要領の変更や、次年度に教科書が改訂されたり、教材やコンテンツがバージョンアップした場合にも、次年度になった時点で、新たに契約をすれば最新のものを利用できるというメリットがある。教員の人事異動の場合にも、それぞれの教員が適した教材を新たに選択することができる。さらに、EduMallに登録している教材やコンテンツは、購入前に機能を試すことが可能であり、自らの教育手法に合致した内容であるかどうか、使い勝手はどうかといったことを確認できる。
現在、教材会社、教科書会社など27社との提携により、掲示型、ドリル型、プリント型、動画など、約800タイトルのコンテンツを用意。4月からは、毎日新聞社との提携により、毎日小学生新聞を無償で配信するサービスを開始。さらに今年度からは、高画質映像ダウンロードサービスをスタートさせ、NHKが用意している歴史映像、気象映像、生物映像などを中心とした教育用ビデオクリップ100本を、1校あたり年間1万2,000円で提供。また、内田洋行が制作した教育用ビデオクリップも、150タイトル/1,000クリップを提供し、1校あたり年間8,000円で提供する。
毎日小学生新聞は、1936年創刊の小学生向け新聞としては最も古い歴史を持つ媒体。2011年度から実施される新学習指導要領では、小学校国語では読むことの言語活動例として、編集の仕方や記事の書き方に注意して新聞を読むことがあげられており、現場で新聞を活用することが予定されている。同社では、「今年度から移行期間であることから、これを電子化して教育委員会、小学校に配信する。クラスごとに行われる朝の会などで、世界や日本で、いまどんなことが話題になっているのかを共有することができるようになる」としている。
また、NHK教育用ビデオクリップは、2006年11月から2010年3月までの期間、内田洋行やNECなどが参加した総務省のオアシス実証実験で提供されていたビデオクリップのなかから利用実績が高かった小学校、中学校向けのコンテンツを提供するもので、デジタルテレビや電子黒板に拡大表示して利用する提示用教材に最適としている。
大久保取締役専務執行役員は、「EduMallの最大の特徴は、教育現場の声を聞き、最適なコンテンツを提供していることにある。教材用ソフトウェアひとつをとっても、教員がモジュールを組み合わせて工夫し、開発する仕組みでは、時間が取れない教員にとっては、開発時間すらとれなく、結果としてソフトやコンテンツを利用する機会を減らすことにつながりかねない。すぐに教育に使用できるように、教育現場に最適なコンテンツを用意したのも、教育現場の現状を知っている内田洋行だからこその取り組み。昨今、急速な勢いで教室に導入されている電子黒板や、大画面薄型テレビに表示するために、最適なコンテンツも用意している」と語る。
また、「もともとソフトやコンテンツに対する予算措置が少なく、ハードウェアを導入しただけで、そのあとの活用/運用に焦点が当たっていない教育現場の現状を改善していく必要がある。所有ではなく、利用という観点からソフトウェアやコンテンツを利用できるEduMallの仕組みはそれを解決する手段になる」としたほか、「ソフトメーカーやコンテンツホルダーにとっても、教育現場において、ライセンスや著作権に則った形で活用されているかが大きな課題となっていた。EduMallでは、著作権管理をしっかりと行える認証制度を導入した仕組みとなっており、しかも、この仕組みをもとに事前にソフトを試用できるようになっている。ソフトメーカーにとっても有効な手段だといえる」とした。
「EduMallは教育の原点回帰ともいえるシステム」と大久保氏。「内田洋行は教育から逃れられない会社。現場の教師やコンテンツホルダーの受けとめ方を見ながら、市場に適切な球を投げて、よいマーケットを作り上げていきたい」 |
現在、EduMallを利用しているのは、小中学校を中心に約2,600校。全国130自治体で利用されているという。「7月から始まる当社新年度においては、全自治体1,750のうち、約1割の自治体での利用を目指したい」と、EduMallの事業拡大に意欲を見せている。
内田洋行では、このほかにも、教育分野向けに提供するハード/ソフトなどの教材を集録した教材総合カタログ、理化学機器カタログ、PCソフトカタログなどを冊子として用意。学校で必要な機器、教材を一覧性がある形で提供する仕組みを継続的に提供したり、内田洋行の新川本社ビル内に「TestBed」と呼ばれるフロアを用意し、学校の様子を再現したクラスルームを設置。実際の教室の様子を再現した形で、どんな教材がが求められるか、教材や機器を教育現場でどんな使い方ができるのかといったことを提案できるようにしている。
さらに、同社では、2006年から教育総合研究所を開設し、大久保取締役専務執行役が所長を兼務。内田洋行が教育事業で取り組む「ICT」「教材・教育」「施設設備」「大学改革支援」という4つの事業基盤をベースに、「いい学校づくり、いい教育づくり、いい授業づくり」を支援するための研究活動を行っている。
「内田洋行は、100校プロジェクトやミレニアムプロジェクト、教育の情報化など、新たな教育施策と関連する事業に積極的に関与し、また各種業界団体などの活動にも中心的な役割を果たしながら取り組んでいる。こうした取り組みや、現場と直結した長年のノウハウの蓄積が、教育分野で高い評価を得ている。事業の側面から見れば、黒字化しなくてはならない課題事業もあるが、短期的な利益を追求するのではなく、教育分野における変化を捉え、長期的な視点で取り組んでいきたい」としている。