真空装置大手のアルバックは6月24日、直接真空中に液体を噴射して凍結乾燥する技術「マイクロパウダードライ(μPD)」を開発、また併せて無菌製剤量産用として粉体充填から容器封止(巻締め)までを一貫ラインとして構築したシステム「μPD400」「μPD2000」を発表、即日販売を開始したことを発表した。
μPD技術は、真空中に直接液体を噴射し、水分の蒸発により自己凍結させ昇華乾燥する技術。液体から直接、凍結乾燥粉体を得ることができる同社独自の技術。これまで、同様の真空中に直接液体を噴霧して凍結乾燥するというアイデアはあったものの、ノズル氷結や融解、乾燥に長時間を要するなどの課題があった。同社では、特殊なノズルの開発と真空チャンバの構造および加熱。回収機構の開発により、乾燥時間の短縮と高い回収率を実現したという。
また、同技術は真空中に直接液体を噴射するため、噴射された微小液滴が瞬時に凍結して濃度分布を従来手法と比べ狭いものとすることが可能だ。さらに、特殊な噴射ノズル構造を採用したことにより、ノズル部が氷結することなく連続的に噴射ができ、粒子径の制御も数10μm~数100μmレベルで行うことが可能だという。
加えて、μPDを用いて生成される微粒子は、内部がポーラスな球形となっており、これまで考えられなかったものへの適用の可能性も出てくるとしている。
μPDを搭載した装置である「μPD400」は実験用途の少量生産用で、粒子径は100~400μm、粒子径サイズは10μm刻みで設定することが可能だ。処理水量は最大5lで、棚温制御は-40℃~+60℃、5~30Paの真空制御、CT温度は-60℃となっている。
一方の「μPD2000」は医薬品用途をターゲットとした量産対応機。粒子径100~400μm、粒子径サイズの10μm刻み設定、および真空制御範囲はμPD400と同様だが、処理量が最大150lとなっているほか、棚温制御が-50℃~+60℃へと拡大され、CT温度も-65℃となっている。また、1時間あたり1lの乾燥が可能なほか、充填から計測、容器(バイアル瓶)封止までを真空状況下で自動で行うことが可能な「一貫ライン用粉体充填ユニット」も用意。これにより、無菌保証と、人間が介在したり、大気被爆によるハザード汚染の危険性を減らすことが可能となった。
μPDの手順は大きく3つある。1つ目は「水粒子生成工程」、2つ目が「自己凍結工程」、そして3つ目が「乾燥工程」となっている。この工程を1つの装置で実現することが可能なため、従来の凍結乾燥システムでは10工程かかっていた製品化までの手順を4工程へと削減することが可能となり、設備投資コストおよびメンテナンスコストの削減が可能となるほか、工程ごとの薬剤のロスを減らすことが可能で、製品完成時の回収率は95%以上を達成することができるという。
左が従来の凍結乾燥法による医薬品の生成システム。回収作業や容器封止などは別システムで行うほか、人手が介することによる汚染の危険などがあった。右がμPDを活用したシステムの場合。容器封止まで一貫して真空装置内で人手を介さずに行うことが可能となる |
アルバックの代表取締役会長である中村久三氏 |
同技術および装置について、同社の代表取締役会長である中村久三氏は、「危険性の高い抗がん剤なども密閉した状態で作ることができるようになり安全性が増す。しかし、なんと言っても、(従来になかった技術/装置を用いることで)今までとまったく違う製造工程を実現できるようになる」と表現。「製薬分野向けとしてきたが、フリーズドライが活用できるあらゆる分野に適用できる可能性があるが、それ以外でも活用できる可能性がある。こういったものに興味を持ってくれるところがあれば、さまざまな分野での適用を狙っていきたい」(同)とし、全世界に対し、新技術とそれを搭載した装置をアピールしていくとした。
なお、同社では、μPD400の価格を3800万円から、μPD2000の本体が2億円から、オプションの一貫製造装置を組み合わせたソリューションとして3億円から、としており、再認可などで時間がかかる量産は2012年度までに数台程度としながらも、実験用装置であるμPD400について初年度5倍、2011年度で10台以上の販売を見込んでいる。