早稲田大学大学院情報生産システム研究科の後藤敏教授の研究室および上海交通大学の研究チームは、次世代フルハイビジョン向けの低消費電力のビデオ復号LSIの開発に成功したことを明らかにした。2010年6月15~17日に米国ハワイ州で開催された半導体デバイスに関する国際会議「VLSI技術シンポジウム(2010 Symposium on VLSI Technology)」にて発表された。
ビデオデータは高画質になるとデータサイズが大きくなるために、伝送する際に1/10~1/20程度の圧縮処理を行い(符号化)、データの転送後、伸張処理(復号化)によりデータを復元する作業が行われる。ハイビジョン用ビデオは家庭用ビデオレコーダにおいても採用されるようになってきており、それらには圧縮方式としてMPEG-2が使われている。しかし、近年、圧縮度を約2倍に向上させたH.264規格が出現、画素数も現在のフルハイビジョン(1920×1080)に代わり、4096×2160の次世代ハイビジョン(スーパーハイビジョン)の高精細なビデオカメラやレコーダの実現に向けた研究開発が進められている。
今回、研究チームでは、低消費電力を実現した4096×2160に対応したH.264復号LSIを開発した。具体的な性能は、H.264/AVCハイプロファイル標準仕様に基づくデコーダで、4096×2160画素の動画を60fps処理することが可能。
また、処理するマクロブロック順序の最適化、フレームのロスレス圧縮方式、並列処理による高速化などの技術を新たに開発、搭載することで、外部DRAMとデコーダエンジン間の転送量を従来比で38%削減することに成功した。
さらに、復号チップの電力消費としては4096×2160@60fpsで189mWを達成(SMIC 90nmプロセス)、従来の復号チップ比で55%~64%の消費電力削減、DRAMも60%の消費電力削減が図られた(設計ルールが異なるためスケーリングを行った結果)。
こうした低消費電電力かつ回路規模の小さなLSIを開発したことにより、研究チームでは高品質な家庭用ビデオカメラなどの市場を開拓できると期待しており、今後、成果を企業へ移転し事業化に向けた取り組みを進めていく予定としている。