ルネサス エレクトロニクスは、広範囲にインダクタ(コイル)の値を変化させても、その性能指標であるQ値の劣化量を従来技術の1/2まで抑制することが可能となる、可変インダクタ技術を開発したことを発表した。また、このオンチップインダクタを用いて広帯域可変周波数発振器を設計、その基本動作を確認したことも明らかにした。同技術の詳細は、2010年6月15~17日に米国ハワイ州で開催された半導体デバイスに関する国際会議「VLSI技術シンポジウム(2010 Symposium on VLSI Technology)」にて16日(現地時間)発表された。
Gbpsクラスの高速回路では、能動素子であるトランジスタ以外に、インダクタやコンデンサ(容量)などの受動素子が多用されることとなる。多種の通信規格に対応するにはこれらのインダクタや容量の値を広範囲に変化させることが求められるが、特にインダクタの値を変化させることは困難で、従来より値を変化させるためにインダクタ同士の接続をトランジスタのスイッチで変化させる方式や、磁性体を機械的に動かす方法が提案されてきたが、前者はスイッチであるトランジスタの抵抗がインダクタの特性(Q値)を劣化させる、後者はSiチップへの集積化が難しいといった問題があった。
今回同社が開発した回路は4つのインダクタを2個ずつ並列に接続するブリッジ構造で構成されており、このブリッジ回路の電気的なバランス点をトランジスタのスイッチで移動させることで、インダクタの値を広範囲に変化させるもの。このため、インダクタの値が変化してもインダクタの性能低下を抑制することができるようになる。
例えば試作した可変インダクタでは、10~20GHzの高周波領域でも従来技術に比べてQ値の劣化量を1/2程度に低減できたほか、この可変インダクタを用いて試作された周波数発振器でも、10~20GHzの広帯域での動作を確認した。
なお、同社では今回の成果が受動素子を多用する高速回路やアナログ・RF回路を小型化・高性能化する中核技術になるものと考え、今後も研究開発を継続していくとしている。