EVの登場で産業構造に大きな変革が訪れる
デロイト トーマツ コンサルティングは、全世界を対象に電気自動車(EV)に対する消費者の意識調査を実施。先行して日本と米国の意識調査をまとめ、その動向分析を行ったことを発表した。また、併せてEVの市場に関する説明会も開催、日米欧中のそれぞれの状況などの説明を行った。
デロイト トーマツ コンサルティング 自動車セクター担当パートナーの佐瀬真人氏 |
同社パートナーの佐瀬真人氏はEVが登場したことにより、「20年後には大きく産業構造が変わっている」とし、クルマとICTの融合による交通全体の最適化が進むほか、バッテリとモーターを中心としたエレクトロニクス化によるコンポーネントの減少による垂直統合型の産業から水平分業化が進み、かつコンシューマニーズのオーバーシューティングが発生する可能性を示唆した。また、2030年には新興国市場が先進国市場の規模を抜くことを指摘、これに伴う低価格メーカーの台頭と価格競争の激化、そしてバリューチェーン全体での収益性の悪化懸念を示し、そうした中で生き残るためには「ITSからICTへと発展し、融合が進むことから従来の自動車業界内のプレーヤのみならず、ITベンダやクラウドサービスベンダ、エレクトロニクスメーカーなどとの多角的なアライアンスを構築する必要がある」とした。
中国では2015年がEVの本格普及タイミングになる
デロイト トーマツ コンサルティング マネジャーの周磊氏 |
また、同社マネジャーの周磊氏が躍進著しい中国の動向について説明した。中国の自動車産業の販売台数は2001年から2009年までのCAGRで25%と高く、2010年は1~4月のみで620万台に到達、年間では1,800万台に達する見込みとしており、最近の政府調査では2020年に一般乗用車だけで2,000万台が販売が予測されているという。
こうした伸び盛りの同市場の中において、「2015年を契機に2020年の新車販売台数の10~15%が新エネルギー車になる」(周氏)との見方を示す。2015年を契機としたのは、日米欧などの各国自動車メーカーが2013年~14年ころにEVなどを本格的に投入することが予測されており、それがトリガになるとした。
なお、中国では新エネルギー車の普及に向け、中央政府がロードマップを策定、技術開発支援や市場育成政策を推し進めているのに加え、地方都市がそれぞれ地場産業の育成などを目指した補助政策などを行っている。また、海外との提携も積極的に進めており、「世界最大の市場としながらも、テスト市場とした提携が顕著」(同)な動きを見せているという。
こうした動きは今に始まったことではなく、「従来のガソリン車では電子制御などで先行する日米欧のメーカーに勝てないため、バッテリへと転換されるEVで巻き返したいという考えから、10年前から計画的に進めてきている」とのことで、2010年は「個人への購入補助」と「充電方式の標準化」の2つの大きな施策が進められている。個人補助は、購入者に直接補助するのではなく企業向けに補助を行うことで、間接的に消費者が購入しやすくしており、その額はプラグインハイブリッド(PHV)とEVで異なるが、例えばEVでは15kwから補助金が出され、その額は4.5万元~6万元となっている。
また、各国の自動車メーカーもさまざまな動きを見せているが、日本と他国のメーカーの違いを周氏は「日本は自主技術を持ち込むが、欧米は現地で関連技術を開発して対応を図っており、かつビジョンやコンセプトを発信している。これは中国では我々の企業はどういったことを考えて取り組んでいるということを示さなければユーザーがついて来にくいため」と説明する。
現在、中国のEV市場はハイエンドかSmall 100に代表されるようなローエンドに極端に分かれている。しかし、「将来的には両方ともにミドルレンジに中心を移すことで普及拡大を図る」としており、そのレンジとしては日本円にして70~150万円、最高時速80~100km/h程度、航続距離100~200km程度、ナビゲーションなどのいくつかのオプションの搭載もありうるとした。
消費者の意識と政府目標に乖離が見られる日本市場
日本の消費者に向けたEVに関する意識調査は「自動車に対する意識」「普及可能性と参入障壁」「新しい使い方の可能性」の3つのポイントでインターネット調査により行われた。調査実数は2,075サンプルで、20歳から69歳までの男女が参加したという。また、同様の調査は米国デトロイトでも実施され、こちらは1,612サンプルとなっている。
意識調査の結果としては、クルマに対して付加価値を感じる割合が減少し、90%以上の人が単なる移動手段の1つとしての見方を示し、購入理由としても「価格」や「燃費」という点を重視、コモデティ化が進んでいることを示した。
デロイト トーマツ コンサルティング製造業グループシニアコンサルタントの尾山耕一氏 |
またEVに対しては「環境に優しい」が91%、「高い」が88%となり、「ゼロエミッションや高価なバッテリを搭載することによる初期コストへの注目が高いが、まだ実車がほとんど世に出ていない状況なため、今後どういったEVが登場してくるかで環境面以外のプラスイメージが作られるはず」(同社シニアコンサルタントの尾山耕一氏)とするが、EVの購入に対しては、「価格」「走行可能距離」「充電インフラの拡充」の3つが課題となってくるとした。
価格については、約7割が250万円以下で、政府補助金を差し引いた価格(リーフの299万円、i-MiEVの284万円)を考えると、まだまだギャップが存在しており、燃費については、約8割の人が100km/lの燃費と仮定した場合でも、ガソリン車に比べて付加価値として乗せられるのは20万円以下と回答、ランニングコストはそれほど気にしていないことが明らかになった。
また、走行距離については85%程度の人が320km以上の可能距離を要望しているが、実際の平日、休日ともに走行距離は80km未満で、要求と現実のギャップを示して、その差を埋めていく必用があるとした。
加えて、充電インフラについてもスーパーなども含めた公共的な施設や現状のガソリンスタンド並みにないと満足できないという回答が85%程度となっており、「結論として普及はもう少し先と予測した」(同)としており、同社の予測シナリオでは2020年に環境省が目標としている10%の普及率に対し1%と提示、「開発支援や充電インフラ整備、購入インセンティブといった政府の意図的関与や、充電のしやすさ、電池性能の向上、コスト低減といった技術開発の加速、そして消費者側の走行可能距離などに対する意識の変化などが努力ケースとして満たされれば、目標レベルには近づける可能性がある」と、価格と走行距離のニーズと実力のギャップを埋めていく努力を国家、EV、消費者それぞれが歩み寄っていく必要性を示した。