今回開発した技術の説明を行う同社技術開発本部 先行研究統括部 先行研究第1部長の水野正之氏 |
ルネサス エレクトロニクスは2010年6月10日、数cmの極短距離無線通信による非接触通信で使用されるアンテナのサイズを従来の100分の1となる数mm2へ小型化するとともに、送受信回路と1チップ化する技術を開発した。同開発成果は、6月16日から18日まで、米国ホノルルで開催されている学会「VLSI回路シンポジウム(2O1O Symposium on VLSI Circuits) 」にて、16日(現地時間)に発表された。
これにより、1cmの極短距離の非接触通信を、1cmの位置ズレがあっても実現できるため、従来は困難であった非接触通信技術のコネクタ分野への応用が可能になる。さらに、LSIへの内蔵が可能な直径1mmのアンテナで、たとえば数cm角サイズのフラッシュメモリカードと携帯情報端末との間の通信インタフェースを非接触にすることもでき、水の付着や磨耗により接続が不安定になるなどの課題を克服できるようになる。
非接触コネクタ分野への応用を考えた場合、すでに非接触通信の応用技術として実用化されている非接触ICカードで使用されているアンテナは面積が大きすぎる。また、実用化に向けて開発が進められている積層チップ間通信で使用されるアンテナは小型であるものの送信チップと受信チップの位置ズレの許容度が小さいといった課題があった。
また、アンテナの小型に伴いノイズの影響が大きくなり、通信不能となる危険性もある。このように非接触コネクタ分野への応用については、従来技術の延長では無理とされていた(図1)。特に受信回路側でのデータ復調に使用される同期信号の揺らぎに起因するノイズの影響を除去することが、従来の無線回路構造では困難であった。
今回開発した技術は、新たな方式を開発することで、この同期信号の揺らぎによるノイズを取り除くことを実現した。新方式は、有線通信のソースシンクロナス方式の考え方を無線通信に応用したもので、送信側からデータ信号(3.6GHz帯)と同期信号(4.8GHz帯)をキャリア周波数に乗せて同時に送信する方式となっている(変調方式はASK)。受信回路側では、同期信号を除去してデータ信号を取得、データ信号を除去して同期信号を取得する(図2)。
受信回路と送信回路で同期信号を個別に生成していた従来方式と比べ、ノイズ耐性が高くなる。このため、送信回路と受信回路の位置ズレ許容1cm程度を実現しながらも、アンテナ面積を従来の1OO分の1となる数mm2に小型化するとともに、アンテナとその送受信回路の1チップ化を可能にした。
また、今回開発した無線通信方式を用いると、受信回路において同期信号を発生させる必要がなくなるので、消費電力が大きいクロック発生回路(PLL)が不要となる。そのため、受信回路の消費電力を従来と比べて50%程度削減することができる(図3)。
今回はまた、同技術を用いてアンテナを内蔵したトランシーバLSIを試作し、地上デジタル放送のハイビジョン伝送速度レベルである15Mbpsの非接触データ送受信が可能であることも確認された(図4)。
今回の開発した技術を応用した非接触コネクタを用いると、機器の小型化はもちろん、使用環境に依存しない高い通信品質の保証が可能になりる。また、薄型の携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末などとクレードルとの通信インタフェースを非接触通信にすることで、薄型機器のデザインの自由を高めることも可能となっている。同社では、2~3年後の製品実用化を目指している。
なお、同社では今回の成果が、ユビキタス機器の小型化・高信頼化を支援するための基本技術であると考え、今後も研究開発を加速していくとしている。