半導体に関わる、すべての人たちに読んでもらいたい
2010年4月に「知らなきゃヤバイ! - 半導体、この成長産業を手放すな」という本が出版されました。本書は、半導体に関わるさまざまな工程を取り上げて、半導体ビジネスがどのように成り立っているのか、また、日本の半導体産業と諸外国の半導体産業にはどこに違いがあるのかを記しています。
そして、半導体産業に関わるすべての方々に対して、これからの半導体産業が生き残るためのメッセージが書かれています。本稿では、そのメッセージをかいつまんで紹介したいと思います。
エンジニアへのメッセージ
日本における半導体産業の根幹は、プロセスの微細化による高集積化といわれてきました。半導体部品は、年々、高集積化が進み、1つの部品に多くの機能を詰め込み SoC(System on Chip)と呼ばれる高機能半導体へと進化してきました。
さらなる微細化を可能にするためには、微細加工を行うための設備が必要です。ところが、プロセスの微細化に伴い設備に要する額が大きくなりすぎて、半導体メーカが1社で投資することが困難になってきました。そこで、工程ごとの分業をせざるをえなくなってきました。本書には、半導体産業で、どのような分業が行われているかが書かれています。
工程ごとに分業を行う場合、前後の工程との連絡が欠かせません。従来は、社内の連絡だけで足りていたものが、企業をまたいで連絡を取り合う必要が出てきました。これからのエンジニアは、そういった、企業をまたいだ意思の疎通を図る能力が必要とされてきます。
また、半導体が組み込み分野で使われるようになって、半導体におけるソフトウェアの比重が大きくなってきました。これからは、半導体のエンジニアであっても、ソフトウェアの知識を持つことが求められてきています。
マーケッターへのメッセージ
本書では、日本の半導体メーカに足りないものとして、エンジニアが顧客を訪問していない事が取り上げられています。顧客のもとには、営業だけが向かう。顧客から技術的な話が出ても、営業は、エンジニアではないから即答できない。営業が社内に持ち帰って、社内のエンジニアに聞く。そういうスタイルが定着しています。
もし、エンジニアが積極的に顧客の話を聞きに行っていたら。もし、営業がエンジニアとしての能力を持っていたら。顧客と営業が話をしたその場で、方針を決定することができます。デシジョンを先延ばしする必要はありません。
このエンジニアとして活躍している営業をフィールド・アプリケーション・エンジニア(FAE)と呼んでいます。ただし、 FAEという肩書きで呼ばれていても、その業務内容は企業によってさまざまであると感じています。
外資系の半導体メーカは、半導体を設計する部隊を日本国内には配置せず、国外に移転する動きを見せています。代わって、国内で重視されているのがFAEの存在です。 FAEが顧客のもとで技術的な話が出来るのであれば、設計部隊が日本国内に居なくても十分に技術的な打ち合わせができ、顧客が求める半導体が提供できるからです。
投資家へのメッセージ
従来の半導体メーカは、本書で言及されているように、垂直統合型(IDM)の産業でした。このモデルは、設計・製造・販売を1社で手がけます。ところが、このようなモデルを擁するには、莫大な設備投資が欠かせません。
そこで、最近の半導体メーカは、水平分業という考え方を取り入れています。半導体の設計・製造工程を細かく分割して、1つの企業では、分割された工程のみに力を入れるという方法です。
大手と呼ばれている半導体メーカにも、製造工程だけを外部に委託する動きが見られます。ただし、その時に必要なのは、製造を行わない半導体メーカにどのような強みがあるかということです。ただ安い半導体を供給するだけでは、たちまち価格競争に飲み込まれてしまいます。強みが無ければ、大手であっても生き残りは困難です。
生き残るのに必要なのは、それぞれの企業が、その持っている強みを生かすことです。これから、どんな強みを持った企業が生き残るのか。また、どんな事柄が強みになるのか。そのヒントが本書に記されています。
経営者へのメッセージ
本書で書かれていメッセージの多くは、経営者に宛てられたものが多いと思いました。半導体産業に限りませんが、経営者に求められるのは、強いリーダーシップです。
これからの半導体産業は、どの分野と工程に注力していくのかを経営者が決定しなくてはなりません。注力すべき範囲を定めずに漫然と半導体を供給しているだけでは、すぐに疲弊してしまいます。半導体産業は、1社ではどうにもならないほどに広範囲に広がってしまっていました。
逆に半導体産業がこれほど広範囲に広がったからこそ、特定の分野や工程に複数の企業が集まることが少なくなるのではないかとも考えられます。自分の得意な分野や工程を定め、経営資源をつぎ込んでいく必要が出てきます。経営者が自信をもって、注力すべき範囲を定めれば、必ずや企業はその目指すべき方向に向かってゆくことでしょう。
まとめ:これからの半導体産業
本書では、半導体産業がこれからも成長産業であること。これまで日本の半導体メーカが行ってきたような、垂直統合型の企業が生き残るのは難しいという事が強調されています。
逆に、こんな考え方も出来ると思います。これまでは1つの分野や工程に多くの半導体メーカが競っていました。が、あまりにも半導体産業が広範囲に拡がったために、分業化が進むと、プレーヤの数は減っていきます。その結果、すべてのプレーヤが恩恵を受けるいわゆるWin-Winの相互扶助的な産業へと移り変わる可能性もあります。
もちろん、そんな相互扶助業界でも、得意な分野や工程を持っていることが必要です。日本の半導体関係者が得意分野を生かして活躍する、そんな未来が見られる希望が持てる、本書からはそのような希望が感じられました。
知らなきゃヤバイ!半導体、この成長産業を手放すな
発行 日刊工業新聞社
発売 2010年4月30日
形・ページ A5判・152ページ
ISBN 978-4526064562
定価 1,470円
出版社から:日本で半導体産業が危機的な状況に陥っている中、世界の企業はファブレス、ファウンドリ、IPベンダーなど、分業構造の新しいビジネスが続出している。「今、半導体産業という世界的な成長産業を手放したら、日本の産業界は取り返しのない選択ミスをすることになる」