社団法人日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)は、6月8日、東京・内幸町の帝国ホテルにおいて、JCSSAサマーセミナーを開催。そのなかで、経済産業省の支援のもと、社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)との協力で推進している「情報システムの取引者育成プログラム」について、その概要を明らかにした。
情報システム取引者育成プログラムは、情報システムの信頼性向上とトラブル防止のために用意された制度で、情報システム取引のリスク、法的知識を有す人材を育成することを目的としている。
講師を務めた情報システム・ソフトウェア取引高度化コンソーシアム委員兼取引意識向上策検討ワーキンググループ主査であり、CSAJ常任理事の板東直樹氏(アップデートテクノロジー 代表取締役社長)は、「このプログラムは、ベンダやシステムインテグレータが、情報システムの専門家としての説明責任を果たすこと、公平で適切な契約実務を実現すること、さらに、ユーザーとの協働によるプロジェクトを推進することで、信頼性の高いシステム構築を実現するとともに、システム構築に際して、ベンダとユーザーとの間で発生しやすいトラブルを回避できる人材の育成を狙っている」とした。
プログラムは、制度説明会、研修講座、修了テストの3段階で構成。経済産業省作成のe-Learningコンテンツの内容を学び、その習熟度を修了テストで判定し、合格者には修了証を発行する仕組みとなっている。
プログラムの策定に当たっては、JCSSAおよびCSAJの会員企業による合同契約検討委員会構成メンバーを軸として、コンテンツワーキンググループ、制度ワーキンググループで活動を開始。2007年4月には、ベンダとユーザーの間での契約提携や変更管理手順に至るまでの取引ルールやモデルプロセスや契約に関するドキュメントを例示した「モデル契約第一版」を、2008年4月には、ITの専門家がいない中小企業などを対象にシステム構築を行うベンダが活用することを前提とした「モデル契約追補版」を公表し、これらの活用に即した教育プログラムとしている。
「モデル契約第一版およびモデル契約追補版では、これまでの情報システム構築のトラブルに関する判例をもとに、ベンダに求められる義務や契約すべき内容、またはユーザーの義務などを網羅しており、ベンダとユーザーの役割と論点が整理されたものとなっている。これにより、適切な形態の契約が選択でき、特有の問題に対応できる契約手順が提供される」という。
研修では、業界を取り巻く課題と留意すべき行動指針、法的な責任、契約手順といった内容が盛り込まれ、「ベンダの法的責任の正しい理解と、契約上のリスクを回避する契約テクニックを習得することができる」とした。
なお、同プログラムは、今年7月から実施に移す予定であり、午前9時から午後5時30分までの1日をかけて講習とテストを実施する。費用はJCSSAおよびCSAJ会員企業は1万8,000円、会員外は3万6,000円。講師には、モデル契約第一版およびモデル契約追補版の策定にも関わったブレークモア法律事務所の所属弁護士があたり、「多くの判例を理解している弁護士により、直接教育が行われるという点でも効果が高いものになる」としている。
修了者の認定は3年間の期限となっており、更新後は5年期限となる。
一方、JCSSAのサマーセミナーでは、「セキュリティビジネスはこう変わる」をテーマに、S&Jコンサルティング代表取締役の三輪信雄氏が講演。クラウド時代における新たなセキュリティサービスのあり方などについて説明した。また、セミナー終了後には懇親会が行われ、業界関係者による積極的な情報交換が行われた。
同協会・大塚裕司会長(大塚商会社長)は、「昨年6月を底にして回復傾向が見られる。大塚商会では、コピー用紙の販売量が昨年11月から前年比2桁成長となり、直近では20%を超えた。まだまだ伸びるだろう。新たな環境のなかで、ITを活用しなければ企業を伸ばすことができないという認識も広がっている。さらに、2004年から2006年に導入したハードウェアのリプレース需要が出てきており、省エネの観点から買い換えるといった動きも出ている。そして、Windows 7への移行もある。いまこそ一歩踏み出す時期である」と挨拶した。
来賓として挨拶した経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 東條吉朗氏は、「菅首相のもと、日本の経済成長を確固たるものにしたい。その核になるのはIT。ユーザーの身近にいる企業が参加するJCSSAの力を借りなくては、次の発展がない。クラウドコンピューティングもその一助となる。ITの高度化によって、日本の経済も高度化させたい」などとコメントした。
富士通の山本正已社長は、「4月に社長に就任して以来、100社以上のお客様を訪問したが、多くの経営者が語るのは、経営にとってITはなくてはならないというもの。だが、その一方で、ITコストをもう少し下げてほしいと言われる。それに対して、私はITのコストダウンは進めますと答えるが、同時に、余ったお金は新たな分野にIT投資してくださいともいう。相手の経営者は『そうだ』と答えてくれる。ITはさらなる可能性を秘めている。クラウドコンピューティングもそのひとつであり、知恵や行動といった膨大なデータを活用して、新たなサービスを創造することもできる。メーカーと販売店とのパートナーシップでIT産業を元気に成長させていきたい」と語った。
さらに乾杯の音頭をとった社団法人コンピュータソフトウェア協会の和田成史会長(オービックビジネスコンサタント社長)は、「1950年にコンピュータが生まれて今年で60年を迎える。1980年にPCが誕生するまでの30年間は集中の時代。PCが誕生して以降は分散の時代に入った。2010年以降はどうなるか。集中と分散の融合の時代に入ってくる。スマートグリッドやクラウドコンピューティングなどがそれに当たる。集中と分散の融合時代に入ると応用技術が重視される。ここは日本が得意とするところである」などと語った。