独SAPでCTOを務めるVishal Sikka氏は、独フランクフルトと米オーランドで同時開催した年次カンファレンス「SAPPHIRE Now 2010」でプレス向けに技術面からSAPの戦略について話をした。

SAPの新しい顔として存在感を増しているVishal Sikka氏

「技術の世代が変わりつつある」とSikka氏は言う。40年近い歴史を持つSAPは、業務ソフトウェア業界の変遷とともに成長してきた。Sikka氏はPeregrine SystemsからSAPに入社し、2007年5月に同社初のCTOに就任した人物。今年2月よりエグゼクティブボードのメンバーも勤める。Sikka氏が入社後驚いたのは、「30年以上SAPを利用しているという顧客が100社以上あること」と言う。SAPのミッションは、顧客のビジネスを妨げることなく最新の技術を届けること。取り巻く環境は変わっても、顧客との関係だけは変わっていないとSikka氏は続ける。

Sikka氏は今年のSAPPHIREの3つのテーマ(インメモリ技術、モバイル、クラウド)について説明したが、ここではインメモリ技術とモバイルについてSikka氏のコメントをまとめる。

インメモリ

リレーショナルデータベース(RDB)は20 - 25年前の技術で、当時と比べるとハードウェアは飛躍的に進化した。メモリの速度と価格は大きく改善しており、テラバイト級のメインメモリを持つブレードが登場している。メモリに大容量のデータを保存できるようになった。一方、RDBは行指向で、業務アプリケーションの場合は百単位のフィールドを持つこともある。メモリ上に、行ではなくカラム主導でデータを構築する。大規模なデータをメモリに移行し、カラムにより圧縮を図り、これにマルチコアを組み合わせることで、RDBの数千倍高速になる。

SAPはここで、33年の歴史を持つデータベース「Max DB」を土台に、カラムナプロセッシングの「TREX」などの技術を組み合わせてインメモリデータベースを構築している。これは、既存のRDBを根本から変えるものだが、顧客のシステムに崩壊的な変化を与えることはない。

モバイル

2010年に「Project Gateway」をスタートした。米Microsoftと進めている「Duet Enterprise」、米IBMと進めている「Alloy」、カナダResearch In Motion(RIM)との提携を活用し、SAPのアプリケーションにアタッチするメカニズムとなる。これを活用した「Mobile Gateway」はモバイルに対応するもので、Sybaseと提携して進めてきた。先に、モバイルからCRMにアクセスできる「Mobile Sales」をリリースした。

Sybaseを取得することでGateway、「NetWeaver Mobile Platform」などを強化できる。顧客は接続性のパワーを活用できる。

モバイルで課題の1つがユーザーエクスペリエンス。画面などの制約に加え、ユーザーの集中レベルが低くなるため、見栄えがよく簡単に利用できるUIが必要。また、プラットフォームや機種毎に対応しなければならない。Sybaseはこの分野に精通している。モバイルははじまったばかりで、今後進化していくだろう。それには堅牢なアーキテクチャが必要だ。Sybaseの買収で他社をリードできる。

すべての土台となる「NetWeaver」

これらの土台となるのがNetWeaverだ。「NetWeaverは死んだのかと聞かれるが、SAPのエンタープライズビジネスプラットフォームで、既存のシステムでも新しいシステムでもプラットフォームとなる」とSikka氏。モバイルではNetWeaver Mobile Platformを、オンデマンドの「Business By Design」もNetWeaverをプラットフォームにしている。エンドツーエンドのプロセスを実現するにはオンデマンドとオンプレミスの連携が必要になるが、「ここでNetWeaverやGatewayなどのミドルウェアが答えのひとつになるだろう」とも述べた。

「SAPがクラウド、モバイル、リアルタイムという3つの方向に進化していくにあたって、NetWeaverは土台となっている。NetWeaverもこの3つの方向に向かって拡張している」(Sikka氏)

米Oracleに回答、インメモリアプライアンスを提供へ

Sikka氏は19日のフィナーレを飾る基調講演に登壇し、インメモリデータベースの具体的な製品戦略を披露した。

SAPは現在、ハードウェアベンダと協力し、インメモリデータベースアプライアンス「High Performance Analytical Appliance」を開発中だ。R/3などのERPに接続して利用できるもので、既存顧客がリスクなくインメモリ技術を導入できるようにする。現在、実現に向けて顧客20社を招いて作業を進めているという。

ハードウェアベンダとして名前が挙がったのは、米Hewlett-PackardとIBM。「買収したのではない」と冗談も飛ばした。このアプライアンスは年内に提供する予定だ。

またオンデマンドでは、「SAP Carbon Impact on Demand」を発表、7月より提供を開始するとした。CO2排出管理技術をオンデマンドで提供するもので、米Amazonとの提携により実現した。既存顧客は拡張として利用できるもので、今後、さまざまな拡張機能を揃えていくという。

Sikka氏が挙げる新しい世代のエンタープライズのキーワードは「リーチ」と「リアルタイム」だ。エンタープライズベンダの再編が進む中、SAPが新しい世代をどのように牽引していくかが注目される。

インメモリデータベース・アプライアンス「High Performance Analytical Appliance」は年内提供の予定