携帯電話の次世代通信規格「LTE(Long Term Evolution)」。高速通信、低レイテンシを実現する同規格の実用性は果たしてどの程度のものなのか。本誌は、ファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術。以下、ファーウェイ)らが上海で実施している実証実験を目にする機会を得たので、その模様をお伝えしよう。
データ通信を意識した次世代通信規格LTE
まずはLTEについておさらいしておこう。LTEは、3.9G(世代)と位置づけられる携帯電話の通信規格。現行の3G/3.5Gから4G規格への移行をスムーズに行うための規格として、3Gの技術を発展させつつ4Gの技術要素を一部取り込みながら策定された。
携帯電話が会話だけでなくデータ通信端末としても利用されているという現状を踏まえ、特に「高速通信」という点には重きが置かれている。その通信速度は、下り(基地局→端末)100Mbps以上、上り(端末→基地局)50Mbps以上とされており、無線通信で光ファイバなみの高速化が実現されることになる。
通信方式は、大きくFDD(Frequency Division Duplex: 周波数分割複信)とTDD(Time Division Duplex: 時分割複信)の2種類に分けられる。FDDは上りと下りの通信に別の周波数帯域を割り当てる技術で、TDDは同一周波数帯域で上りと下りの通信を時間ごとに切り替える技術になる。
上海万博会場内をLTEで監視
今回、最初の実証実験地として案内されたのは、今話題の上海万博の会場。上海万博会場では、ファーウェイやチャイナモバイル(中国移動通信)、モトローラ、アルカテル・ルーセントなどさまざまな企業が協力して、TDD方式のLTE(以下、TD-LTE)のデモネットワークを構築している。
会場内には、17のマクロ基地局により5.28平方キロメートルに及ぶTD-LTEネットワーク網を施設。中国パビリオン、エキスポセンターなどの9つのパビリオンにも室内用の小型基地局装置が設置されている。外部に設置された17のマクロ基地局にはすべてファーウェイの技術が使われているという。
デモネットワークでは、2300MHz帯で20MHzの帯域幅を使用。実測値で下り最速25Mbps、上り12.5Mbpsを実現している(理論値は下り100Mbps、上り50Mbps)。万博会場では、このネットワークを使用して、高解像度のテレビ会議サービスや、テレビ取材用の映像撮影/データ伝送サービス、無線高解像度ビデオによる遠隔監視システム、高速無線インターネットサービスなどを提供しているそうだ。
会場で披露されたデモは2種類。1つは、ファーウェイとチャイナモバイルが共同開発した専用の小型端末を使って、ビデオ映像をリアルタイムに無線転送し、TD-LTEデモ車両に設定されたディスプレイに表示させるというもの。小型端末を使用しているため約5秒のレイテンシ(うち1/2秒はデコード/エンコード処理によるもの)が発生するものの、コマ落ち等のないスムーズに動く映像が確認できた。
なお、デモ車両では、5つの映像ストリームを同時に表示させることが可能。万博会場内に設置された監視カメラ等のリアルタイム映像がスムーズに流れる様子が示された。
もう1つのデモは、移動中の車両どうしを中継してビデオ会議を行うというもの。720pのHD映像を4Mbpsで送受信し、レイテンシなしでまったく乱れのない映像/音声をやりとりできる様子が確認できた。そのほか、万博会場内を運航するフェリーに設置された監視モニタの映像等に関しても、移動中に乱れなく確認することができた。