東北大学金属材料研究所の高橋三郎助教、日本原子力研究開発機構(JAEA)先端基礎研究センターの前川禎通センター長、およびIBMアルマデン研究所のStuart S.P.Parkin博士、Hyunsoo Yang博士、See-Hun Yang博士らの研究グループは共同で、超伝導体へスピン(磁気)を注入して超伝導を制御することに成功、超伝導状態でのスピンが通常の状態に比べて100万倍安定であることを発見した。英国科学誌「Nature Materials(ネイチャーマテリアルズ)」のオンライン版(6月6日付)に掲載された。

1999年、今回の研究グループにも属している前川氏と高橋氏は、電気抵抗がゼロの超伝導体を2つの強磁性体(磁石)で挟み、超伝導体と強磁性体の間に薄い絶縁膜を挿入した積層構造のトンネル接合デバイスでは、電圧を印加することにより超伝導体にスピンを注入できること、磁石の相対的な向きを変えることにより超伝導を制御できること、それにより大きな抵抗の変化(トンネル磁気抵抗効果)を引き起こすことを理論的に予言した。

しかし、その実験的検証が国内外で行われたものの、トンネル障壁として酸化アルミニウムを用いたため障壁内の原子の乱れや膜厚の不均一性が問題となり、明確な実験的検証が得られていなかった。

今回の研究では、これらの問題を解決するために、超伝導体としてアルミニウム(Al)、強磁性電極としてコバルト鉄(CoFe)、トンネル障壁として酸化マグネシウム(MgO)を用いて、高品質の2重トンネル接合デバイス(CoFe/MgO/Al/MgO/CoFe)を開発した。

2重トンネル接合デバイスの概念図(左)。左右の強磁性電極(CoFe)の磁化の向き(青矢印)を互いに反並行に配置することで、スピンを超伝導体に注入し、長い時間保持することができる。今回、作成した2重トンネル接合デバイスの構造(右)

それぞれの膜の厚さは、CoFe(3.5nm)、Al(4.5nm)、MgO(3~4nm)、接合面積は700μm×700μmで、Alは絶対温度2.3K以下で超伝導となる。このデバイスの電気的特性を示すトンネルコンダクタンス(電気抵抗の逆数)とそれから得られるトンネル磁気抵抗の変化率(TMR)を測定したところ、低温では理論的に予測されていたトンネル磁気抵抗の大きな振動的な振る舞いが明瞭に観測された。これは、磁化が反平行のとき、注入されたスピンが長時間にわたって安定に保たれていることを示している。従来、超伝導とスピンは相容れないと考えられてきたが、超伝導状態に注入されたスピンは安定に存在し続けられることが明らかとなった。

今回作成した2重トンネル接合における電気抵抗の逆数(左)とトンネル磁気抵抗(TMR)変化率(右)のバイアス電圧依存性

また、この磁気状態は常伝導状態に比べて100万倍安定であることも判明。これは、超伝導体中でのスピンが量子コンピュータの必須要素である量子ビットの有力な候補になることを示しており、新しい応用の可能性として、超高感度センサや量子計算デバイスに用いる新しいタイプの量子ビットや量子情報技術への応用が期待されることとなる。