宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6月5日、6月13日の地球帰還に向けて宇宙を航行している小惑星探査機「はやぶさ」の第4回目となる軌道補正マヌーバ(Trajectory Correction Maneuver:TCM-3)が無事に、地球再突入時の目標地点であるオーストラリアのウーメラ空軍管理区域(Woomera Prohibited Area:WPA)へと設定することに成功したことを発表した。これにより、はやぶさの地球帰還は確実なものとなった。
TCM-3は6月3日12時00分(日本時間)より開始、イオンエンジン噴射加速を約50時間行い、6月5日14時ころに軌道変更を終了した。「予定では14時前ころに終了する予定だったが、イオンエンジンが最も安定できる推力を計算したところ、若干高めでの実行となった結果、予定より10分ほど早く目標とする加速度に到達。しかも高い精度を達成したことで、確実にWPA内に入れる軌道を確保できた」(JAXA 川口淳一郎プロジェクトマネージャ)とする。
TCM-3について川口氏は、「それまでの地球に落下しない軌道から、目標点を地球へ、それもオーストラリアのWPA内に入れるという、運用上もっとも重要なもの」と表現。実際にはやぶさがオーストラリアへ入国したのは5日の2時22分(日本時刻)で、仮に次回予定されている軌道調整であるTCM-4を行わなくても、WPA内に再突入できることが確実となった。
ただし、地球再突入の具体的な時間は、予定では同日23時ころとしているが詳細は未定。パラシュートを開く方法としては、(サンプルを搭載した)カプセルが減速を感じてから一定時間が経過すると開く方法、もしくははやぶさ本体(母船)から離れて一定時間を経過すると開くという2つの方法が用意されているが、どちらの方法にするかは、当日ぎりぎりの状態まで見てから判断するという。
WPAには、40数名からなる回収チームが待機。カプセルの回収体制は、カプセルから発せられる電波を地上の複数点から観測する方法、および落下時の発光から位置を推定する光学観測、そしえヘリコプターに搭載した赤外線システムによる熱観測がメインとなっている。
打ち上げから7年を経て、満身創痍ながら地球に帰還することが確定したはやぶさについて、川口氏は、「安堵、ホッとしたの一言につきる。元々はやぶさの大きな目標の1つは宇宙を往復し、地球に戻ってくること。これは、地球に定めた目標地点まで着て、はじめて成功だと思っており、今回の軌道修正ではじめて当初の目的が一度は伸びたものの、完了できてホッとしている」とコメントしてくれたほか、「カプセルの再突入は、これ自体が大きなチャレンジ。回収までできれば夢のようなゴールに到達したこととなる」とした。
また、さまざまなトラブルに見舞われながらも、ようやくここまで来たことに対し、「印象に残っていることが4つある。1つ目はイトカワに着陸したとき。惑星探査はその惑星にたどり着かないと意味がない。イトカワまでたどり着けたということだ大きな意味を持つ。2つ目はイトカワへの着陸。そして3つ目が音信不通になった時、そして4つ目がイオンエンジンに異常が生じた時」(同)とも振り返り、「3つ目と4つ目ははやぶさ自身に助けられた。はやぶさには地上から指令を送るが、その指令以上の反応を自らの力で見せてくれたと感じている。通常の指示だけ受ける機械という存在ではなく、例えば通信のロストでは、復帰するための一連の指示がはやぶさに届かなければ復帰できない。そうした意味ではある意味神がかり的な、我々の思うところ以上の対応をはやぶさ自身がしてくれた。確かに我々ははやぶさに手を差し伸べたが、向こうからも積極的に応えてくれた。イオンエンジンの時も、単に回路を変更したという話ではなく、機体自身の電位を下げなければエンジンとして使用できない。理屈では接続を切り替えてエンジンを復活させられるが、実際にそれを行うためには、はやぶさが自ら電位を下げなければいけない。そうしたことも含めると、はやぶさが何かアクションをしてくれるから、こうしたことができている」と感慨深く語ってくれた。
なお、はやぶさに搭載されているカメラは消費電力を抑えるために長い間オフになっている。現状も、カプセルを地球に降下させる体勢では地球の撮影は方向が異なるため無理で、無理に行おうとすれば機器に影響を与える可能性もあるため、使用しないことが決定されている。ただし川口氏は、「カプセル分離後も3時間程度は通信が可能なため、そこでもしかしたら挑戦してみる可能性もある」とし、「もしできることならば、内之浦、九州を撮影できれば、と思っている」とはやぶさの最後に向けた思いも述べてくれた。