産業技術総合研究所(産総研)は、技術研究組合 超先端電子技術開発機構(ASET)、明星大学、芝浦工業大学と共同で、低消費電力化された電子回路における電源ネットワークを高い精度に測定・評価できる広帯域かつ低インピーダンスな電子回路の評価技術の確立に成功したことを明らかにした。
電子回路を低消費電力化するためには、電源電圧を低くすることが有効であるが、電源電圧を低くするとLSI上の多数のトランジスタが高速にスイッチングする際、急激な電流変化により電源電圧降下が起こり、これによって発生する高周波電源ノイズによる電子回路の誤動作が重大な問題になると予想されている。
電源ネットワークを広い周波数範囲で低インピーダンスにすれば、電源ノイズ伝達を抑制できるので、高速な電子回路の安定動作が可能となるが、従来の電源評価方法では、複数の計測機器を使用し煩雑な測定操作が必要なうえ、その方法でも超広帯域でかつ超低インピーダンスの評価には十分ではないという問題があった。
産総研では、3次元LSI積層集積化技術の研究開発において、超高速信号伝送による高機能化を目指しており、超高速伝送・超高密度実装を実現するLSIチップ接続インターポーザの開発など、信号品質評価技術の開発に取り組んできたほか、2007年度からはASETが、産総研、明星大、芝工大と多機能高密度3次元集積化技術についての共同実施研究体制を組織、電子実装分野の研究開発を進めてきた。
今回の研究では、同一の2ポート測定法で測定が可能な、低周波領域と高周波領域に対応した2種類のインピーダンスアナライザを用いたシステムを開発。低周波領域の測定用にインピーダンスアナライザを、高周波領域の測定にはベクトルネットワークアナライザを用い、高周波同軸切り替えスイッチを用いて、2台の測定装置を統合して1つのシステムとして機能させた。同システムは、従来の測定装置の組み合わせでは実現できないような、1回の測定で10Hzから40GHzに至る広周波数帯域をシームレスに測定することができるほか、2台の装置の動作ノイズを極力抑制することで、測定可能な下限のインピーダンス値としても高い性能を達成した。
また、システムの測定端子に高周波プローブを用いることで、LSIチップを接続する端子で直接電源ネットワークインピーダンスの測定を行うことができ、LSIチップへ影響する電源インピーダンスの精密な評価も可能としている。
同システムの適用例として、薄膜キャパシタ内蔵インターポーザー、比較のためにチップキャパシタが表面実装されたインターポーザーの2種類について、電源ネットワーク中におけるキャパシタの挿入位置による、低インピーダンス特性の違いを比較評価した。その結果、従来のインピーダンスアナライザでは1ポート測定法であるため、LSIチップの電源端子からみえる電源ネットワークの反射インピーダンスだけしか評価できず、電源供給部分からLSIチップの電源端子までの、透過インピーダンスを測定することは不可能なほか、インピーダンスの最低測定範囲が0.01~0.1Ω程度であった。しかし、同システムでは0.001Ω程度にまで拡大しており、これにより、LSIチップの接続端子からデカップリング・キャパシタ搭載位置までの距離が短い薄膜キャパシタ内蔵インターポーザーの方が、電源インピーダンスが小さくなることが判明した。
なお、今回の研究成果により、10Hzから40GHzまでの広帯域な周波数領域にて、0.001Ωの低インピーダンス評価技術が確立されたことについて研究チームは、電子回路の電源ネットワークのインピーダンス評価技術として幅広く適用できるので、3次元LSI積層集積技術による電子回路だけでなく、さまざまな高性能電子回路についての電源ネットワーク評価ができるため、民間企業、大学などと連携することで、高性能コンピュータ、携帯電子機器、情報家電などでの低消費電力かつ高性能な電子回路の実現に向けて、実用レベルの応用技術開発を推し進めるとしている。