「HTML5の浸透を推進するGoogleが、なぜAdobeのFlash技術も積極的にサポートするのか?」「すでにAndroid Marketというオンラインのアプリストアがあるにも関わらず、それとは別にChrome Web Storeを用意するのか?」──。Google I/O初日基調講演後に行われたアナリスト/報道関係者を集めたフォローアップセッションでは、矛盾するように見えるGoogleの取り組みに質問が集中した。

Q&Aセッションにはエンジニアリング担当バイスプレジデントLinus Upson氏、基調講演のスピーカーを務めたバイスプレジデントのSundar Pichai氏、共同創設者のSergey Brin氏、Chrome OS担当グループ製品マネージャーのMike Jazayeri氏などが参加した

Flashサポートについては、HTML5によるリッチでダイナミックなWebが形になりつつあるものの、Flashの機能に追いつくには「長くはかからないだろうが、1~2年は要する」という見通しをPichai氏は示した。現状ではFlashをサポートしなければ、ユーザーのWeb利用体験が損なわれるというのがGoogleの判断だ。また、「Flashは現在、(Webの)数多くの問題を解決しており、いくつかについては共存がソリューションになる。例えばセキュアなストリーミングやメディア広告などだ」と付け加えた。Googleは、Google I/Oで動画コーデックVP8のオープンソース化を発表し、YouTubeでWebM形式(VP8/Ogg Vobris/Matroska)を採用するとした。だがWebMとHTMLでYouTubeのフルサービスは提供できない。Flashが欠かせないのだ。「DRMと、オープンソースやオープン標準は根本的に矛盾する。機密を必要とするケースではFlashはすばらしいソリューションであり、videoタグは四苦八苦することになる」とUpson氏。

「WebブラウザにWebMを組み込むのは難しいことか?」という率直な質問もあった。現時点でメジャーなWebブラウザベンダーの中でWebMサポートを明らかにしていないのがApple。MicrosoftもWindowsにVP8コーデックをインストールした場合、VP8形式の動画がInternet Explorer 9で視聴可能になるというサポートだ。「すべてのブラウザがFirefoxやOperaと同じように(WebM)サポートするのを望む」とJazayeri氏。Upson氏が「ブラウザで複数のコーデックをサポートするのに技術的な問題は何もない。容易なことだ」と述べると、Jazayeri氏が「プレビュー版(Firefox、Opera)は数週間で完了したようだ」と続けた。

さらにiPhoneやiPadでWebMがサポートされる見通しについて聞かれると「われわれはユーザーの利用体験と品質を重視している」とUpson氏と答えた。オープンであるのは言うまでもなく、Flashのようにパフォーマンスを理由にAppleが拒むこともできないという口ぶりだ。VP8もH.264には及ばないという見方はあるが、Pichai氏はChromeのV8 JavaScriptエンジンの登場が、WebブラウザにおいてJavaScript処理性能の競争を活発化させたのと同じような効果をVP8はWebビデオにもたらすとした。

だが、Androidを含めて特許問題に巻き込まれる可能性に質問が及ぶとエグゼクティブの回答は慎重になった。訴訟問題を乗り越えられるようにパートナーと協力し、またパートナー支援していくとしながらも補償の提供には消極的。Brin氏は、発明者の功績が報われる形で人々にアイディアが広まるようにするのが特許のあるべき姿であり、排他的で、人々に活用させないようにするためのサブマリン特許には問題があると指摘した。

ネイティブアプリとWebアプリは近い将来1つに

2つのアプリストア提供については、Androidはスマートフォンやタブレットのようなタッチデバイスをターゲットにしており、Chrome Web Storeが扱うWebアプリはネットブックやノートPC向けになる。PCでは2004年以降から急速にWebアプリの利用が進んできたが、タッチスクリーンを用いた小型モバイルデバイスではネイティブアプリのエコシステムが形成されており、Webアプリの利用が広がる兆しは見えない。現時点では2つの異なったアプリのモデルに投資することで、将来の変化に柔軟に対応できるとPichai氏は述べた。

ただしHTML5に対応するWebブラウザは、PC向けブラウザよりもモバイル向けブラウザの方が全体に対する割合が高い。モバイルの方がHTML5世代の技術を受け入れやすい環境が整っている。モバイルのオフライン機能やグラフィックスなどでHTML5が実用的になれば、モバイルデバイスでのWebアプリ利用も変化するだろう。Brin氏は「将来的に2つのモデルの1つに収束するだろう。それも、それほど遠い未来ではない」と語った。

昨今のスマートフォン/多機能携帯ブームでモバイルブラウザではHTML5対応が進んでいる