米Oracleが、買収したSun Microsystemsのハードウェア技術を採用したデータベースマシン「Oracle Exadata V2(以下、Exadata)」をリリースしたのが昨年9月、そして日本オラクルが国内販売を開始したのが昨年11月のことである。データ分析を行うDWH(データウェアハウス)だけでなく、トランザクション処理を行うOLTPやバッチ処理など、あらゆるプロセスを劇的に性能改善させる超高速性を最大のセールスポイントにしている。
では実際にExadataの"超高速性"が必要となるのはどのようなシーンにおいてなのだろうか。日本オラクル システム事業統括本部 データベース製品ビジネス推進本部 部長 人見尊志氏は、「ITがコストセンターと言われる背景はあらゆる面で"遅い"ことにある」という。ユーザ増によるレスポンスの悪化が招く生産性の低下、夜間にかけたバッチ処理が翌朝の業務開始時刻まで終わらない、経営者からの要求にスピーディに答えられない、など"遅さ"にまつわる弊害は枚挙にいとまがない。システムのせいで所定時間内に業務が終わらないイライラ - 「こんな遅いシステムに、IT部門はいったいいくらかけてメンテしているんだ!」という腹立ちは、企業勤めをしている人であれば誰もが一度は感じたことがあるのではないだろうか。Exadataはこの"遅さ"を"速さ"に変えるデータベースマシンである。
日本オラクルはExadataが実現する性能改善ポイントとして、大きく
- OLTPの処理性能改善 … 大量ユーザアクセス時などにおける処理性能向上
- バッチ処理の性能改善 … 外部システムとのデータ連携に必要なバッチ処理の高速化
- データウェアハウジング(分析処理)の性能改善 … リアルタイム情報分析
の3つを挙げる。その中でもとくに興味深いのは2のバッチ処理における性能改善だ。大企業を中心にSOA連携の事例は増えているものの、実際には「各システム間のデータ連携はバッチやファイル転送が主流」(人見氏)というのが現状だ。そして基幹業務におけるバッチ処理要件は増えることはあっても減ることはない。企業のグローバル化が進んでいることもあって、常に新しいバッチ処理が時を置かずして発生している状況下にある。バッチ処理が許容される時間帯を業務終了時から翌日の開始時までとすると、時間にして約8 - 10時間、この間に"完了しない"という事態はIT部門としてはなんとしても避けたいところだ。
では、もしバッチ処理にかかる2時間が3分になったとしたらどうだろうか。人見氏は「バッチ処理を完全になくすことはできないが、バッチがバッチである時間を極限まで短くすることはできる」という。そしてExadataはこの"2時間を3分に"縮める性能をもつ。バッチ処理は端的にいうとデータの検索とその統合をひたすら繰り返すプロセスであり、Exadataはこの検索スピードにおいて500GB秒というスペックを誇る。
具体的に、バッチ処理にかかる時間が短縮化することがもたらす経営効果について、日本オラクル システム事業統括本部 データベース製品ビジネス推進本部 シニアマネージャ 安池俊博氏がいくつか例を挙げてくれたので、うち2つをここに紹介する。
製造業の例 - 4カ月から4週間へ
デジタルカメラのように、需要の変化が大きく、また工場や販社が世界各地にある製品の場合、製販在(PSI)のグローバル管理においてはデータの一元管理が理想である。だが、情報収集→情報分析→需要予測→生産計画→部品発注→生産→輸送→販売というサイクルにおいて、最初の段階での情報収集に時間がかかりすぎると、「生産を開始した時点で市場の求める製品ではなくなっている可能性がある」と安池氏は指摘する。具体的には、「需要の変化を考えると、デジタルカメラは本来3カ月で売り切りたい製品だが、実際には4カ月のタームが必要となっている」場合が多いという。ここから生じる機会損失やコスト増などはもはや自明である。
この4カ月を4週間にする最大のキーポイントは、世界各地に散在している、販売実績や在庫情報、さらには販売予測などの情報収集/分析にかかる時間を劇的に短くする必要がある。日々のバッチ処理性能を向上することにより、「グローバルPSIの日次処理化、グローバル在庫情報のリアルタイム化、MRP(Materials Requirements Planning)の高速化」が可能になり、これに伴って市場の需要の変化に柔軟に対応できるようになる、というわけだ。バッチ処理の高速化においては、これを並列化することで性能向上を図っている企業も多いが、Exadataの導入効果は単なる並列化をはるかにしのぐ。
HCM(Human Capital Management)の例 - 人中心の業務へ
人事でExadata? と疑問に思う向きも多いだろうだが、実際に、あるグローバル企業から問い合わせが来ていると安池氏は説明する。最近は日本企業でも、現地法人の社長として本社の人間を派遣するのではなく、現地の人材を登用する企業が増えてきており、現地の社員を採用する際にも現地法人に任せている場合も多い。また現地法人をまたいだ人の行き来も活発になりつつある。だからこそ、本社においてグローバル人事情報を一元管理する必要性が高まっているという。
この世界中の人材情報を「給与計算など時間のかかる処理を含めて、一気に高速でまわしたい」という要望が少しずつではあるが、現場からあがってきているそうだ。とくに給与計算のバッチ処理は時間がかかる。もし、経費の振り込み忘れなどがあった場合、リアルタイムで対処しなければならなくても、「もう処理がまわっているからダメ」となれば、人事部や経理部にとっては死活問題だと安池氏は言う。業務を中心としたオペレーションではなく、人を中心とした弾力性のある業務体系にしていくには、ITの側に柔軟性が欠かせない。Exadataによってバッチ処理が高速化すれば、こうした問題の解決にも貢献することになる。
Oracle Exadata V2がリリースされたとき、同社の幹部は「Exadataの登場によってバッチ処理という言葉は過去のものになる」とコメントした。残念ながらさすがのExadataをもってしても完全にバッチ処理をなくすことは難しいが、2時間→3分の変化は"劇的"と呼んでいいレベルだろう。これまでは仕方なくバッチ処理していたような在庫情報のDWH分析などがリアルタイム(に近い速度)で処理できれば、その経営効果は単に処理速度の向上にとどまらず、経営判断の迅速化や販売機会の増大につながる。そう、「(ITの処理速度が)速くなることで、意思決定のスピードやアジリティが変わる、すなわち経営が変わる」(人見氏)のである。巷でよく言われる"経営に貢献するIT"とは、極論すれば"速いIT"と言い切ってしまってもいいのかもしれない。そして"速いIT"こそがIT=コストセンターの汚名から解放してくれるはずだ。Exadataは"速いIT"を実現するソリューションとして、非常に魅力的な選択肢のひとつといえる。