4月に行われたガートナー主催のイベント「ITインフラストラクチャ&データセンターサミット 2010 未来志向で推進するITインフラ戦略~『クラウド・コンピューティング』、『仮想化』を超えて~』」では、サントリーグループでIT部門を担うサンモアテックの取締役で基盤サービス事業部長の山内雄彦氏による「サントリーグループの経営を支えるITインフラ戦略」と題したゲスト基調講演が行われた。
2009年4月に純粋持ち株会社制を導入し、以降、関連企業の再編が図られたサントリーグループ。山内氏は「近年、国内外の買収を進めた結果、グループの編成が大きく変わってきている」と話す。同氏によると、現在、サントリーグループでは、持ち株会社の下に、食品、酒類を中心とする事業会社のほか、各社のビジネスを横串で支えるサポート業務を担当する事業会社としてサントリービジネスエキスパート(SBE)が配置されている。
SBEには品質保証、技術開発、宣伝、カスタマーサービスなどを担当するビジネスシステム本部と、グループ全体の共通業務/機能の集約と標準化を図るグループ情報システム本部(G情報システム部)が組織されている。このG情報システム部と連携してIT化の実務的な役割を担当するグループ内で唯一のIT系の企業が、山内氏が所属するサンモアテックだという。「具体的には、IT投資や予算統括といったIT部門の全体の計画立案を行うのがSBEのGシステム部。一方、サンモアテックはインフラの設計・構築、プログラム開発、保守・運用を担当する。サンモアテックはいわばグループのIT部門でSBE社からインターナルなアウトソーシングを受けているという認識」と山内氏。
サントリーグループでは、2003年から脱メインフレーム化を図るなど、積極的にシステム基盤の構造改革を推進している。2008年には「ITインフラ中期計画」を策定。以降、グループの方向性を踏まえた各種技術や製品の進歩の調査を定期的に行い、その成果に基づいた計画の見直しを毎年継続的に実施しているという。
そんな中、山内氏は「システムがカバーすべき領域は年々拡大の傾向にある」と話す。さらに、「飲料事業、酒類事業、ワイン事業、健康事業といった事業軸に対して、我々はサントリー時代からしっかり対処してきている。しかし、今後の重要な課題は、開発/外食系の国内グループ会社や海外グループ会社、M&A領域への対応。また、機能軸に関しても、基本インフラ、人事・経理・総務、調達・物流、営業といったバリューチェーンをサポートするだけではなく、新たなワークスタイルの変革に対してどういった手が打てるかといったことが具体的なひとつのテーマとなっている」と続け、その一例として、業務店基本情報や営業用の商品情報、物品手配などを載せたAndroid端末をグループ内の営業マンに導入した事例を紹介した。
また、同グループにおける情報システムの試みとして「サントリープライベートクラウド」も紹介された。山内氏は「『必要なときに必要なサービス、リソース、情報、環境』を提供し、業務改革のスピードに負けないインフラを構築することが重要」と同社でのクラウドのあり方を定義する。プライベートクラウドの実現にあたっては、3年後のインフラ構成として、
- Web/アプリケーション/バッチ層のサーバにIAサーバによる仮想化を適用
- ハイエンドサーバ(6コア以上のサーバ)はIAサーバへの移行および仮想化適用は行わない
- プロビジョニンングツールを使用し、短納期でリソース提供を行う
の3点を指針に進められていることが明かされた。
また、グループのIT化の推進にあたっては各種評価にも重点が置かれている。山内氏によると、サントリーグループのITオペレーションの実践には、英国政府が策定したコンピュータシステムの運用/管理業務に関する体系的なガイドライン「ITIL」を活用。これをもとに、2009年に自社評価を行った結果と今後の目標について、山内氏は次のように語った。「レベル2というのは、技術担当者や知識のある人を除いて他のメンバーは単独では対応できない、いわば属人的なレベル。つまり、仕事のプロセスが不明確で定量化されておらず、業務ノウハウが蓄積されていないという状態。こういった状況をなんとか打破し、2010年中には標準化されたプロセスで仕事を行うことができ、有効性だけではなく、プロセスの効率性まで評価されるレベルにまで達成したい。そして2012年には自立的改善ができる自動化のレベルまで目指したい」
一方、山内氏はインターナルアウトソーサとして、サービス指標の測定/評価を行い、常に改善を図る必要性を強調する。「これまでの取り組みを通じて、"QCD"観点から見た全体の最適インフラと、アプリケーションインフラ標準の重要性を実感している。常に一歩先を見た活動の展開を」と山内氏。ちなみに、QCD観点とは、Q=品質(原因別障害件数)、C=コストと規模(生産性指標)、D=スピード/納期遵守率を示し、同社では、この指標をもとにして四半期ごとに自社のサービスに対する数値評価を実施しているという。
また、ベンダに対しても同様に数値的な評価が必要性だと山内氏。同社では、取り引きのある主要主要ベンダの営業/技術についても半年に一度評価を行っているとし、「ベンダとの関係も数値で評価することで、お互い緊張感を持った活動が可能になる」とその効果を明かした。