Mentor Graphicsは5月20日、2010年3月に買収したValor Computerized SystemsのDFM製品「Valor Enterprise 3000」の後継製品として「vSure version 9.0」を発表した。
同製品について同社Director of Market Development,Systems Design DivisionのJohn Isaac氏は、「これを活用することで、プリント基板(PCB)設計側と実際の製造側がより協調して開発、製造に取り組むことができるようになる」とその概要を説明する。
PCBの開発プロセスは、「設計」「製造前の最適化」「製造」の3段階に分けることができるが、「従来、それらは個別に実行しており、完全に分断された状態で作業が行われてきた」(同)という。
MentorもEDAベンダとして主にPCBの設計を中心に最適化の1部のツールの提供を行ってきており、一方のValorは製造実行部分を中心に最適化部分もカバーするという形でツール群を提供してきており、「両社が統合されることで、設計から製造まで一貫したサポートが可能となる世界でも稀有な存在になれる」(同)ことを強調する。
「我々の統合の最終目標は、最適化された製造プロセスによる量産までの時間をより短く、低コストでの製造を実現すること」(同)であり、そのためにDFMを中心に、ODB++フォーマットを活用した設計から製造への効率的なデータの受け渡しや、フロアや各種資産の有効活用、リアルタイム監視による即座の問題解決や品質改善、不良解析といったソリューションを提供していくとしている。
例えばDFMとしては、設計の途中ごとに700以上の検証項目をValor parts library(VPL)などを活用することで自動でチェック、これにより正しい形状の部品が入っていない、線幅が異なる、端子の差込口の径が違うなどの検証を容易に行うことが可能となり、「結果として、余計な設計試作を削減することができるようになり、製造工程の最適化ができるようになる」(同)という。
また、ODB++フォーマットを用いることで、基板CADで作られたPCBのデータをほぼそのままの情報を含んだ形で基板製造および基板実装の双方に渡すことができることから、製造と実装で生じる誤差の低減が可能となる。特に実装側ではVPLを活用することで、いち早くチェックすることが可能となり、不具合の低減などが可能となるとする。
今回のバージョンで搭載された主な新機能は以下のとおり。
- 製造リスク評価インタフェース:設計者はDFM解析結果を素早く確認し、クリティカルな結果に集中することが可能となる。問題の深刻度、基板上の位置、パッドスタックの種類、パッケージあるいは部品番号、機能などを含むさまざまなカテゴリに基づいて、設計上の問題をフィルタリングおよびソートすることができる。
- 設計プロセスウィザード:設計データのインポートから解析結果の確認まで、DFMプロセスのベストプラクティスにしたがった一連の手順を設計者にガイドする。ウィザードは、すべてのアクションを業界で実証済みのプラクティスに基づいて実施し、包括的な解析を行うと同時に、設計者が詳細な製造上の専門知識を持つ必要性を軽減することが可能。
- 階層対応の数学ベースの解析ルール・モデリング:解析ルールをテクノロジ、デザインセンター、プロセス、製造メーカーの能力に応じて調整することができる。テクノロジが変更されたときにルールセットをすべて再定義し直す必要がなくなるほか、複数のルールセットの管理もサポートされているため、セットアップ時間の短縮や解析エラーの削減が可能となる。
- 簡素化されたユーザ・インタフェース:設計者の生産性が向上すると同時に、包括的なDFM解析プロセスを確実に実施することができるようになる。
このほか、同氏は実装の課題として、「求められた数量を、求められたコストで、きっちりと納期を守って発注メーカーに渡す必要があり、それを守るのは基本だが、さらに市場の要求に対して柔軟な対応もとらなければならない。また、品質の維持やトレーサビリティ、さまざまな法規制といったものへの対応も求められるようになってきている」として、製造から在庫管理まで一括して行うことが可能なソリューション「Valor MSS(Manufacturing Systems Solutions)」の説明も行った。
MSSは、これまで別々に提供してきたNPI(New Product Introduction)、製造計画やワークフロー、品質、資材の効率化、タスク管理など10の項目を1つの統合管理システムとして集約、「vPlan」「vManage」「vCheck」の3つのツールとして提供することで、計画から出荷までのすべてのプロセスの合理化を実現しようというものとなっている。
なお、最後に同氏は「両社の統合により、川上から川下まで一貫したものを提供することができるようになった。今後はより高いレベルでのインテグレーションをめざし、製造向けにValor MSSの開発を加速していくほか、ODB++を標準データ交換フォーマットとしてサポート、拡張するなどの取り組みを進めていく計画」とコメントを寄せてくれた。
これらのソリューションなどについては、2010年6月2日から4日まで東京ビッグサイトで開催される「第12回 実装プロセステクノロジー展」の同社ブースにおいて、国内向けとしては初めて正式に公開される予定となっている。