SAPの共同CEO Jim Snabe氏。もうひとりの共同CEOであるBill McDermott氏は米オーランドで開催のSAPPHIRE Nowに出席している

"新しいSAP"を打ち出すというミッションを背負ったSAPの新しい共同CEOは、これまでの経過とスピードに自信を持っている。これまで製品戦略を担当してきたJim Hagemann Snabe氏、それに営業側でリーダーシップをとってきたBill McDermott氏が共同CEOとして就任して約3カ月、その間SAPはオンデマンド「Business ByDesign」のフォーカスを再度示し、ソーシャル/リアルタイム機能を組み込んだ「StreamWork」などの発表を行った。そして5月12日、データベースベンダの米Sybaseを約58億ドルで買収する計画を発表、新生SAPを軌道に乗せるため、着実に動いている。

年次ユーザーカンファレンス「SAPPHIRE Now 2010」の開幕を午後に控えた5月17日朝、独フランクフルトの会場でSnabe氏にSAPの戦略、SAPが描く業務ソフトウェアのビジョンなどについて、話を聞いた。

共同CEOとなってもうすぐ100日目になる。信じられない気持ちだ」とSnabe氏は語る。就任後、急ピッチで、顧客との対話を通じて企業のフォーカス、戦略的方向性を再度定めることに取り組んだ。「Billもわたしも、これまでの経過には非常に満足している。SAPの将来に期待や興奮を感じてもらうことができたと思う」と続ける。

実際、この100日間はさまざまなことがあった。最初のステップは今年3月のCeBIT。ユーザーに新しいSAPを示した。先に発表したSybaseの買収では、戦略実行のために迅速に動くことができるという力を市場に示した、とSnabe氏は続ける。

そのSybaseについてSnabe氏は、買収の狙いを

  1. モバイル
  2. インメモリコンピューティング

の主に2つの点から説明する。

Sybaseはモバイルデータベース、モバイル端末向けのアプリケーション構築/配信の「Unwired Platform」などのモバイル向けソリューションを持つ。「世界には現在48億台の携帯電話があり、10億人以上がビジネス用途でモバイルを利用している。ビジネスアプリケーションは今後、モバイルで利用されるようになるだろう」とSnabe氏、Sybaseの買収により、SAPのアプリケーションと分析技術の利用者をさらに拡大できると続ける。「SAPはビジネスプロセスで1位、分析アプリケーションで1位のベンダだ。これに加え、モバイルでも1位になる」(Snabe氏)

インメモリコンピューティングは、データをディスクではなくシステムのメモリに持つことで、性能を飛躍的に改善するといわれている技術だ。SAPは数年前からインメモリ技術の開発を進めており、「本物のリアルタイム分析が可能」とSnabe氏。Sybaseは堅牢なデータベース事業を持ち、ここはSAPを補完するものとなる。一方で、インメモリでは、「われわれが開発してきたインメモリコンピューティング技術をSybase顧客に提供できる」と述べ、買収が補完的であることを強調した。

ライバルのOracleは米Sun Microsystemsの買収により、ハードウェアとアプリケーションを統合し、セットで提供するシステムベンダという戦略を示している。Snabe氏はOracleの名前は出さないものの、「ハードウェアはクラウドに移行しつつあり、データベースがメモリに移行しつつある。なぜ統合する必要があるのだろう」と暗に批判する。そして、SAPはイノベーションと選択肢を提供できる、と違いを示した。「それだけではない。顧客のこれまでの業務をさまたげることなく、イノベーションを提供する」と続けた。

インメモリ技術については、SAPは数年前から取り組みを示唆しているが、可能性については賛否両論あるようだ。SAPのインメモリ技術は現在どのような段階にあるのか? 課題やデメリットはあるのだろうか?

製品については、2008年に「SAP NetWeaver Business Warehouse Accelerator」を、2009年に「SAP Business Objects Explorer」を提供しており、「開発から製品化を非常に高速に進めている」とSnabe氏。だが、技術の可能性や潜在性は「さらに大きい」とSnabe氏は言う。今後のインメモリ技術の適用分野として、オンデマンドのBusiness ByDesignで利用する計画も明らかにした。

なお、インメモリ分野での競合については「他社の1.5年先を行っている」と余裕を見せた。

クラウド、ソーシャルネットワーキングと新しい流れが出てきている。これらは業務ソフトウェアにどのような影響を与えるのだろうか?

クラウドについては、「単に古いハードウェアを仮想化するものではない。大きなインメモリ機能をもつパワフルなハードウェアだ。これにより、クラウドのバリューを低価格で提供できる」とSnabe氏。オンプレミスとクラウドについては、「今後、多くのアプリケーションがクラウドに移行すると見ている。SAPは同時にオンプレミスも維持し、クラウドベースのソフトウェアとコンスタントにシンクロしていく」。これにより、顧客はオンプレミス、クラウドベース、両方の選択肢を提供するという。

ソーシャルネットワーキングでは、2月にベータを、4月にGA版を公開したStreamWorkを紹介した。「今後、ソーシャルネットワーキングは私用(プライベート)での利用からビジネスに移行する」とSnabe氏、Facebookで友達とやりとりしているようなことを、同僚、パートナー、顧客などと行うことで効率化を改善していくというイメージだ。StreamWorkは公開後1カ月半で、すでに数千人が利用しているという。

2月のCEO交代時、共同創業者のHasso Plattner氏は従業員のモチベーションが低下していることを認める発言を行っていた。従業員向けにはどのような取り組みを進めてきたのだろうか?

「クリアな戦略が重要であるのに加え、モチベーションのある作業環境と市場の勝者になることの2つには大きな相関関係があることも認識している」とSnabe氏。人というものは勝つ戦略に参加すること、勝ち組企業の一部であることを望む。戦略は、顧客とともに方向性を定め、従業員からの反応もよいという。追い風となったのが5月初めに発表した2010年第1四半期の業績だ。ソフトウェア収益が前年同期の12%増となるなど概して好結果となり、士気が高まったという。

Snabe氏は今年のSAPPHIREに大きな期待を寄せている。「5万社以上の顧客、それにパートナーに対し、SAPのイノベーションと戦略を示すことができる」。今年は米オーランドと独フランクフルトの同時開催で、名称も「SAPPHIRE Now」と新しくした。欧州では2008年以来、2年ぶりのSAPPHIREとなる。SAPでは、米国とドイツで合計約1万6000人の来場者を見込んでいる。