MicrosoftとGoogle。かたやWindows OSを、そしてもう一方はネット検索サービスを機軸にして多方面への事業展開を図る2つの世界的巨大企業だが、サービスの融合化が進むにつれ、この2社の競合関係は近年さらに激化している。4月にガートナー主催で行われたイベント「ITインフラストラクチャ&データセンターサミット 2010 未来志向で推進するITインフラ戦略~『クラウド・コンピューティング』、『仮想化』を超えて~』では、両社の戦略の相違や今後の潜在的可能性について、「Google vs. Microsoft ― 将来における戦い」と題した講演を、Gartner Researchのバイスプレジデント兼最上級アナリスト マイケル・シルバー氏が行った。
検索、メール、オフィスアプリケーション、モバイル……ざっと上げただけでも両社が競合する分野は多岐にわたっている。一般的には、両社の関係はGoogleがMicrosoftのOSやOfficeを追いかけて対抗を仕掛けているという見方が強いかもしれないが、シルバー氏の見解はむしろ逆だと分析する。「WindowsやOffice以外からの収益源を求めているMicrosoftが、検索や広告の分野でGoogleに挑んでいる」
現在、Microsoftの売上の内訳は、ビジネス分野(Office)が35%を占めるほか、Windowsが24%と、デスクトップ向けアプリケーションが全体の約6割を占めているという。しかし、シルバー氏によると、その割合は年々低下の一途をたどっている上、オンライン事業をはじめ、利益を確保できていない部門も多い。さらに、新たな収益源確保を求め、Microsoftも成長事業として検索や広告分野に注力したものの、Google支配が強固な分野においては苦戦を強いられているのが現状だと解説する。
一方、Googleの現状について、「Googleは継続的に利益が得られるビジネスモデルを備えている。それがMicrosoftにとっての脅威だ」とシルバー氏。「Googleの特徴は、物理的なハードウェアとソフトウェアのインフラをすべて持っていること。クラウドの分野ではリーダーに立っていると言える」
また、Googleにとってのもう1つ優位な点は"データ"にあると分析する。「Googleの保有するデータ量は米国政府をしのぐほど膨大で、これは多くの可能性を持っている。たとえば、ユーザーが病気や症状、薬などを検索をしたデータを用いれば、Googleは政府よりも早く新薬の開発や治療分析が行える」
しかし、その一方でGoogleが課題とするのはエンタープライズ向けのサービス。この領域では、Microsoftにはかなりの遅れを取っている状態だ。また、現在、Googleの売上は、97.5%が広告によるものだが、それ以外の分野での収入は伸び悩んでいるとシルバー氏は指摘する。
しかし、こうした現状の中、「両社の競争の舞台はクラウド分野に向かっている」とシルバー氏は見ている。「Microsoftにとって最大の脅威は、ネットブックOSとChrome OSだろう。Chrome OSは、アプリケーションはすべてブラウザ上で動作するという、Googleが無償で提供するOS。これは、Googleにとっては収益を得ることが目的ではなく、Microsoftの弱体化が狙いだ」とシルバー氏は説明する。
一方、Googleにとっての脅威は、現在の立ち位置や反トラストの動きなどが挙げられる。シルバー氏は「Googleは以前は王様のようであり、ネットの象徴でもあった。しかし、現在では多くの人が警戒し、欧州では独禁法の対象にもなっている」と指摘する。また、課題とされるエンタープライズ対応については「Gmailはユーザ基盤が大幅に拡大し、BlackBerryやOutookなどにも対応した。他方、MicrosoftのOfficeに取って代わるほどの準備はできていない。広告以外の大きな収益源やChromeブラウザのシェアといった点でも、まだ十分ではない」と分析した。その他、時期尚早なクラウドの進め方や知的財産権の問題、広告を中心とした狭いビジネスモデルといった懸念要素も指摘された。
こうした状況を踏まえ、最後にシルバー氏は、CIOおよびエンタープライズ・アーキテクトが直ちに実行すべき事項を次のようにまとめた。「まずはマーケットが変わってきていることを認識すること。GoogleとMicrosoftのし烈な競争により、ユーザの製品の買い方や製品に対する対価も変わってくるかもしれない。誰もが同じ製品を得るということではなく、ユーザの中にはMicrosoftのすべてのサービスが必要ないという人たちもいるかもしれない。これから1年ほどかけてWebベースのアプリケーションを試してユーザをセグメント化をしていくべきだ」。さらに、Microsoftに対しては、「戦略の変化が予想される。価格面での変化や契約形態の変更などが考えられるだろう」と中長期的な予想を示し、講演を締めくくった。