今後数年での急成長が見込まれ、オンライン広告最大手企業の1つであるGoogleもモバイル分野へのフォーカスを鮮明にするなど、モバイル広告の分野はにわかに活気を帯びつつある。だがある業界関係者によれば、モバイル広告の市場規模はまだ小さく、多くが期待するほどすぐには巨大市場には成長しないだろうとも警告している。

同件を報じているのは米Wall Street Journalで、米DoubleClick元CEOのKevin Ryan氏のコメントを通じてモバイル広告の現状と展望について説明している。なお、DoubleClickは2007年にGoogleによる買収が発表されており、Ryan氏自身は2005年時点で同社を去っている。同氏によれば「人々が聞きたい答は"モバイル市場は巨大になる"というものでありながら、皆が考えているほど大きくはならない」という。金融サービス企業の米Jefferiesが開催したメディアカンファレンスで同氏は「今日でさえ、モバイル広告の市場はほとんど存在していない。そもそもスクリーンサイズが小さすぎる」と、いわゆるスマートフォンの多くが市場を盛り上げるだけの条件を満たしていないとしている。Ryan氏はiPadがこうした条件を満たし、人々を惹きつけるだけの広告を届けることができる初のプラットフォームだと指摘する。

実際、モバイル広告の市場はまだ非常に小さい。たとえば米国における2009年のモバイル広告売上は4億1,600万ドルだったのに対し、オンライン広告市場全体は224億ドルと50倍以上の規模だ。同データを算出したeMarketerによれば、同社はもともと2009年のモバイル広告売上を7億6,000万ドルと算出していたという。

Ryan氏は、モバイル広告の低迷がモバイル向けコンテンツの重要性のなさを意味するものではなく、またあるいはモバイル向けの課金モデルが成り立たないことを意味するものでもないという。広告がすべてを牽引するというわけではないということだ。

とはいえ、スマートフォンユーザー自体は日増しに増加の一途を続けており、これにアプローチしなければビジネスチャンスを逃すことになる。従来、モバイル広告がターゲットとするようなモバイルインターネットの世界ではiPhoneが圧倒的シェアを誇っていたが、最近ではAndroidの利用が増加しており、トラフィックベースのシェアではかなり肉迫した状態にある。これは端末自体のシェアにも顕在化してきており、米NPDが5月10日に発表したOS別シェアではBlackBerryが36%でトップ、次いでAndroidが28%、3位がiPhoneの21%となっている。台数ベースでAndroidとiPhoneが逆転したことになり、これが最近の勢いの差にも表れているといえる。

一方で将来のモバイル広告市場を狙うべく、広告プラットフォームを巡る争いもすでにヒートアップしている。GoogleのAdMob買収を受け、AppleではQuattro Wireless買収で獲得した技術をベースにした「iAd」をリリースしている。関係者らの指摘によれば、このiAdではAdMobをはじめとしたサードパーティのiPhone広告プラットフォームからの排除を目的としているといわれ、すでに囲い込みが進んでいる様子がうかがえる。

今後の成長の可能性こそ高いものの、まだ市場規模としては微々たるもののモバイル広告。新規プレイヤーらの参入も相次ぎ、どのように展開していくのだろうか。