エルピーダメモリは5月12日、2010年3月期の決算概要を発表した。売上高は前年同期41.1%増の4,669億5,300万円となり、営業損益は前年度の1,473億8,900万円の損失から268億4,500万円の黒字へ、経常損益は同1,687億5,700万円の損失から122億9,000万円の黒字へ、純損益は同1,788億7,000万円の損失から30億8,500万円の黒字へとそれぞれ益転を果たした。
純損益までの黒字化の主な要因の1つはDRAM価格の改善。1Gビット DDR3 1333Mbpsのスポット価格は5月11日時点で2.89ドル、1Gビット DDR3 1333Mbpsのコントラクト価格が2.69ドル(同日)、1Gビット DDR2 8000Mbpsでも2.59ドル(同日)と2009年7月ころより上昇してきた価格が安定して高止まりしており、「OEMおよびモジュールメーカーからの強い需要は引き続きいただいており、しばらくは2.5ドルから3ドルの間で推移すると見ている」(同社執行役員CFOの白井康雄氏)と、今後もしばらくは価格が高止まりする予測を示す。
このDRAM価格の高止まりに加えて、PC DRAMの構成比率をより高い価格を維持できるDDR3へシフト。2009年10~12月で60%強だったものを2010年1~3月には90%弱へと引き上げており、こうした結果、業績も四半期別では年度第4四半期で売上高が前四半期比2%減となったものの、営業利益は「過去最高を更新」(同)とのことで、結果として3期ぶりの通期黒字化を達成した。
また、2011年3月期の設備投資は1150億円を計画。その内60%を広島工場の50/40nmプロセス比率50%化に向けた対応などの費用、30%をRexchip ElectronicsのR1ファブの全量40nmプロセス化、残り10%をその他子会社向け設備投資としている。
こうした投資を踏まえて、広島工場では2010年第3四半期にPC/サーバ向けDRAMの生産能力の大部分を65nm-XSプロセスに移行させるほか、同時期にRexchipも40nmプロセスの2GビットDDR3の量産開始が予定されている。
同社の業績と現状の市場環境について、同社代表取締役社長兼CEOの坂本幸雄氏は、「今回の利益には満足していない。もっと取れたはずだと思っているが、それは次の期にとっておきたい」と強気の姿勢を見せる。また、2010年の見方としては、2010年1年間のビット成長を50%とした。これは、「OEMメーカー各社などからデータを集めると70%くらいになるが、各社ともに1台あたりのビット成長を下げる流れとなっており、その影響を加味した。また、供給量については、2010年ではシュリンクプロセスくらいしか新しいプロセスが出てこないことから、供給量は40%増とみた」と説明する。
ただし、PC以外のアプリケーションとしては、スマートフォンについて「かなりホットになってきている。これまではDDR1のMobile DRAM 2Gビットだったのが、年末ころにはDDR2の4Gビットに移行する様相となってきている。ここは我々が強く、逆にセカンドソースが出てきてくれないと、採用してくれない状況になるような感じ」と説明するほか、その他の携帯電話についても、それぞれ容量が増大することに言及。デジタルテレビに関しても、従来の2Gビットから4Gビットへと拡大され、「2011年には4Gビットの高速なものが要求されるようになる。Blu-Rayレコーダのようなアプリケーションも2010年には8Gビット要求となる。やっとエルピーダの時代が来た」(坂本氏)と、PC以外のアプリケーションでのDRAM需要がかなり高まるとの見方を示した。
また、坂本氏は、2010年における同社の7つの課題を披露。これらは、「Rexchipの第2期工事の時期」「Powerchip Semiconductor(PSC)のポジション」「TSVへの取り組み」「キーカスタマとのファイナンスなどを含めた提携」「中国での工場建設」「2Gビット DRAMへの移行促進」「フラッシュメモリ技術の検討」となっている。多くの課題が工場絡みの問題で、仮にRexchip第2期工事を3万枚規模で行おうとすれば2000億円必要となる計算で、「それらを自分たちだけでやるのかどうかが問題。PSCとの契約も2011年3月で一度切れることから、そこがDRAM価格の不安定要素となる可能性もある」(同)と説明するほか、中国については「何らかの形で中国内に工場を作っておく必要が政治的にもビジネス的にも必要になってくる」(同)との見方を示した。
一方のTSVやフラッシュメモリ、2Gビットといった技術的な課題については、「TSVについては、携帯電話などに向けた動きが水面下で活発化してきている。そうした意味ではそういった分野のプロセッサなどとの提携が必要」(同)とするほか、「フラッシュメモリについては、今年中にやるのか、やらないのかまで含めて、技術を我々のものにしていければと考えている」(同)と、新規市場への参入の可能性に含みを持たせた。また、2Gビット化の促進については、「2010年下期にこの転換をかなり推し進めていく計画。これを行うことで、短期間での利益は下がるが、長期的に見れば2Gビットの製造能力を持たないDRAMベンダはふるい落とされることとなり、2~3年後には2~3社程度に集約されることになるはず」(同)との将来的なDRAM市場全体に向けた戦略の1つとしての意味合いもあることを強調した。
なお、同社では2011年3月期第1四半期の見通しとして、PCおよびモジュールメーカーからの需要が前四半期に続き旺盛なことに加え、モバイル機器もスマートフォンを中心に需要増加が見込まれ、デジタル家電についてもエコポイントの延長などによる需要増加などの影響により前四半期比で5%強のビット成長を見込んでおり、65nm-XSと40nmへのシフトを進めることで、供給量の拡大とコストの低減を図っていく計画としている。