2010年もすでに3分の1が経過し、IT企業各社の第1四半期決算もそろそろ出揃いつつある。ここでは主要IT企業各社の決算を振り返りつつ、各社幹部やアナリストらがうたう「力強い回復」「成長路線に戻った」という発言が本当なのか、検証していこう。

コンシューマ市場で企業動向を考える

今四半期の決算では多くの主要IT企業で好調な結果が出る一方で、米Hewlett-Packard (HP)による米Palm買収にみられるよう、激化する市場競争についていけずに業績が低迷、結果として他社に吸収されるような話題もみられる。ここ数年のIT企業は米Oracleによる米Sun Microsystems買収にみられるような大型買収・合併(M&A)が続く一方で、これら大手がた各分野の中小企業やスタートアップなどの買収案件を年間数十という単位で行い、業界プレイヤーがごくわずかな大手に集約されつつある現象がみられる。またいち早く回復路線を宣言した米GoogleのBumpTop買収に代表されるように、大手企業らは内部プロジェクト拡大や買収による業容拡大を推し進める戦略を加速している。米Network Worldによれば、このGoogleの今年の拡大戦略は2007年以降で最も加速しており、現時点ですでに16社の買収を行っているという話だ。以前にもレポートしたように、ベンチャー企業の株式上場(IPO)の難易度が上がっていることもあり、TwitterやFacebookなど一部のビッグネームを除いて、多くのスタートアップは自身の売却を念頭にしていることもあり、こうした青田買いのような買収が頻繁にみられる結果につながっているのかもしれない。

では、具体的な市況はどうだろうか? まずはコンシューマ市場からみていこう。米Dellの2011年度第1四半期(2010年2 - 4月期)決算発表は5月20日、米HPの2010年度第2四半期(2-4月期)決算発表は5月18日となっているため、現時点でまだ最新の業績が出ていない。ここではすでに発表済みのAppleとGoogleについて触れる。

Appleは2010年度第2四半期(1-3月期)決算で、売上が135億ドルの前年同期比49%アップ、純利益が30億7,000万ドルと90%の大幅アップを発表している。主力となっているのはiPhoneとMac製品の大幅販売増だ。Macの販売台数で前年同期比33%増、iPhoneではなんと131%増となっている。前述PalmやNokiaのように苦戦する他社がある一方で、iPhone登場後も引き続き加入者を伸ばしているBlackBerryの加Research In Motion (RIM)のような例もあり、勝ち組とそれ以外で明暗の差がはっきり出ていることがわかる。これはPC市場についても同様のことがいえ、業界トップを走るHPも2月時点の決算発表で好調な結果を出している。どのメーカーも昨年同期のころは業績低迷に苦しんだこともあり、その反動で今年前半は好調さを維持することが可能だろう。

コンシューマ市場におけるもう1つの指標がオンライン広告の状況だ。米Googleは2010年第1四半期(1-3月期)決算で売上が67億7700万ドルで前年同期比23%アップ、純利益が19億6000万ドルで38%アップであることを報告している。全体に広告出稿の減少が叫ばれるなか、2桁成長の実現はかなり好調だといえるだろう。実際、Googleのライバルとなる米Yahoo!の同四半期の売上は1%アップと微増にとどまるなど、企業広告がオンラインにシフトしつつあるという事実こそあるものの、やはりここでも勝ち負けがはっきりと出ていると考えられる。メーカーとサービス業含めて、コンシューマ市場では企業による格差が大きく生じたことが特徴だといえる。

企業のIT投資復活が各社を救う

一方でエンタープライズ分野は、企業のIT投資復活に支えられた面が大きい。このあたりは米Intelや米Microsoftの業績復活が如実に示している。2009年にPC販売ではネットブック好調によるAtomプロセッサやWindows OSのライセンス増加に助けられた両者だが、2010年初頭はそれぞれサーバ/ノートPC向けプロセッサの好調とWindows 7の導入促進が業績を牽引している。

米Microsoftは2010年度第3四半期(1月-3月)決算で売上が145億300万ドルで前年同期比6%増、純利益が40億600万ドルで35%増と大幅に上昇を見せている。一方のIntelも売上は106億ドルで前年同期比28%の上昇、純利益は23億ドルで875%上昇と、かつてないレベルの業績回復となった。おおまかな判断となるが、この2社で利益率向上が意味しているのは、企業向け需要が高かったということだ。MicrosoftにとってはOSやOfficeなど関連製品のライセンスがまとめて販売されたことに由来し、IntelではサーバやノートPC向けなど高価格帯の製品が多数出ることでASP(平均販売価格)を押し上げ、業績上昇に寄与する。過去2年ほどの金融危機もあり、投資を手控えていた企業各社が、製品刷新サイクルの到来もあり、次の成長戦略を見据えて一度に購入へと踏み切ったのではないかと考えられる。実際、Intelなどでは2009年の主役だったAtomプロセッサに対する需要が一巡しており、両社の成長ドライバーがコンシューマからエンタープライズへとシフトした様子がうかがえる。

とはいえ、必ずしもエンタープライズ市場全体が回復したというわけではないようだ。米IBMの2010年第1四半期(1-3月期)決算の例でいえば、売上は229億ドルで前年同期比5%のアップ、純利益は26億ドルの13%アップと大幅増となった。同社が長らく不調を経験していたサーバ関連のシステム&テクノロジー部門が5%成長を見せるなど、Intelらの動きを反映したものとなり、さらにソフトウェア部門で10.6%の業績アップを達成するなど、ハード&ソフトの面で全体に好調だった。ソフトウェア業績の好調ぶりは、米Oracleの2010年度第3四半期(2009年12月-2010年2月期)決算からもうかがえる。Oracleのソフトウェアライセンス売上は新規/更新ともに13%の継続成長を続けているからだ。一方でIBMとOracleともに、サービス部門の売上は苦戦している。IBMで前年比ほぼ横ばい、Oracleが約1割減となっている。特にIBMを見る限り、ビジネスコンサルティングを主体としたGlobal Business Servicesの苦戦が見られるため、"企業のIT投資復活"とはいえど、まだ部分的なレベルにとどまっているのではないかと推察できる。またIBMによれば、中国やインドなどの成長市場へのフォーカスが業績を押し上げたことを強調しており、市場間での格差も大きいのではないだろうか。

IT企業各社は復活できるか?

では、この回復は本物なのだろうか? 興味深いのは、各社が同四半期の決算を通過して、今後の見通しについて一様に強気姿勢へと転じた点にある。業績面ではもともと強気だったIBMだが、同社会長でプレジデント兼CEOのSamuel Palmisano氏はIBMの2010年通年のEPS目標を従来の11ドルから11.20ドルに上方修正している。過去2年間で将来見通しをたびたび変化させる企業が多いなかで、IBMは一貫して強気だ。金融危機における低迷時にも、同社は単純にレイオフによる人員削減を実行するのではなく、業務プロセス改善による利益率向上で対応してきたという自負がある。またIntelプレジデント兼CEOのPaul Otellini氏も、これまでの比較的控え目な予想から一転し、やや強気の見通しを表明している。これも、純利益で875%アップという急回復が自信の根底あるのだろう。

こうした業績回復を受けて、比較的体力のある各社は次の戦略に出始めている。代表的なのは先ほど挙げたGoogleで、長期プロジェクトを多数走らせる一方で、これまでの人員削減モードから一転、再び社員を増やす方向性を打ち出している。企業のIT投資抑制の直撃を受けた米Cisco Systemsも、3,000人規模の増員を表明している。この背景には、米国をブロードバンド大国にするという政府政策があるのだろう。こうした買収促進や人員増のニュースが、たびたび聞かれるのも大手IT企業らの最近の特徴だ。

懸念事項としては市場動向、特に株式や投資家などの資金の流れが挙げられる。米国の株式市場はすでにマネーゲームの段階に突入しており、かなり不安定な状況に陥っている。先日6日(米国時間)のニューヨーク株式市場株価急落事件が物語っているだろう。米Appleが全米第3位の時価総額企業に浮上したり、Googleが好業績を発表した直後に株価が急落するなど、特定の銘柄にキャピタルゲインを見込んで買いが集中したり(Appleは株式配当を行っていないため、多くの投資家は株価上昇目当てだと考えられる)、高値圏からの利益確定売りが殺到する現象がみられる。

また資金の循環が不足していることが、シリコンバレーにおける投資事情がいまだほとんど改善していないことからうかがえる。IPOによる資金獲得のチャンスが減少し、投資家らも案件をかなり精査するようになったため、新規企業登場によるIT業界の次の技術的なブレイクスルーが見えづらくなっている。

以上を踏まえて考えられるのは、今後もより企業間の勝ち組と負け組がはっきりと分かれること、そして企業全体で急な回復を見込むのは難しく、しばらくは低空飛行が続く可能性があるということだ。AppleやGoogleなど、コンシューマ市場のユーザーらが特定メーカーに集中する現象が続く一方で、企業のIT投資がどれだけ復活するかが復活の鍵を握っているとみられる。だが企業のIT投資は市況に大きく左右されるため、今年後半に向けてまだ予断を許さない。もし読みが外れて在庫が積み上がったり、計画がキャンセルされることがあるようなら、とたんにIT各社の業績に跳ね返ってくるからだ。夏以降、今年後半の推移に注目したいところだ。