欧州インターネット業界では音楽ファイル共有が大きな問題となっている。The Pirate Bayの有罪判決、ファイル共有合法を主張する海賊党の当選、フランスで違法ダウンロード3回でネット回線を遮断するという3ストライク法(通称: Hadopi)の成立など、さまざまな動きが議論を活発化している。

Jim Killock氏

フランスに次いで3ストライク法案「Digital Economy Bill(DEB)」の審議に入ったのが英国だった。4月7日、英国ではDEBが成立したが、現在でも反対派の声は大きい。この法案が成立する前に、DEB反対運動を展開する非営利団体Open Rights Groupを訪問し、執行ディレクター Jim Killock氏に話を聞く機会を得た。話題は、オンライン音楽、著作権、「Google Books」など多岐にわたる。

--英国での違法ダウンロード取り締まり法案に反対していますね。Open Rights Groupの主張を教えてください。

DEBは、フランスの"Hadopi"に類似したもので、著作権侵害行為の追跡を目的に、著作権のあるコンテンツを許可なくダウンロードしているユーザーのIPアドレス情報を提供するというものです。警告の後、最終的にユーザーのネット回線を遮断できるのですが、期間をはじめ詳細はまだ未定です。

我々はこの法案に反対していますが、その理由は違法ダウンロードを支持するからではありません。インターネットにアクセスするという市民の権利を無視している点に怒りを感じるからです。我々の生活においてインターネットは不可欠になっており、これを遮断するという措置は行き過ぎだと思います。政府は問題を解決しようとしていません。

--では違法ダウンロード問題への適切なアプローチは何だと考えますか?

英国の音楽業界の状況として、オンライン音楽ビジネスを立ち上げるのが非常に難しいという課題があります。

新旧サービスを比較してみましょう。Spotify(広告付きの無料ストリーミング、または広告なしの有料サービスの両方を提供するスウェーデンのベンチャー)とラジオ局ではビジネスモデルは大きく異なります。

ラジオ局は、広告などで得た収益のうち一定比率をレコード会社に支払うというモデルです。一方のSpotifyなどのオンラインサービスの場合、レコード会社に支払う料金が固定されています。ストリーミングサービスの設備コストは高い上に、このライセンス料金は非常に高価で、条件も厳しいものとなっています。そのため、オンラインサービス業者は最初から高い収益を上げる必要があり、これが足かせとなっています。また利用条件に制限があるので、提供できるサービスも限定的なものとなっています。必然的に、広告やサブスクリプションなどのビジネスモデルの開発が遅れています。実際、Spotifyは英国で、コストと収益性の問題から新規ユーザー登録を中止したことがあります。

問題の本質は、デジタル時代に機能する仕組み/構造がないという点です。オンラインサービスは著作権侵害と戦っているのではなく、単に音楽ライセンスの難しさに挫折を感じています。

Spotifyは、さまざまな統計から著作権侵害行為の削減に貢献したといわれており、このような構造的な欠陥がそのままに放置され、合法サービスが離陸しないことにフラストレーションを感じます。多くのユーザーは、すばらしい合法サービスがあれば利用したいと思っているのです。

--ライセンス体系の改正が必要、ということですね。

オンライン音楽業界が抱える問題は、確立されたもの同士の対立ではなく、違法行為を行うユーザーと不公平な権利を持つコンテンツ所有者が関与し、Spotifyのようなベンチャー企業とレコード会社(大企業)との対立になっています。違法行為をしているのはベンチャー企業ではありません。このような複雑な構図により、政府は問題を正確に把握(問題はユーザーではないということ)できていないようです。

コンテンツ所有者が不利な条件を突きつけることがないよう、サービス事業者とコンテンツ所有者の双方に公正にする必要があります。これは産業界の努力だけでは達成できません。法的枠組みが必要です。

コンテンツ所有側は、どのようにコンテンツを配信するのかを自問すべきでしょう。もっと多くの人に使ってもらうためには、どうやって配信、提供するのか……。著作権は所有者に利益をもたらす仕組みですが、このメカニズムを情報が流れるチャネルを制限するために用いることは適切でしょうか。

--Napsterから10年が経過しますが、環境は進化していないのでしょうか?

ユーザーは、デジタルでは配信コストがゼロに近いということを知っています。そのため、これまでのように対価を払うという感覚を持っていないことが多いし、好きな音楽を所有することに対し、これまでとは違う姿勢を持っています。つまり、音楽ファイルは簡単に安く手に入るという期待が根底にあるといえます。

市場はコストを含め、いくつかのルールにより成立していますが、コストがゼロに近いということは、市場そのものがこれまでとは変わったといえます。

オンライン音楽ビジネスは潜在性が大きく、収益性のある事業であることは間違いありません。Appleをみれば明らかです。Limewireなどの違法サービスは低品質で、スパムやアドウェアなどのリスクもありますが、合法サービスは検索/発見、レコメンデーションなどさまざまな機能があります。ユーザーはファイル共有サービスにはない価値を見出すはずです。裏返せば、違法ダウンロードへのニーズが減るはずです。

一般論として、(ネット遮断などの)刑罰は解決ではありません。

--今後のオンライン音楽を楽観していますか?

もっと楽観したいところですが、残念ながら事実はそうでもありません。

インターネットの登場、そしてブロードバンド普及から数年が経過しています。本来であれば、オンライン音楽市場が繁栄してもおかしくない時期です。

それでも、問題解決に向けたうねりが多少感じられます。市民からは、ライセンス体系の改革が必要だ、という意見が出てきています。政府がこれに耳を傾けずに、(刑罰にとどまって)ライセンス改革を行わない場合、政治的失敗になるでしょう。