高城剛氏。肩書きの「ハイパーメディアクリエイター」とは、新聞記者が考えた肩書きだそうだ

2010年5月28日に発売予定の「Adobe CREATIVE SUITE 5」を、発売に先駆けていち早く体験できる東京・表参道のギャラリー「station 5」。同ギャラリーにて、クリエイター 高城剛氏が「CS5」で制作した作品を発表した。

高城氏はstation 5にて、「Illustrator CS5」で制作したという約5分間のアニメーション作品「大黒天」を披露。オープニング、スクリーンには黒い大きな円が描かれる。この円は「和」をテーマにした軽快なBGMに合わせて、少しずつズームアウトしてゆく。しばらく待つと、その円は運転免許証に貼られた高城氏の顔写真の眼であることがわかる。まだ「大黒天」は終わらない。どんどんズームアウトしていくと、その免許証が置いてある建物の俯瞰図になり、さらにはお台場の地図に。最終的には地球が丸く見える距離までズームアウトしていった。ちょうど「Google Earth」を使ってお台場から地球の外までズームアウトしたようなイメージだ。

この作品のテーマは、「ある夏の免許更新日の一日」。高城氏は、「この一日を境に海外に行こうと思った。その時、お台場にいた印象がすごく強かったので、こういう作品になりました。音楽はこの前まで滞在していたオーストラリアで制作しました」と語った。

「大黒天」が始まってしばらくすると、なにやら眼のようなイラストが

先ほどの眼は高城氏のものだとわかる

さらにカメラが引いてお台場の地図が現われる

高城氏、「Photoshop CS5」の「コンテンツに応じた削除」に興味津々

「大黒天」の公開に続き、高城氏は「Adobe CS5」についての印象を語った高城氏は「Photoshop CS5」の「コンテンツに応じた削除」の機能を絶賛。この機能は、写真に写っている物体を、違和感のないように消し去ってくれる魔法のような機能。デモンストレーションでは牧場を走る馬の写真が使われていた。馬を「コンテンツに応じた削除」で消すと、馬が居たはずの場所は、背景の草や柵に塗り替えられていた。

高城氏は時代劇の撮影を例に出して、この機能の魅力を説明。「僕らのような映像の仕事をしている人間は、良いものを作ろうとしたら何かを消さなければならない。例えば時代劇を撮るとき、日本中どこに行っても電線が見えるから広い絵を撮影できない。だから時代劇は人工的に作られたセット内で撮影していて、役者に近い構図の絵ばかりが目立つ。だけど、今回のようなツールがあると、野外で撮影をしても邪魔なものをきれいに消すことができます」(高城氏)

高城氏によると、これまで、映画1本分の電線を消すのに、約1000万円程のレタッチ費用が発生していたそうだ。これがAdobe CS5では簡単に出来るのだ。

高城氏がアイデア出しのコツを語る ―ヒントは「旅」

「ツールやインターネットの進化によって、作品制作は変わっていくか?」との質問に対しての高城氏の解答は「YES」だ。「高性能ツールが登場したことにより、プロのクリエイターとアマチュアのクリエイターの垣根がなくなってきています。いま普通の人の写真やblogがすごく面白い。僕は良い作品に出会うと、たまに制作者にコンタクトをとるのですが、作者が16歳の少年だったりします。僕らもうかうかしていられませんね」と高城氏は語った。

プロのクリエイターとして高城剛氏が心がけているのは、高性能なツールが登場したらいち早く導入し、新しいアイデアと表現で勝負することだと語った。「こうやってソフトウェアが進化すると、最後はアイデア勝負なんですよね。そうなると、アイデアをどのように作るかがポイントになります。僕の持論は『移動距離とアイデアは比例する』なんです。例えば近所を散歩してアイデアを練るよりも、アフリカまで行って考えたほうがいいアイデアが出る」(高城氏)

高城氏が世界中を旅しているのはアイデアを得るためだという。見たことのない映像や知らない体験をすると、新しいアイデアが生まれ、次の作品のヒントになるそうだ。Adobe CS5が発売されたら「すぐに導入します」と宣言し、さらに「僕にとって今年最大のテーマはAdobe CS5の新機能を活かした作品を世に送り出すことだ」とも語っていた。今後、どのような作品を生み出してくれるのか、活躍に期待したい。

なお、高城氏制作の「大黒天」はstation 5館内のモニターとstation 5オフィシャルサイトで観ることができる。

station 5の様子