ガートナー ジャパンは4月20日・21日の2日間にわたり、プライベートカンファレンス「ITインフラストラクチャ&データセンターサミット 2010」を開催している。今年のテーマは「未来志向で推進するITインフラ戦略~- 『クラウド・コンピューティング』、『仮想化』を超えて」。

ガートナー リサーチ バイス プレジデント ディビッド・ウィリアムズ氏

同カンファレンスでは「クラウド」や「仮想化」をテーマとする講演が多々行われる。クラウドは一般に、ベンダーによって提供される「パブリッククラウド」と企業内に構築される「プライベート・クラウド」があると言われているが、現在のところ、パブリッククラウドのほうが普及している。

今回、ガートナー リサーチ バイス プレジデントのディビッド・ウィリアムズ氏が、「今日のパブリック・クラウド・コンピューティングの現実」というテーマの下、講演を行った。同氏の講演から、「パブリッククラウドのサービスの実情」や「企業がパブリッククラウド導入時に行うべきポイント」を明らかにしてみたい。

Amazon、Google、Salesforceの欠点を指摘

同氏は、「クラウドは、当社のハイプサイクルという技術のライフサイクルにおいて、過度な期待のピークにある。この時期に相当する技術は人々にどのようなものか理解されていない」と説明し、パブリッククラウド・ベンダーのビッグ3である「Amazon.com.」、「Google」、「Salesforce.com」が提供するサービスの特徴を紹介した。

まず、Amazon.comが提供する「Amazon S3」は日単位の従量課金制がとられているが、「帯域幅」に課金されていることに注意すべきだという。「Amazon S3ではコンピューティング、ストレージ、帯域幅のそれぞれに対して課金されるが、儲けの多くは帯域幅によるもの。自社が利用している帯域幅を把握している企業は少ないはずなので、Amazon S3導入時にはよく検討していただきたい」

さらに同氏は、Amazon S3には応答時間に関するSLAがない点に注意すべきと指摘した。「Amazon S3はエンド・ツー・エンドのレスポンスを認識していない。応答時間のSLAほか、RPO (Recovery Point Objective:復旧時点目標)についても決まっておらず、可用性のみを保証していると言える」

Googleが提供する「Google Apps Premier Edition」は、Amazonが提供しているサービスに似ているという。

「Google Apps Premier Editionにはサービスレベルが設定されていない。例えば、10分間未満のダウンタイムはカウントされない。また、Amazonと同様、RPOとRTO(Recovery Time Objective:復旧時間目標)が存在しない」

Amazon S3とGoogle Apps Premier Editionのどちらも、各社の総収益の3%未満だという。こうしたことから、「両社ともにクラウドサービスにインパクトを与えないようにしているように見える。まだビジネスの方向性を定めていないのではないか」と、同氏は指摘する。

Salesforce.comが提供する各種クラウドサービスも、RPO、RTO、応答時間のSLAがないという。ただ、オプションでSLAについて契約することができるという。

クラウドサービスを構成するインフラは安価なものばかり

さらに同氏は、パブリッククラウドサービスの特徴として、構成するサーバ、ストレージ、ソフトウェアといったインフラがすべて安価であると説明した。

サーバはx86サーバが用いられ標準化が徹底されているため、障害が発生した場合はまるごと交換される。サーバ選定の際は、処理速度などではなく、電力効率のよさが最重視されている。

ただ、サーバのベンダーのマージンは20%~25%とそれほど高くなく、一般ユーザーがクラウドベンダーで利用されているサーバを61%引きで購入したこともあるとして、「パブリッククラウドの利用によるサーバの価格メリットはない」と、同氏は語る。

同氏は、「クラウドベンダーの利用するストレージ技術は非常に興味深い」としたうえで、クラウドサービスではSANやNASではなく、ファイルシステムレベルの共有が用いられていることを明らかにした。

「クラウドサービスでは、SATAディスクでファイルレベルの複製を行うことでコストを抑えている。これぞ、コスト最適化の秘訣だ。そこにはRAIDという概念はない。同じことをSANやNASで実現しようとすると、もっとコストがかかり、ユーザーに転嫁されることになる」

OS、ミドルウェア、データベースといったソフトウェアはオープンソースのものが使われており、自社で開発・運用を行うことで、コストが削減されている。

パブリッククラウド導入時に注意すべきは「コスト」と「SLA」

同氏はパブリッククラウドを導入する際のポイントとして、コストとSLAを挙げた。

ベンダーは「クラウドのほうが自社運用よりもTCOが抑えられる」というが、同社では「最初の2年間のみ」と見ている。「3年目以降は、ベンダーもハードウェアの更新などを行うはずであり、ハードウェアの価格なども考慮すべき」

加えて同氏は、「クラウドサービスが"コストの予測が容易ではない""一度導入すると止めることが難しい"」ことにも留意すべきと説明した。

一方SLAの決定にあたっては、「サービスの定義」「サービスレベル」「サービスレベルに対するコスト」を詰める必要があるが、「最も難しいのはサービスの定義」と同氏。

「サービスの定義はビジネス部門の人たちもわかるように、IT用語を使わずに行うべき」

またサービスレベルの定義は、最下位から着手すべきだという。

同氏の講演において終始出てきた単語が「SLA」である。システムの信頼性がコストとのトレードオフとなっているという。

パブリッククラウドのメリットとして真っ先にコストが挙がることが多いが、SLAや従量課金の形態などを吟味してから契約を行わないと、本当に「安価」かどうかわからないというわけだ。

もちろん、企業システムだからといって稼働率が99.999%である必要はないが、企業としてROIは見極めたいところだ。

自社のITシステムに対するニーズや利用状況を把握して、最適なインフラを整備していただきたい。