ブランド設立から半年で分社独立
携帯電話の次世代通信規格として、NTTドコモが2010年12月のサービス開始を予定しており、KDDIやイーモバイルも2012年にサービス開始を予定しているLTE(Long Term Evolution)。3.9Gとして位置付けられる同規格対応の端末や基地局を開発するためにはそれに対応した計測器を用いる必要がある。2009年7月30日にLTE/WiMAX向け計測器を中心に扱うことを目的に設立された「Accuver」について、同分野の計測器の動向と同社の戦略を聞いた。
元々、同社は移動通信における計測関連企業である弘栄が2009年2月に立ち上げたLTE/WiMA 向け計測器ブランド「Accuver」が母体となっている。ブランド設立から半年も経たないうちに弘栄より分社し、LTE/WiMAX向け計測器に集中した事業展開を開始したわけだ。
現在、同社は日本本社のほか、海外支店として英国ならびに香港、米国に拠点を有しており、4極体制を確立している。
そもそも計測器はオシロスコープなどの汎用型と、高度な計測用途に向けた特化型の2種類に分野分けすることができる。ここにAccuverがLTE/WiMAX計測器に特化した理由がある。汎用型の分野はいわゆる老舗の計測器メーカーが強い分野であり、「そこに進出してシェアの拡大を図っても、そう簡単に行くわけはない」(Accuver Seles&Marketing T&M Deptの菊池祥平氏)である。また、グローバル化に伴う経済のスピードアップが進む中、分社化して機動力を向上させようということが同社が設立された背景である。
事実、同社が弘栄より独立された後の社内は、「明らかに雰囲気は独立以前と変わった」(同)と、社内がよりLTE/WiMAX向け計測器をいかに成功に導くかに向けて一丸となったことを強調する。
また、開発体制もユニークだ。弘栄時代より韓国Innowirelessと戦略的パートナーシップの関係を構築、日韓共同で開発を行ってきた。Innowirelessは弘栄と共に無線ネットワーク測定・解析ツール「XCAL/P」などを通して、 無線区間の測定・解析のノウハウを構築してきた。そこにAccuverとして独立したことで、「まずはビジネスのスピードへの対応を図っていく。我々のような小さな企業の特長である小回りを利かせることで、開発速度とカスタマからの要望に対応するための意思決定の速度向上を狙いたい」(同)とよりビジネスのスピード感を増していくことを狙っていくと説明する。さらに、日本の得意とする製品品質と韓国の得意とする低コスト化を上手く融合させていくことで、競合に対するコストメリットを出していき、メンテナンスなども含めたトータルソリューションとして提供していくことで独自性も出していくという。
特長ある3つの製品群
現在、同社は3種類の製品を提供している。1つ目はeNodeB(基地局)と端末(UE:User Equipment)間の上り/下りの信号情報をキャプチャして解析する「LTE Air Sniffer」2つ目は端末にリアルタイムで基地局環境を提供できるエミュレータ「LTEBSE(eNodeBエミュレータ)」、3つ目が端末の上り/下り物理レイヤ標準試験を実施するためのRFパラメータ試験セット「VST(製造検査向け端末試験装置)」である。
これらの機器はそれぞれ個別に用いることも組み合わせて用いることも可能だ。個別に用いる場合は、例えばVSTなどは工場出荷時の端末の検査などにも用いることが可能だし、それぞれを組み合わせれば、擬似的に基地局を構築、端末のチェックから基地局との信号やり取りまでのすべての分野をチェックすることが可能となる。
同社では「国内だけでも今後の2~3年がLTE関連では勝負の年となる」(同)と見ており、今後の方向性としては世界の各地域ごとのローカライズをより重視していくとしている。
また、「我々としてはグローバルでのLTEの開発競争が進みスピード感が出てくれば、計測器の需要も増えてくるのではないかと見ている。その際に重要になってくるものとしては"開発効率""コスト""品質"の3つだと考えており、我々はそれをカスタマに提供できると確信している」(同)と今後のLTE開発競争が進むことへの期待を覗かせる。
ただし、競争が激化すれば、端末メーカー同士が合弁化などにより総数が減る危険性がある。そこは同社も危惧しており、「そうなれば必然的に納入先が減ることとなる。また、不景気になればトラブルシュートなどの分野から予算が減らされることとなり、我々としても利益の確保が難しくなるかもしれない」(同)とするが、そうした状況に市況が突入したとしても、「LTEに関して困ったことが起こればAccuverに相談すれば解決できる、という存在になりたいと思っている」と、よりカスタマと密接な関係を築いていき、LTE開発での存在感を出していくことでLTE向け計測器分野での主導権を取れれば、としている。