位置天文観測衛星「Nano-JASMINE」の打ち上げが決定

国立天文台は4月12日、東京大学らと開発している超小型位置天文観測衛星「Nano-JASMINE(ナノジャスミン)」について記者会見し、この衛星の打ち上げが正式に決まったことを明らかにした。射場は南米・ブラジルのアルカンタラ発射場。2011年8月に、新型ロケット「Cyclone-4」で打ち上げられる。

関係者と「Nano-JASMINE」の熱構造モデル。"超小型"と言いつつも、実際に見ると意外と大きい

発表者は国立天文台・JASMINE検討室の郷田直輝氏。開発には、東京大学と京都大学も関わっている

「Nano-JASMINE」は、日本では初めての"位置天文観測衛星"である。世界でも、欧州宇宙機関(ESA)の「Hipparcos(ヒッパルコス)」に次いで2機目となる。

"位置天文"とは、天球面上の(つまり見かけ上の)星の位置を正確に計測して、その時間変化を調べる学問だ。星の動きは極めて小さいため、観測には専門の衛星が必要となるが、これを精密に観測していくと、星ごとに違った動きをしていることが分かる。この動き方を見れば、その星までの距離なども推測できるのだ。

地球が公転しているために、星は見かけ上、楕円運動を描く。この大きさを「年周視差」と呼ぶ

また実際に星も動いている。これを星の「固有運動」と呼ぶが、視線方向の速度は分からない

年周視差と固有運動が合成されて、実際には螺旋運動のように見える。1年で1回転している

位置天文の観測結果を組み合わせて、じつに様々なことが分かるようになるのだ

原理については、上のスライドが分かりやすいと思うが、ここでポイントとなるのは、衛星の観測精度である。前述のように、星の動きは極めて小さく、しかも、遠くの星になるほど、その動きは小さくなる。つまり、精度の善し悪しによって、どれくらい遠くの星まで正確に距離を計測できるか変わってくるというわけだ。

精度向上の歴史。地上では大気によるゆらぎの影響があるが、宇宙観測によって飛躍的に精度が向上した

HipparcosやNano-JASMINEで測定できる範囲は微々たるもの。今後の衛星では、銀河系の中心も測定できるように

Nano-JASMINEでは、3ミリ秒角程度の観測精度を狙っている。これはHipparcosと同レベル(1ミリ秒角)と言えるが、このくらいの精度だと、正確に観測できるのは300光年程度。これは直径10万光年とも言われる銀河系から見ればごく近い範囲だ。

国立天文台はJASMINEシリーズとして、「小型JASMINE」(2016年頃)、「JASMINE」(2020年代)と大型化し、銀河系の中心部(バルジ)まで視野に入れる計画。今回のNano-JASMINEには、そういった将来の本格的なプロジェクトの前段階として、まずは超小型衛星で衛星開発のノウハウを得るという意味合いもある。

ただ、Hipparcosと同程度の精度(厳密には劣っている)だからといって、観測に意味がないというわけではもちろんない。Hipparcosの打ち上げ(1989年)からは、もう20年が経過しており、その間の固有運動によって、カタログとしての精度は劣化しているからだ(つまり、正確な位置が分からない)。また同程度の精度であっても、Hipparcosの観測結果とあわせることで、固有運動の精度を1桁向上することも期待できる。

ぼやーっとしているのは精度を表す。20年分の移動があるので、固有運動をより正確に求められる

Nano-JASMINEは2011年8月の打ち上げ後、2年間の観測を行う予定。8等級よりも明るい星(およそ20万個)について、3ミリ秒角以内の精度で観測し、2014年にはカタログが完成、公開できる見通しだ。