オンラインCRMは便利! - SMBが注目しはじめた理由は
オンラインで提供されるCRMを採用する中堅/中小企業が増えている。これまでは情報漏洩や機密漏洩、事業継続の観点から社外のシステムをオンラインで利用するというスタイルに懸念を示す向きがあった。しかしその認識は変わりつつある。信頼できるサードパーティのサービスを使った方が安全で実用的、費用も廉価になると判断されるケースが増えてきたのである。以下、オンラインCRMが魅力的に映る理由を簡単にまとめてみた。
- 中小企業の場合、業績に直結しない情報システム部門は持っていないことが多い。情報システムの重要度が増すにつれて社内で情報システムを管理保守することが難しくなっており、そうした労力をすべてサービスとして提供してもらえるオンラインシステムが魅力的になりつつある
- オンラインサービスを利用する場合、業務関連データを社外のシステムに保持することになるが、情報システム部門が不在という中小企業においては、社内に業務データを保持するよりも、信頼できるサードパーティに保持してもらった方が安全と考える向きが増えつつある
- 社内にシステムをデプロイするのと比べて、初期費用を安く抑えることができる。利用するクライアントが少ない場合、オンラインサービスを使いつづけてもデプロイ型よりも廉価に済むケースも多く、価格の面で魅力がある
- 社内にシステムをデプロイするのと比べて、導入までの時間が短く、スピーディな展開が可能。デプロイタイプでは仕様策定に半年や1年というスパンもざらにあるが、オンラインサービスの場合はすでにあるサービスをベースにカスタマイズすることで、開発を含めても数カ月単位でのスタートアップが可能
- いつもでやめられる。あわなければサービスを停止すればよく、デプロイするケースと比べてリスクが少ない
大企業はすでにエンタープライズシステムを構築している場合が多く、オンラインCRMへの必要性が少ない。オンラインCRMに魅力を感じているのはそうした大規模投資が難しい中堅/中小企業だ。2008年の金融危機以来、長引く不景気で状況はさらに悪化。情報システムへの予算割り当ては消極的になっている。こうした状況において月額で開始でき、しかも合わなければすぐに止められるオンラインCRMはリスクが少なく確実に利用できるソリューションとして注目されはじめている。
ツナグ・ソリューションズがMS Dynamics CRMを選んだ理由
ツナグ・ソリューションズ 経営企画部 統括グループ グループマネジャー 久保繭子氏。情シス部門のない同社において、今回のシステム導入を統括した。Dynamics CRMに変更してから「扱える応募者の数が5,000人から3万人に増えた」という |
アルバイトやパートの採用コンサルティングサービスを提供しているツナグ・ソリューションズはオンラインCRMを採用して成功した企業のひとつ。不景気という状況下では、アルバイトやパートの需要は高く、また、そういった仕事を求める人も日々増加している。そういった需要増にあって、同社ではオンラインCRMを導入することで業務がスムーズになり、以前とは桁違いの応募者をさばけるようになったという。
従来の業務では、応募を受けるコールセンターで扱っていたシステム(Salesforce.com)と、業務で扱っていたシステム(Microsoft Access)が別のものだった。異なるシステム間でのデータの再入力や突き合わせなど、必要のない二重運用が業務の負担になっていた。そこでデータセンターからコンサルティングまですべてを統合してまかなえるシステムを模索。最終的にMicrosoft Dynamics CRMのホスティングサービスを採用。SIer(イーシステム)に話を持ちかけてからクランクインまで実質3カ月。スピード対応といえる。
ツナグ・ソリューションズが、数ある候補の中からMicrosoft Dynamics CRMを選んだ理由は次のとおり。
- コールセンターシステムと業務システムの双方を提供しているソリューションが少なかった。特定の機能を提供しているソリューションはあったが、連携しての動作が難しく、導入に適していなかった。MS Dynamics CRMは求める機能をすべてカバーしていた
- 情報システム部門が社内にないため、社内デプロイには不安があった。イーシステムがはMS Dynamics CRMのホスティングサービスを提供しておりニーズに合っていた
- 稼動まで3カ月しかなかったが、対応できることがわかった
- MS AccessのUIとよく似ており、コールセンターのオペレータが入力しやすいなど、これまでのエクスペリエンスをそのまま適用することができて実務上の問題が少ないと判断した
- ほかにも候補はあったがコストの面で折り合いがつかなかった
- UIのカスタマイズをするにあたってSIerやベンダを通す必要がなく、マウス操作といった程度で細かいカスタマイズができて実用的だった
まとめると、コストが廉価であること、MS Accessの経験がそのまま生きること、必要とする機能がすべて提供されていること、などが大きかったようだ。業務データを社外に保持することについてどう認識しているかという質問に対しては「銀行にお金を預けるという感覚で、よりしっかりした会社に預けたほうが安全」と説明。情報システムを"サービス"と考えてサードパーティに任せ、自分たちは業務の中でどうそのサービスを活かしていくのかに視点を置いていることがわかる。
使える機能は何でも使おう! 投資回収のための積極的なアプローチも
MS Dynamics CRMを使ったサービスを提供しているイーシステムは、MS Dynamics CRMのシングルソースやほかのプロダクトとの親和性の高さを評価する。MS Dynamics CRMは社内にデプロイするケースでもオンラインでサービスを提供するケースでも、まったく同じ構成となっている。つまり、オンラインサービスからデプロイへの移行も、そしてその逆もシームレスに実施できる。
あくまでも個人的な見解だと前置きしたうえで、リーマンショック以来、大規模な予算をつぎ込んでシステムを開発するという傾向はたしかに減っているとし、スモールスタートで確実にリスクを軽減できるホスティングサービスが採用されるケースが着実に増えているのではないか、とイーシステムの担当者は説明する。
マイクロソフトは1年ほど前の2009年5月にCRMをさらに広げた概念としてXRM戦略を発表しているが、ツナグ・ソリューションズとイーシステムの事例は、XRM戦略が発表される以前の段階ですでにそれを実現していたものとなる。
MS Dynamics CRMはCAL(Client Access License)で提供される。従量制ではなく定額だ。このため、特定の機能に限定せずに使えるだけ使った方が費用対効果が上がることになる。オンラインサービスでMS Dynamics CRMを利用する場合には「情報システム部門に負荷がかかるから、利用する機能を限定しよう」というネガティブな発想に陥ることがなく、投資を回収するためにもっと積極的に活用しようというモチベーションの向上にもつながるという側面もある。