「保険業界はこの10年、どの会社も"いかに他社と違う商品を出せるか"という意識に強く支配されていた。さまざまな特約が登場し、商品の多様化はとまらず、保険金支払い時の規定も膨大なものになっていた。そして商品の多様化に合わせるように、業務を支えるITシステムも、気づいたときには、つぎはぎだらけのシステムになっていた」 - 東京海上日動システムズの営推・代理店ソリューション本部 営業推進システムデザイン部の部長を務める太田愛仁氏は東京海上日動のITシステムリプレース当初を振り返った。
東京海上日動システムズは、130年の歴史を誇る東京海上グループのIT戦略を支える中核企業だ。同グループの中期経営計画発表にあたってコンセプトに掲げられたのは「品質で選ばれる保険会社に」だった。他社との違いを強調することよりも、商品の規定をシンプルにし、品質で顧客に選んでもらえる保険を愚直なまでに追求するという、いわば"原点回帰"ともいえる方針転換だった。そして同グループは商品だけでなく、すべての業務プロセスを抜本的にシンプル化させ、「時代の変化に柔軟かつスピーディに対応できる組織」(太田氏)を目指すことになる。当然、ITシステムも例外ではなく、いかにスリムで効率的なものに変えるかが、太田氏らにとっての課題となった。ITシステムの変更プランに関しては2004年ごろから同社内で検討が行われてきたが、本格的なリプレースは2008年からスタートすることになる。
保険会社にとって、顧客との間の重要なブリッジとして欠かせない存在なのが代理店だ。東京海上日動は配下に約5万店もの代理店事業者を抱える(専業/兼業含む)。彼らの業務支援を強化することは、経営サイドにとっての最重要課題のひとつだった。もちろん、ITによる支援もその中に含まれる。代理店の視点で業務プロセスを組み立て直すこと - そうして作られたのが「TNet」という代理店のためのシステムであり、「代理店経営羅針盤」だった。
代理店経営羅針盤プロジェクトでは、まず、代理店の経営課題を洗い出し、それを定量的な指標にまとめあげた。この指標を可視化し分析を行う(羅針盤分析)、そしてその結果をもとに本社営業社員と代理店が対話を行い(羅針盤WITH)、本社内の"標準化された施策"でもって代理店を支援する(情報ハイウェイ)というPDCA戦略を実現できる3つのシステムによって構築された。開発期間は1次フェーズ/2次フェーズあわせて約7カ月間、運用規模は総利用者数として代理店ユーザ約3,000人、社員ユーザを約4,000人、最大同時アクセス数として100ユーザ/分を想定した。羅針盤分析の概要は以下の通り。
- ダッシュボード … 1(10画面を切り替え表示)
- 帳票 … 2
- レポート … 67
- 自由分析 … パワーユーザが非定型レポートを作成
東京海上日動の代理店の1日はTNetにアクセスすることから始まる。代理店経営羅針盤を導入後、代理店からは「経営戦略が非常に見えやすくなった。内向きの処理が減り、外向きの行動が増えた」という声が多く、おおむね好評だという。「月にして平均1,000ユーザがこのシステムをコンスタントに利用してくれている」と太田氏。
今回、3つの構成システムのうち、可視化/分析のために導入したパッケージがマイクロストラテジー・ジャパンのBIソリューション「MicroStrategy 8.1」だ。太田氏は同パッケージを選んだ理由として「もともと(マイクロストラテジーの製品が)東京海上日動にとって実績があるパッケージだったということに加え、代理店への訴求効果が非常に高いこと、コストパフォーマンスにすぐれていること」の3点を挙げる。とくにポイントが高かったのは、代理店にとって非常にわかりやすく各データを可視化できる点だった。代理店にとっては使うことが苦痛に感じるようなシステムではなく、毎日の業務を滞りなくこなせるシステムが必要だ。そのためには"UIのわかりやすさ"は必須だったと太田氏はいう。数あるBIツールの中でも、この点で同社の要求をもっとも満たしていたのはマイクロストラテジーの製品だった。「BIだけでここまで視覚に訴えられる製品は少ないのではないか」と太田氏は評価する。デフォルトの機能だけでなく、「さらに使い勝手を上げるため、パフォーマンスの改善や日本語UIについては、かなり細かい部分まで調整をお願いし、可能な限り対応してもらった」と振り返る。
今後はTNetを代理店にさらに活用してもらえるよう、改善を行っていく予定だという。「伊勢神宮は20年に一度、すべての社殿を作り替える"遷宮"を行うが、TNetのシステム構築はイメージ的にそれに近い。その甲斐あって、変化に柔軟に、かつ迅速に対応できるシステムが出来上がったと思う」と太田氏は語る。ここ数年の保険業界のあり方を反省し、代理店への積極的な支援を通じて顧客の要望に応えることを、ITの面から支援した好事例といえるだろう。