独立行政法人 情報処理推進機構(以下、IPA)は4月7日、「IT人材白書2010」に関するプレス説明会を開催。IT関連産業における人材動向やオフショアの活用状況、IT教育の産学連携、就業者個人の意識などに関する調査の概要を公表した。
今回のプレス説明会は、「IT人材白書2010」が5月の正式リリースされることに先立ち、その概要がIPAのWebサイトで公開されたことを受けて開催されたもの。前年度版は主に「IT人材動向に関する調査結果報告」にとどまっていたが、「IT人材白書2010」は「日本の産業競争力を高めることを最終的な目的としている」(同機構理事 田中久也氏)という背景を踏まえ、調査結果とトピックスの分析をもとに、IPAとしてのメッセージが発信されていることが特徴となっている。
今回の調査結果は、主にIT企業3,000社、ユーザー企業3,000社、大学を中心とした470の教育機関への郵送によるアンケート結果に加え、現役IT人材(1,000名)、情報系の学科の卒業生(300名)、IT人材を除く一般の社会人(1,000名)に対するWebによるアンケートがベースになっている。
同調査結果では、IT人材の"量"に対する不足感はIT企業、ユーザー企業ともに緩和されているものの、"質"に不足感が高いという結果が判明。その背景としては、新技術の登場やITアウトソーシングに対する需要増の高まりがあり、高度な技術力を持つITスペシャリスト(ITS)や運用系の人材であるITサービスマネジメント(ITSM)ニーズの高まりがあるという。
一方でプロジェクトマネジメント(PM)やアプリケーションスペシャリスト(APS)に対する需要は減少傾向にあり、田中氏は「他の調査でも同じような結果が出ており、これは業界全体の流れとしてとらえていいのではないか」と語った。
また、同白書ではオフショア開発に関する動向についても調査を実施。発注先として中国の存在感が圧倒的である一方で、発注件数ベースでベトナムがインドを抜いて2位の相手国となったことが明らかにされた。この点について田中氏は、「中国に代わる発注先として、日本語教育も進みつつあるベトナムが注目されてきている」としている。またオフショア開発の目的としては、コスト面のメリットのほかに、とりわけ中国やベトナムについては海外市場開拓という戦略的な狙いも含まれているという。
ITスキル標準(ITSS)について同調査では、従業員数1,001名以上の企業の活用状況が82.4%となったことがわかっており、「体力のある企業(=大企業)ではおおむね普及が浸透した」という結論が示されている。しかしながら、昇格・昇進といった人事制度との連携という面については「多くの企業においてリンクする形にはなりつつある」(同機構)としながらも、まだ課題が残されているという点が浮き彫りとなった。
また、ユーザー企業におけるUISS(情報システムユーザースキル標準)については依然として上述の規模以上の企業でも「活用している」としたのは10.9%と低いレベルにとどまっており、「普及のための方法論を見直さないといけない」(田中氏)としている。
人材育成の産学連携については、従来から企業と大学の間にギャップがあることは指摘され続けていたが、両者とも「チームによるプログラム・ソフトウェア開発の重要性」という点に関しては意識が一致しており、IPAとしても今年から産学連携のPBL(Project Based Learning)への取り組みに注力していくという。
同白書では、IT業界が世間一般で言われているような"3K"職場ではないという指標が示されており、IT人材の「職場に対する満足感」は比較的高いとされている。ただし、多くの人材が勤務先やキャリアパスなどに対する将来の不安を抱えているため、同白書には「IT企業の経営者は、未来が見えるビジョンを提示しなければならない」というIPAのメッセージが盛り込まれている。
なお、「IT人材白書2010」は前回の「IT人材白書2009」と異なり、書店やネット書店での販売は行われない。IPAのWebサイトでPDFによって内容が5月下旬に公開され、印刷・製本されたものが必要な場合は実費(1冊あたり1,000円)にてIPAから直接購入することになる。