「ずばりライバルは"ドラえもん"」──東急ハンズの在庫検索サービス『コレカモネット』を手がける長谷川秀樹氏はそう話す。検索ロボット"コレカモさん"とTwitterを組み合わせた、実用的だがどこか愛嬌のあるサービス。その狙いについて伺った。

東急ハンズ「コレカモネット」を手がけた、IT物流企画部部長 長谷川秀樹氏(右)とIT物流企画部 IT課 本田浩一氏

店頭在庫をネットで確認できれば、店舗に行ったのにお目当ての商品がなかった……という無駄足は踏まずに済む。東急ハンズがそんなサービス、コレカモネットを構築するために利用したのは、在庫検索ロボットのコレカモさんとTwitterだ。サービスを手がけたIT物流企画部部長 長谷川氏は、コレカモさんの意外性とTwitterが持つインタフェースがうまく機能していると話す。

"ドラえもん"こそ魅力的なインタフェース

コレカモさんは、店頭在庫をリアルタイムに検索してくれるロボット。コレカモネット上からでもTwitter上からでも、取り置き店舗やおすすめ商品を気軽に尋ねることができる。要は在庫検索の結果を返すだけなのだが、その回答には実用性にとどまらない魅力がある。

「『お米が切れちゃったんですけど』という質問に、『お米の栽培セットはどうですか』と返していた。明日にも食べたいに決まっているのに、一年もかかる栽培セットでどうするんだと(笑)」(長谷川氏)。

コレカモさんの意外な返答が話題に

利用客の無駄足を省くことが目的のサービスなのに、ズレた回答。でも、そこを楽しんでくれるユーザーがいる。コレカモさんを試すかのような質問を投げる人も増えてきた。「コレカモさんのボケたところには、人間の対面販売を超えるものがあると気付いた」(長谷川氏)。もちろん、その意外性は、120万点という東急ハンズならではの品揃えに拠る面もあるが、それでも長谷川氏は、当初思い描いていた"ドラえもん"のようなサービスにやや近づいたと感じている。

「いままでの検索では、引っかかりそうなキーワードを考えていたが、Twitterだと『お父さんの誕生日には何がいいかな』と相談できる。このやりとりは、コンピュータの新しいインタフェースになっていくと思う。突っ走ったことを言えば、その行き着く先はドラえもん。これは魅力的なインタフェースだと思った」(長谷川氏)。そこから在庫検索ロボットとTwitterを組み合わせたサービスを考案。以前より、東急ハンズではTwitterを活用しており、在庫検索に対するニーズは把握していた。

当初はドラえもんの起用を考えて小学館にも相談したが、ライセンス料など諸問題もあると見て、「ヒューマノイドロボットみたいなものということで、『これ、かも?』のカモ型ロボット」(長谷川氏)に切り替えた。そして「なにを聞かれても、なにかを答えることをコンセプト」(IT物流企画部 IT課 本田浩一氏)にチームラボが検索ロボットを開発。結果として、想像外のボケを見せる意外性も含め、コレカモさんの出来は満足のいくものとなった。ひとまずユーザーにも受け入れられている。

計算問題を解くのとは違い、検索サービスは正解のない世界だ。「賛否両論あると思うが、これからはコンピュータにも(質問に対し)多様な受け取り方があるんだよ、という認識に移っていかなければいけない」(長谷川氏)。そうした認識で受け止められる最たる例がドラえもんだ。必ずしも正解を提示しない点もまた魅力──。その意味で「ずばりライバルはドラえもん」。長谷川氏はコレカモさんの方向性について、予算対応などの機能強化を考える一方、「検索エンジンをもっとドラえもんに近づくくらいにブラッシュアップ」したいと考えている。

人間的な回答をするコレカモさんだが、ほぼ100%がロボットによる返答だ。かなりの長文に対して的確な回答をすることもある

なお、コレカモさんの返答文言のデータベースは商品POPをもとに作成されている。ユーザーとのやりとりには、「中の人おつかれ」「な、中の人なんていないカモ!」というものもあるが、返答はほぼ100%がロボットによるものだ。"中の人"が返答する場合は人間のアイコンが使われる。ちなみに"中の人"が登場するケースとしては、コレカモさんが方向違いの返答をしたときの"ツッコミ要員"と考えているそうだ。

タイムライン構造と購買パターン

コレカモさんあってのコレカモネットだが、Twitterが持つタイムライン構造も購買行動へつなげるポイントになっているという。コレカモネットコレカモさん on Twitterは、いずれもタイムラインベースのインタフェースを持ち、他人の問い合わせとその返答を誰でも見ることができる。長谷川氏はその重要性を指摘する。

タイムライン構造を持つ「コレカモネット」

「たとえば、昔の商店街の八百屋では、店の親父さんに話しかければ『いい新タマネギがあるよ』『これ使って肉じゃがはどう?』なんてオススメしてくれた。でも当然、しゃべるのが苦手なお客さんもたくさんいて、そういう人──サイレントカスタマーはその会話を参考にして商品を買っていた。会話の中で選ぶという購買パターン自体は、Twitterのタイムラインを参考にするのと同じ」。

コレカモネットを経由した購買行動は自己完結せず、タイムラインとして残り、他人が参考にすることができる。ただ眺めているだけでも、欲しい商品を見つけるきっかけになるし、店舗側にとっても、思わぬニーズを察知するきっかけになる。長谷川氏は、従来のWeb検索はセルフサービスに近いとし、商品探しに悩むユーザーにとってタイムライン構造がもたらすメリットは大きいと説明する。そのため、コレカモネットにUI面で変更を加えていく考えはあまりないとのことだ。

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コレカモネットは経済産業省の「ITとサービスの融合による新市場促進事業」の採択事業として3月いっぱいで実証実験期間を終えるが、その後もサービスは継続される。現在は東急ハンズ以外に無印良品の在庫情報の提供を受けており、今後は他社とも協力していく予定。映画館の空席状況や書籍情報など、さまざな情報のリアルタイム提供が考えられるとしている。