新入社員に最も求められているのはビジネススキルの修得
ナレッジ・コー・クリエイティング推進本部 サービス部 部長を務める三原乙恵氏によると、同社が新入社員教育を提供する企業はITベンダーが多いそうだが、ITに関するスキルよりもビジネススキルに対するニーズが高いという。
「新入社員を現場に迎えた時、最も困るのがビジネススキルの不足と聞いています。具体的には、"ビジネス文書が書けない"、"指示されたことしかしない"、"指示を待っている"といったことです」
同社ではビジネススキルを鍛えるために、「ロジカルシンキング」、「電子メールの書き方」、「ビジネス文書の書き方」、「ビジネスマナー」をプログラムに組み込んでいる。これらのうち、ここ数年重要視されているのが電子メールに関するスキルだ。
ご存知のとおり、昨今のビジネスはメールなくしては進まない。しかし、最近の新入社員にとって、メールと言えば携帯電話でのメールが当たり前だ。これが企業に入社してから、さまざまなトラブルを巻き起こす。
「今の学生は入社前の人事部とのやり取りをPCのメールで行います。その際、"件名がない"、"本文を書かずに添付ファイルのみ送ってくる"といったことがよくあるそうです。こうしたことは携帯電話でのメールでは問題なくても、ビジネスメールではマナー違反です」と同氏。
ちなみに"携帯文化"は、社内の電話での対応にも影響を及ぼしている。「携帯電話はかかってくる相手が決まっていますが、社内で受ける電話は誰からかかってくるのかわかりません。そのため、対応に困ってしまう新入社員もいるようです」
答えが1つではないトレーニングで思考力を身につける
同社の新入社員教育では、メール以上にロジカルシンキングに力を入れている。というのも、研修中の新入社員は「テストに対して一生懸命であり、答えを出したがる傾向が強い」(同氏)からだ。
そこで、「自分ができていないことに気付く」ような研修を行っているそうだ。これにより、物事の方向性が見えてくるというわけだ。自分が「わかっていないこと」や「できていないこと」は案外、自覚していなかったりする。
「研修では、答えが1つではない論的な質問を投げかけます。こうした質問に答え続けていくことで、思考力が強まっていくのです」
新入社員の「常識」に知識やマナーをプラスしてあげる
現在、新入社員の採用は抑制する企業が多いようだが、これまで繰り返されてきた"就職氷河期"の影響から、企業では人材の空洞化が起こっている。新入社員とその上の社員の年齢差が大きくなっているのだ。
そのため、「久しぶりの新人」の扱い方に戸惑っている先輩社員も多いのではないだろうか?
先輩社員からすると、どうしても新入社員の仕事ぶりに文句を言いたくなることもあるはずだ。その時、「何でできないんだ」と強い語調で言うのではなく、何ができていないのかを教えたうえで考えさせたほうがよいと、同氏は指摘する。
「以前の新入社員研修は"早く自律させる"というコンセプトが定番でした。しかし今は"教えてもらってないことはできない"という新入社員の傾向を踏まえ、"教えてから考えさせる"というやり方に変えている企業が増えています。新入社員の"常識"に、先輩社員がさまざまなことをプラスしてあげるわけです」
同社はOJTのトレーナー向けのトレーニングも行っている。受講者の大半は「新入社員が何を考えているのかわからない」といった悩みを抱えているそうだ。同社ではそうした人たちに、「コミュニケーションをとっていくことが大切」と教えるという。コミュニケーションは人間関係の基本ではあるが、実行・継続するとなると難しいものだ。
他者と自分をよく見ている新入社員たち
ここ数年の新入社員を「ゆとり世代」といった言葉で表すことがあるが、同氏に彼らにどのような特徴があるのかについて聞いてみた。
「KY(=空気を読まない)という言葉が一時期はやりましたが、彼らはとにかく人をよく見ています。当社の研修で、"360度評価"という他者を評価するプログラムがあるのですが、その評価が驚くほど的確なのです」
人間は本当のことを指摘されるとムッとしてしまうことがあるが、彼らは他者からの評価を冷静に受け入れているそうだ。「彼らは非常に大人です」と同氏。
また彼らは意外にも「甘え上手」であり、「頼り上手」だという。「人をよく見ているだけに、頼れると思った人には心を許し、いろいろと頼るようです」と、同氏は笑いながら教えてくれた。新入社員に頼ってもらいたい先輩は、まずは自分の行いを正すことから始める必要があるのかもしれない。
ITエンジニアに求められるのはPM力
同社はITベンダーの教育を請け負うことが多いということで、ITエンジニアならではのトレーニングも気になるところだ。
三原氏は「ほぼ他の職種と差異はありませんが、敢えて言うならば、プロジェクトマネジメントのトレーニングでしょうか」と答えた。
プロジェクトマネジメントのトレーニングだが、文系の受講者はスムーズに進める一方、理系の受講者は苦手な人が多いそうだ。「できない人はできる人にまかせてしまい、できる人がすべてやってしまう」と同氏。
同氏によると、理系大学でも学生の「チームで活動することがうまくいかない」という性質に気付いており、同社の協力を得て、カリキュラムにプロジェクトの疑似体験を取り入れたりしているという。
「今のITエンジニアには技術力以上に、チームで成し遂げるための力が必要とされています。こうした力は上級エンジニアになってから学ぶことは難しいものです」
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最後に、同社の強みについて聞いてみた。「当社は顧客と一体になって、社員の教育を行います。お節介かもしれませんが、新入社員教育で様子のおかしい受講者がいたら、人事部の方と一緒に対応策を検討することもあります」と、同氏は話す。
市場調査の結果を見ていると、これまで以上に人材育成に力を入れていきたいと考えている企業は増えている。月並みかもしれないが、企業を支えているのは人だ。人なくして、企業は存続しえない。
そして、企業はさまざまな世代の人から成り立っている。簡単に理解しあえないのは当たり前だろう。まずは、先輩社員から新入社員に歩み寄って、コミュニケーションの糸口をつかみたいものだ。新入社員も一生懸命な先輩社員の気持ちをくみとって、心を開いてもらいたい。