情報通信研究機構(NICT)は、必要最小限の受信信号から光位相を推定する技術を開発し、これにより12.5Gbaud光信号の送受信実験に成功したことを発表した。
光通信では、光の波動としての3つの要素である「強度」、「タイミング(位相)」、「色(波長または周波数)」があるが、送信側と受信側で位相を正確に合わせ、3つの要素を駆使し、一度の変化で複数のビットを伝えることを可能とする「光コヒーレント通信」の実用化要求が高まってきていた。
コヒーレント通信は、電波を使った無線通信ではすでに広く使われている方法だが、光の振動の速さは、電波のそれと比べて1万倍以上であるため、位相の制御が困難という課題があった。これに対し、最近では高速デジタル信号処理で位相のズレを計算で推定し、補正するという方法(デジタルコヒーレント)が注目を集めているが、同方法では位相の推定・補正の他にもさまざまな機能が実現できる反面、高い信号処理能力が必要となり、これまでは疑似的に計算機上で信号処理を行う研究報告がほとんどで、リアルタイム処理は困難だったほか、高い信号処理能力と低消費電力化の両立も大きな課題となっていた。
今回NICTでは、通常のデジタルコヒーレント信号処理と比べて少ない計算量で送信側と受信側の位相のズレを補正する手法を開発、12.5Gbaud位相変調信号のリアルタイムコヒーレント信号受信に成功した。
デジタルコヒーレントと今回NICTが開発した手法(デジタルPLL)の比較(デジタルコヒーレントでは高速AD変換、DSPにより、送信側光源と受信用光源(光LO)の位相差推定、波形劣化の補正などを実現。NICTが今回提案した手法(デジタル位相ロックループ:PLL)では、サンプラで必要な信号だけをAD変換し、安価な汎用DSPで光位相を推定し、位相差がゼロとなるように光LOを制御する) |
同手法では、光信号の一部をサンプルするのみで位相を補正できるため、安価な汎用信号処理チップで所要計算量従来比1/100以下の消費電力低減が期待できるほか、これまで信号処理能力の限界で困難であった変調速度を向上でき、100Gbpsを超える超高速伝送を身近にすることが可能となるという。同技術を活用することで、光ディスクに収められたハイビジョン動画を家庭向け光ファイバ通信(100Mbps)で転送する場合、60分以上かかるが、100Gbpsでは4秒以下で送ることができるようになる。
なお、NICTでは、さらなる高速化、低消費電力化、低コスト化を進めていくとしている。