東北大学の研究グループは、ゴムのように10~13%伸び縮みし、かつ高強度な鉄系超弾性(形状記憶)合金の開発に成功したことを発表した。

形状記憶合金には、材料を変形しそれを加熱すると元の形にもどる形状記憶効果の他に、超弾性あるいは擬弾性と呼ばれる「ゴムのように伸縮する特異な性質」があり、Ni-Ti基合金(ニチノール)やFe-Mn-Si基合金などがこれまで形状記憶合金として実用化された。特に材料特性に優れたニチノールがその応用のほとんどを占めてきたが、ニチノールは冷間加工性が低く、素材や製造コストが高くなる点が課題となっていた。

一方、従来型Fe系形状記憶合金の代表であるFe-Mn-Si基合金は、加熱で形状が戻る形状記憶効果は示すものの超弾性が得られず、応用範囲が限られていることから、大きな超弾性歪みを示しつつ高強度なFe基形状記憶合金の出現が求められていた。

今回開発されたFe系合金は、Fe以外にNi、Co、Alを主成分とする新型形状記憶合金で、類似した相変態を示すFe-Ni-Co-Ti系形状記憶合金は、数十年前より世界中で研究開発が進められてきたが、脆性のためにほとんど超弾性が得られず、実用に供されなかった。今回開発された技術は既存合金のTiをAlに置き換えた上で数種類の元素を添加し、さらに適切な加工熱処理を施すことによってミクロ組織を制御。これにより、室温で超弾性を示す鉄系多結晶バルク合金を得ることに成功した。

同合金は、ニチノールの約2倍となる超弾性歪み(最大約13%)を示すほか、高い熱間・冷間加工性を有し、板などへの成形が容易だという。また、800MPa以上の高い超弾性応力を有していることから、従来の形状記憶合金では適用できなかった高い強度レベルが要求される新しい用途、例えば一般構造用、精密機械用、建築用などの他に、従来の形状記憶合金が用いられてきた医療用、スポーツ・レジャー用、眼鏡フレームなどの用途においてもこれまで不可能だった新しい製品の創出が期待できるようになるという。

さらに、同合金は強磁性を有するので、磁場駆動マイクロアクチュエータや磁場駆動スイッチ、磁気センサなどの磁場によって動的に機能する材料やセンサ材料としての応用も考えられるという。

なお、今後、同大では、実用化へ向けた疲労特性や耐食性の評価を行い、企業と連携して量産化技術の確立を進めて行くほか、医療用、工業用といったさまざまな用途への展開を図っていく予定としている。