本記事は、『Web Designing 4月号』(2010年3月18日発売・毎日コミュニケーションズ刊)に掲載された「HOSTING SERVICE ESSENCE」をマイコミジャーナル向けに転載したものです。

独自ドメイン名を使って、GmailやGoogleカレンダーなどのサービスを利用することができる『Google Apps』。すでに有名大学や大手企業などが導入し、身近なクラウドコンピューティングとして話題を集めている。しかし、その設定や活用の方法がいまひとつわからないという人も多いようだ。そこで今回はGoogle Appsを使った新たなサーバ活用術について紹介していこう。

独自ドメインで使えるGoogleサービス

Googleが提供しているGmailやGoogleカレンダー、Googleドキュメントといったサービスは、いずれも高機能でしかも無料ということから、すでに利用されている人も多いだろう。これらのサービスは、これまで手もとのパソコン上のアプリケーションで行ってきたことを、Webブラウザを使ってネット上で行えるようにした、ある意味もっとも身近なクラウドコンピューティングといえる。ただ、プライベートで使うぶんには非常に重宝なこれらのGoogleサービスも、いざ企業が使うとなると、大きな壁に突き当たる。それが独自ドメインとメンバー管理という問題だ。

しかし、そんな問題をあっさりと解決したのが、「Google Apps」というサービスだ。Google Appsは、GmailやGoogleカレンダー、ドキュメント、トークといったサービスをパッケージ化し、独自ドメインで運用できるようにし、しかも管理者が登録ユーザーを一括して管理することが可能となっている。そのため、自社の独自ドメインでGmailアカウントを発行したり、Googleカレンダーを自社のグループウェアのように活用したりすることができる。もちろん、アカウントの管理や共有設定なども、すべて管理者が行うことができるようになっている。

Google Apps Standard Editionの管理画面。ここからメンバー管理やメールアカウントの発行などが行える

現在Google Appsには、家族や小規模なグループ向けに無料で利用できる「Standard Edition」と、有償(1アカウント年間6,000円)となるがGmailの一人あたりの要容量が25GBに拡大され、セキュリティ面も強化された「Premier Edition」。そして、大学などの教育機関向けに「Premier Edition」と同等の機能を無償で提供する「Education」の3タイプが用意されている。

設定はユーザー自身で、が前提

Google Appsを導入する最大のメリットは、自社のメールサーバやグループウェアを丸ごとGoogleにアウトソーシングできる点といえる。特にGmailは、世界でも最高峰のひとつであるGoogleのスパムメールフィルタやウィルスチェックをそのまま活用できるし、何よりも現在利用しているホスティングサーバのリソースをWebに集中することが可能となる。

昨今のWebはCMSツールやデータベースを駆使した動的なものが主流となってきている。快適なサーバ環境を実現するためにはより多くのサーバリソースが必要となるが、Google Appsを使えば、自社のサーバのリソースを、すべてWebに使えるというわけだ。

また、Google Appsでは、iGoogleのようなスタートページを自社ロゴにカスタマイズして運用できたり、それを独自ドメインのURLに設定したりすることも可能となっている。まさにGoogleのサービスを自社専用のサービスのように利用できるというわけだ。

ただ、Google Apps導入には、各種DNSレコードの設定変更という厄介なハードルがある。しかも、そのすべてを自分自身で行うことを前提としている。たとえばGmailを自社ドメインで使用するにはMXレコードの変更が必要になるし、GoogleカレンダーのURLを自社ドメインに変更するためには、CNAMEレコードの追加が必要だったりする。DNSレコード自体、普段ほとんどのユーザーにとって馴染みのないものだし、ホスティングサービスによっては、DNSの管理画面が必ずしも用意されているとも限らない。

さらにGoogle Appsの管理画面は頻繁にアップデートされており、前回まであったボタンが、違うところに移動しているといったことも珍しくはない(Googleの場合、そうした仕様変更を必ずしもアナウンスしてくれるとは限らない)。

とはいえ、身近な最先端クラスのクラウドサービスを使うことができ、しかも自社のサーバリソースを有効活用できる点は、Google Appsの大きな魅力だ。もし現在使っているホスティングサービスにDNSの管理画面がある方は、ぜひ試してみてはいかがだろう。

【ピックアップ用語解説】DNSレコード

そもそもDNS自体はドメイン名とIPアドレスを関連づけるシステムだが、DNSレコードはさらに詳細の属性を指定するものだ。たとえばドメイン名からIPアドレスを指定するのはAレコード、Aレコードの別名(エイリアス)を指定するがCNAMEレコード。さらにメールサーバを指定するのはMXレコードというように、各種のレコードの設定によってより複雑なサーバ運用ができる。

ホスティングの家電化を進めたい - KDDIウェブのGoogle Apps連動の狙い

KDDI ウェブコミュニケーションズ SMB事業本部 事業本部長 高畑哲平氏

KDDI ウェブコミュニケーションズが提供しているホスティングサービス「CPI」では、今年1月から『シェアードプラン Z シリーズ』でGoogle Appsの「Premier Edition」と連携させるサービスをスタートさせた。これは『シェアードプラン Z シリーズ』を契約したユーザーに「Premier Edition」の1アカウントを追加費用なしで提供するというものだ。競合するように思えるサービスをあえて取り入れた同サービスの狙いはどこにあるのだろう。SMB事業本部事業本部長の高畑氏に、その考え方を伺った。

「たしかにGoogle Appsは、我々のようなホスティング事業者にとっては競合するサービスかもしれません。実際、我々も独自のクラウドコンピューティングサービスに取り組んでいますし、今後はさらに注力していく予定です。しかし、ユーザー視点から考えれば、今すぐに使える優れたクラウドサービスがあるのであれば、使えたほうがいいわけです。その結果、クラウドサービスの魅力を実感できるユーザーが増えれば、最終的には我々にとっても利益にもつながると思います」(高畑氏)

さらに今回の連携については、もう一つの意味があると高畑氏は続ける。

「かねてより我々は、"ホスティングサービスの家電化"を標榜してきました。もっとわかりやすく、誰もが簡単に使えるホスティングサービスの実現です。Google Appsは優れたサービスではありますが、その設定をユーザー自身が行うには、それなりのスキルがある方に限られてしまいます。そこで今回の連携サービスでは、当社の管理画面からドメインやURLの設定など、すべての煩雑な設定操作を簡単に行えるようにしています」(高畑氏)

実際同社では、Google Appsに関するユーザーからの質問や操作方法のサポートも行っているという。Google自身、こうしたユーザーサポートは積極的に行っていないので、ユーザーにとっては大きな安心材料といえるだろう。Google Appsには興味はあるが、スキル的に不安が残るという方であれば、お勧めかもしれない。

CPIの『シェアードプラン Z シリーズ

ドメインなどの設定を簡単に行うことができる専用の管理画面