SAP エグゼクティブ・バイス・プレジデント グローバル中堅中小企業(SME)事業セールス・チャネル担当 エリック・デュフォー氏

SAPといえば、大企業向けのソリューションが中心で、中小・中堅企業には「高すぎる」「大げさすぎる」「導入に時間がかかる」と思われがちだが、実は「SAPの9万5,000社の顧客企業のうち、77%がSME(Small & Medium Enterprise)、そして過去3年間でSME企業の顧客は3倍増、これは毎日35社ずつ増えているということになる」と同社でSME事業部門を統括するエリック・デュフォー(Eric Duffaut)氏はいう。経営陣が新体制となったこともあって、SAPは今あらためて、SMEに向けたビジネスをワールドワイドで拡大していこうとしているようだ。以下、同社のSME戦略についてデュフォー氏に聞いた内容を紹介しよう。

SAPでは2009年、「SME」の定義を変更している。それまでは年商1,000億円以下の企業をSMEとしていたのを、300億円以下と大幅にしきい値を下げた。以下、SMEという場合は300億円以下の規模の企業を想定している。

SMEのITソリューションと聞いて思い浮かぶのは"手組みの内製ソフトウェア"という向きも多いのではないだろうか。これらは独自にカスタマイズできるというのが最大の強みだが、それは逆に弱みにもなる。デュフォー氏はカスタムビルドの内製アプリケーションには「メンテナンスコストがかかりすぎるため、下手すると作りっぱなしになる可能性がある。また、サステナビリティ(事業継続性)やイノベーションの観点から見ても疑問が生じる」というマイナスの側面があり、これらがビジネスに及ぼす影響が無視できないものになりつつある点を指摘する。コスト増や業務効率の悪化はもちろん、最近ではさらに「グローバル化とコンプライアンス遵守」の2点が果たせなくなる可能性があるという。

グローバル化もコンプライアンス遵守も、ひと昔前は大企業だけの話と思われていたが、今は違う。少子高齢化の影響もあり、国内市場が縮退することが避けられないなか、グローバルに商機を求めるのは何も大企業に限った話ではない。むしろ、SMEこそ海外市場に対して積極的に進出を図っていかなければ、生き残りは難しい。また、グローバル化を図れば、企業倫理も世界共通のものをステークホルダーに示していかざるを得ない。SMEだからコンプライアンスはおざなりになっても仕方ない…という言い訳はもはや世界中どこに行っても通用しないのだ。

「SAPの強みは、SME向けにデザインされたポートフォリオの中から、柔軟な価格および導入オプションを選択できること。SMEが選べるソリューションをここまで豊富に用意しているのはSAPだけ。加えて、グローバルでの使用を前提に作られているため、SMEの海外事業展開をシステム面から支援できること」とデュフォー氏は語る。SME企業の中には、将来の事業拡張には備えたいが、現在は小さな規模のシステムではじめたいと希望するところが多いが、選択肢の多さと統合されたソリューションという強みがここで生きてくるという。また、SAP導入となると「何年もかかる長期間プロジェクト」を想像しがちだが、デュフォー氏は「システムによっては数日、あるいは8 - 12週間からの導入が可能」と実装のしやすさを強調する。

具体的なSME向けERPソリューションとしては、

  • SAP BusinessOne
  • SAP Business ByDesign
  • SAP Business All-in-One

の3つが用意されており、これに加えSAP BusinessObjectsの各種BIツールが視覚化/分析/パフォーマンス管理を提供するというポートフォリオ構成になっている。

SAPソリューションの優位点は「選択肢が多いこと、将来の拡張がしやすいこと、そして価格が手ごろだということ」(デュフォー氏)。"SAP=高い"というイメージはもう昔の話!?

SME向けのSAPソリューション。これにBusinessObjectsの分析ツールを組み合わせることで、それぞれの顧客のニーズにあったシステムを構築できる

ちなみに日本でもSAP導入を果たしているSME企業は少なくない。SAPジャパンでは2009年、BusinessObjectsを含め、新規に783のSME企業を顧客として獲得したという。これにはISID(電通国際情報)と組んで新しくはじめたSAP Business All-in-Oneのサブスクリプションパートナーシップなど、パートナービジネスの展開が進んだことも大きく寄与している。また、国内の顧客の中には他社ERP製品からの乗り換え組が非常に多いことも特徴だ。ユーザ企業の1社である東京化成工業は「グローバルでの業務を改善できるSAPのベストプラクティスを活用したい」とエンドースメントを寄せている。

長らくつづいた不況のトンネルの出口は未だはっきりとは見えていないが、「2010年は、回復基調になる可能性が強い」とSAPは見ている。当然ながらIT投資も増えることが予想されるが、それは何も大企業に限った話ではないという。SAPではSMEビジネスをさらに発展させるべく、新製品の市場投下のほか、ワールドワイドでパートナービジネスに注力し、SME市場へのリーチを拡げていきたいとしている。