PDF電子校正ガイドライン登場
テクニカルコミュニケーター協会は2010年3月10日、「PDF電子校正ガイドライン 初版」を公開した。37ページのPDF文書で、PDFを利用した電子校正作業の手順、具体的な指示方法がまとめられている。主要な指示手順は13ページ分にまとめられており、内容も読みやすく、すぐに業務に利用できる価値の高いガイドラインといえる。
PDF電子校正ガイドラインは、Adobe Readerを使って電子文書の校正を実施する場合の種々の記述方法や、それを実現するためのツールの使い方を簡潔にまとめたもの。Adobe Acrobat Pro 7以降のバージョンを使うとPDFファイルに対してAdobe Readerを使った注釈挿入ができるように設定できるが、この機能を使って注釈可能に設定したPDFをAdobe Readerのみで校正する手順をまとめているところがポイントとなる。古いバージョンのAdobe Readerでも利用できるように基本的な機能のみを使ってシンプルにまとめられており、現場で実施に使える方法として導入しやすい。
PDF電子校正ガイドラインからポイントを抜粋すると次のようになる。
ソフトウェア | 内容および設定 |
---|---|
Adobe Acrobat Pro 7以降 | Adobe Readerで校正作業を実施できるようにPDFファイルの設定を変更するために必要。対象となるPDFファイルを開いて「Adobe Readerで注釈を有効にする」を実施する |
Adobe Reader 7以降 | PDFファイルに注釈をつけるために利用する。異なるバージョンでもいいが、Adobe Readerで注釈が使えるようにしたAdobe Acrobat Proと同じバージョンを使うことが推奨される |
文書校正に必要になるツールだけ表示するように設定する。ツールバーに注釈ツールバーの「ノート注釈」「テキスト注釈」「ハイライトテキストツール」「取り消し線ツール」「ファイルを注釈として添付」「テキストボックスツール」「矢印ツール」「線ツール」「長方形ツール」「楕円ツール」のみを表示させる |
校正指示 | ツール | 指示方法 |
---|---|---|
テキストの削除 | テキスト注釈 | 削除するテキストを選択して「テキストに取り消し線を引く」。必要に応じてポップアップノートで指示 |
テキストの置換 | テキスト注釈 | 置換対象のテキストを選択して「選択したテキストを置換」。ポップアップノートに置換後のテキストを入力 |
テキストの文字間への挿入 | テキスト注釈 | 挿入したい位置を選択して「カーソルの位置にテキストを挿入」。ポップアップノートにテキストを入力 |
テキストの行間への挿入 | 線ツール | 挿入したい行間に線を引き「ポップアップノートを開く」。ポップアップノートにテキストを入力 |
テキストの入れ替え | 矢印ツール、線ツール、長方形ツール、ハイライトツール | 入れ替え対象を長方形ツールやハイライトツールで選択し、矢印ツールで移動先を指定 |
画像への指示 | 矢印ツール、線ツール、長方形ツール、楕円ツール、添付ツール | 指示したい部分を選択し「ポップアップノートを開く」。ポップアップノートに指示内容を入力。差し替え画像などは添付ツールで対象場所に添付 |
そのほかの便利な機能(付録扱い)としては以下がある。
- 校正結果の集約方法
- 履歴管理
- 共有レビュー
- 墨消し機能を利用した一括マーキング
- Adobe Readerで注釈が可能かを見分ける方法
- チェックマークの一括付与/解除
- 表に対して修正指示する場合 (PDF作成時の配慮)
- 校正依頼側の配慮
PDF電子校正ガイドラインにはさらに細かいケースや補足、注記など、実施によく起こるケースを取り上げながら、その場合はどのように指示するかが簡潔にまとめられている。Adobe Readerを使っていることを想定した画像も含められているため、作業するにあたって理解しやすい。
PDF電子校正ガイドラインの末尾には「付録2:PDF 電子校正ガイドライン簡易版」として、校正指示内容が2ページの表示まとめられている。手元においておけばすぐに指示内容の確認できて便利。
ガイドライン登場の背景 - Acrobat/PDFはデファクトスタンダード
文書を扱う出版業界はもちろん、社内文書や製品に付属させる取扱説明書や取り扱い使用書など、企業内外のドキュメントにPDFが利用されるケースが多く、デファクトスタンダートといえる状況にある。さらに、ドキュメントの校正もそのままPDFが使われるケースが増えている。特にAdobe Readerから注釈が扱えるようになってからその傾向は顕著になったといえる。Adobe ReaderでPDFファイルに注釈をつけて送り返す、このやりとりで校正を進めるという寸法だ。
従来の紙ベースの校正と比較して、PDF文書をそのまま校正対象とすることにはいくつもの利点がある。
- 紙ベースでの作業や、校正内容だけを電子データで作成ケースと比べて作業効率がいい
- 字が汚くて校正内容が読めないといったことが起こらない
- 複数のユーザが単一のPDFデータに対して校正を実施でき、実施内容もすべて記録しておくことができる
- 電子データであるため文字検索などが簡単に実施でき、チェック落ちなどを避けることができる
- スペイン語やロシア語、中国語など理解できないドキュメントが含められている場合でも、コピー&ペーストでデータの受け渡しができる
- 動画や3Dデータなどのマルチメディアコンテンツに対しても校正を実施できる(ただし初版はテキストと画像を対象としており、動画や3Dデータに対する校正は今後の版での対応となる)
問題は業界標準となるガイドラインがないことだ。コメントにさらにコメントをつけるなど機能的には実現できるが、実際にやってみると校正がわかりにくくなる。業界内でやり方が違うと相互やりとりでミスオペレーションも発生しやすくなる。手書き校正記号に関しては「JIS Z 8208: 2007」として工業規格が存在するが、電子文書に対してはそれが存在しない状況だ。
今回、テクニカルコミュニケーター協会から公開されたPDF電子校正ガイドラインは「JIS Z 8208: 2007」のように業界標準として幅広く利用できるものを目指したもので、策定に携わった企業や関係者からのベストプラクティスの抽出と整理、業務に取り込みやすいシンプルな内容など注目に値する内容になっている。
テクニカルコミュニケーター協会とは
テクニカルコミュニケーター協会は1992年に任意団体として設立された組織。取扱説明書などで利用されるカタカナ用語表記のガイドライン策定や、作成したマニュアルを評価するガイドラインの策定など、実際に業務に適用できるガイドラインの策定を参加する会員同士によるボランティアベースの活動で取り組んでいる。2009年1月からは一般財団法人として組織化し、活動を継続している。
テクニカルコミュニケーター協会のような団体は世界中にある。テクニカルコミュニケーター協会の場合、100を超える法人会員と200ほどの個人会員で構成され、特にメーカが多数含まれているところがポイントとなる。文書を制作する側だけではなく、制作を発注するメーカも含めてこうした団体が構成されていることは珍しく、このため同団体から策定されるガイドラインには実際にメーカと受注元が作業するにあたって役立つ「生きたガイドライン」になっているという特徴がある。