Juniper NetworksのCEOであるKevin Johnson氏は3月8日、東京証券取引所にて同取引所の常務取締役 最高情報責任者(CIO) 鈴木義伯氏とともに会見を行い、東京証券取引所のネットワーク基盤「arrownet(アローネット)」プロジェクトを順調に支援してきたことを発表した。arrownetにはJuniper Networksのマルチサービスエッジルータ「Mシリーズ」とネットワークOS「Junos」が採用されている。鈴木氏は、「往復2ミリ秒以下のレイテンシを実現できたことで、世界の証券取引所の中でもトップクラスを行くネットワークシステムが構築できた」としている。
東京証券取引所のarrownetは、今年1月4日に本番稼働を開始した次世代株式売買システム「arrowhead(アローヘッド)」をサポートする高速ネットワーク基盤。arrowheadと同等の高速性/信頼性/拡張性を実現するには「レイテンシは2ミリ秒以下、99.999%(ファイブナイン)の可用性」を確保するソリューションが不可欠であり、入札の結果、コアおよびアクセスレイヤを構築するルータとしてJuniperのマルチサービスエッジルータ「M 320」「M 120」が選ばれた。カットオーバーまでにかかった費用は約20億円。
高速性については、「アクセスポイントとセンターを結ぶ高速回線網はWDM(光波長分割多重装置)を用いた光ファイバリンク網を採用、これにより複数の波長を多層化でき、高速化(10Gbs)が実現した」(鈴木氏)という。市場の流動性が高まっている現在、取引の小口化が進んでいることもあって、レイテンシが往復2ミリ秒以下というのは東京証券取引所にとってどうしても譲れないラインであったが、1月のカットオーバー以降、「arrowheadの注文受付レスポンスは2ミリ秒程度、対してarrownetのアクセスポイント⇔業務サーバ間往復レイテンシは1ミリ秒程度」(鈴木氏)に収まっており、一定以下のレイテンシを確保できていることになる。また、「(カットオーバー前の)2009年12月21日の1日合計電文出力数は216万8,495件、これに対し(カットオーバー直後の)2010年1月7日の1日合計電文出力数は762万3,488件。つまり3.5倍の情報配信件数となっている」(鈴木氏)ことから、高速化により、顧客が利用できる情報量が大幅に増えたといえる。
可用性については、地震が多い日本の事情を踏まえながらもあえて"ファイブナイン"にこだわり、また、災害発生時やセカンダリサイト切り替え時(フェイルオーバー)に利用者に意識させないために「利用者接続回線を分散収容(2カ所のアクセスポイント)し、完全異経路および地下埋設率99%の光ファイバリング網(MPLS網: Mシリーズを二重構成で組み合わせている)を構築」(鈴木氏)、大規模地震などの広域災害に対応させている。また、拡張性に関しては、参加者接続回線に5つのキャリアを採用、最大回線帯域を10Mから100Mに拡張し、十分な帯域を確保している。
東証がJuniper Networksを選んだ理由として、「価格と性能のバランスがよかった」(鈴木氏)に加え、ニューヨーク証券取引所(NYSE)など大手の金融ソリューションでの実績が多かったことも挙げられるという。JuniperのJohnson CEOは「金融ITにおいては、"システムはどんなときでもつながっている"ということが大前提。さらに、ローレイテンシ、高可用性、グローバルネットワーキングの3つはマストの要件でありトレンド」と語り、「従来型の垂直統合型、個別要件に応じたポイントソリューションでは限界がきている。Junosという1つのプラットフォームで水平型に制限なくエコシステムを構築できるオープンなJuniperのソリューションは、金融ITのイノベーションを支援する」と自信を見せる。また、日本法人のジュニパーネットワークスで代表取締役社長を務める細井洋一氏は「Juniperがarrownetの完成を支援できたことを非常に光栄に思う。高速性と高可用性、さらに拡張性を備えたこんなにすばらしい金融システムが日本にもあるということを、広く知っていただきたい」と語る。
今後の東証のシステム構築に関して鈴木氏は、「(東証ユーザのうちの)6割を占める海外の投資家に快適な環境を提供できるように努力していきたい」と語り、さらに「技術の高度化はこれからも止まらないだろう。それらをすばやく採用し、より確実で高速なシステムを提供すること、それが東証の役割だ」とまとめ、ユーザの多様な要望に対応したインタフェースを積極的に提供していきたいとしている。